19 戴冠式と宝飾職人
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戴冠式の計画を立てるにあたり、当初アイリーンたちは国内貴族と民へのお披露目を主に考えていた為、他国から来賓を多数招待する事には消極的だった。と言うのも、賓客を多数招けば、式の規模も警備の負担も莫大になってしまう。その為に貴重な税を費やすよりも、まだまだ足りない所のある国の事業に使った方が良いと、二人とも考えたからだった。
しかしそう話す二人に、国王陛下は異議を唱えた。
「戴冠式に招かれた他国の客人は、自国が我が国に尊重され、かつ両国に確かな繋がりがあることを確認できる。
また、元首や王族が招待された国の民も、自分達の指導者が戴冠式に招かれたと知り、お前たちを共に祝福する気持ちを持ち、我が国に親しみを持ってくれるだろう。
この戴冠式は、この国の者の為だけではない。多くの国や人を、お前たちと我が国に結びつける事が出来るのだ」
それを聞いたアイリーンとエドワードは納得し、考えを改めて各国へ招待状を送った。
送り先には、既に友好関係を築いている国はもちろん、これから良い関係を築きたい国も含まれていた。中には参列を断る国もあったが、こうして友好の種を蒔く事で、今後の関係改善につながっていく事を二人は期待した。
後々この種が芽吹き実るたび、アイリーンとエドワードは、あの時陛下の教えを受け入れて良かったと語り合った。
そして着々と準備が進み、遂に戴冠式があとひと月となった時、ビルからパリュールが完成したという知らせを受けた。
いつかのように迎えの馬車に乗り、ビルは王宮へ向かっていた。膝の上には本日王家に納める、パリュールの入ったケースが乗っている。遂にこのパリュールをアイリーンに披露するのだと、ケースを持つビルの両手は我知らず震えた。
(俺に出来る全ては尽くした)この二年間、精魂込めて励んだ自分をビルは信じた。
以前と同じ奥向きの小さな応接室に通され、香り高く美味しいお茶を供されたが、ビルは今日ばかりは口を付けられなかった。ノックの音がしてビルは立ち上がり、侍従が扉を開けるとアイリーンに続いてエドワードが入室した。
アイリーンは礼を取るビルに「座ってちょうだい、ビル。今日を楽しみにしていたわ」と声をかける。エドワードにエスコートされたアイリーンが着席し、続いてエドワードも座ってからビルも腰を下ろした。
エドワードには、パリュールの制作過程でその都度確認してもらっていたが、アイリーンは最初の図案を見て「すごく素敵ね」と了承してから「私は完成品を楽しみにする」と言って、途中経過を見ていない。
「このパリュールなら、絶対にアイリーンは気に入るでしょう」とエドワードからは保証してもらったが、初めて見るアイリーンは何と言うか、ビルは緊張で汗をかいた。
「それじゃあ、見せて貰えるかしら」
アイリーンの声に従い、ビルはテーブルに置いたビロードのケースを開いた。
パリュールのモチーフは、月桂樹と太陽だった。
月桂樹は栄光、勝利、輝ける未来を意味し、太陽はあまねく生き物を照らし、生きる力を与え導くもの。ビルは、彼女の新たな治世を象徴するものとして、戴冠のパリュールにはこの二つがふさわしいと考え、選んだ。
ティアラの円周部分は、月桂樹の葉を形作った金細工でぐるりと編み上げた。
その葉の間から太陽が顔を出すように何本も黄金のレイ(光線)が伸び、その一本一本に散りばめられたダイアモンドが眩い輝きを放っている。そしてティアラの正面、放射状に伸びるレイの中央に位置する太陽として、大粒のイエローダイアモンドがはめ込まれていた。
ネックレス、ブレスレット、イアリング、ブローチ、指輪、パリュールの全てが同じ月桂樹と太陽のモチーフで作成され、黒いビロードの上で輝きを放っていた。
「図案を見た時に想像した以上よ、ビル。素晴らしいパリュールだわ」アイリーンは太陽の輝きに目を奪われながら、賛辞を贈った。
「この月桂樹の金細工、ビルらしく本当に繊細で美しい。それに、太陽が昇る輝きが目に見えるようね。この輝きに負けないように、立派な女王にならなければと気が引き締まったわ」
「ありがとうございます。殿下の治世が栄光に満ちて、国を照らす太陽であって欲しいという願いを込めました」ビルはアイリーンを見つめ、パリュールに込めた想いを伝えた。
「アイリーンの戴冠にふさわしいパリュールだと思うよ、ビル。ありがとう」ほっとしたビルへエドワードも感謝を伝えると、
「王配殿下の用意してくださったイエローダイアモンドのおかげで、ティアラの中心にふさわしい太陽を据える事ができました。私こそありがとうございます」ビルもエドワードに向かって頭を下げた。
この大粒のイエローダイアモンドは、ビルには到底手に入れる事は出来ない品だった。しかしビルは、アイリーンを支え続けたエドワードの色こそ戴冠式のティアラの中心に相応しいと思っていたので、ビルの希望を受けてこれを用意してくれた彼に心から感謝していた。
「これで、戴冠式が済んだらビルは女王陛下御用達になるのね」
アイリーンがエドワードのエスコートで立ち上がり、ビルも慌てて立ち上がると、後ろに控えていた侍従が赤いビロードに包まれた細長い包みを彼女に手渡した。
「ビル。私の宝飾職人として、これからもよろしくお願いします」とアイリーンはその包みをビルに差し出した。
ビルはうやうやしくそれを受け取り、以前と同じく慎重に包みを開いた。
《女王陛下御用達》と飾り文字の彫られた金プレートが目に入った時、ビルの脳裏にあの祭りの日、アイリーンに初めて出会った日の事が蘇った。
アイリーンの瞳の色の石を探して作った金のブローチを前に、石の何倍も美しい菫色の瞳を輝かせ、『見て、私の目の色と同じよ』と言ってくれた殿下に恋をして、『王太女がとても気に入ったと伝えてください』という言葉に導かれてここまで来た十五歳だった自分。あの時の俺が今の俺を知ったら、きっと『すごいな、お前。よくやった』と褒めてくれるだろう。
「これからもこの名に恥じないよう、腕を磨き続けます」ビルの誓いの言葉を受け、アイリーンは「期待しています」と笑顔で答えた。
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