20 女王陛下の宝飾職人
読んで下さってありがとうございます。
戴冠式の日はアイリーンとエドワードの結婚式のように、良く晴れた美しい日になった。
大聖堂には午前中から国内の貴族、各国の賓客が集い、厳重な警備の中、国王陛下、王太女殿下、王配殿下、そしてアーサー王子、ソフィア王女、ルイ王子が入場し、神聖な雰囲気の中で戴冠式の幕が開けた。
まず始めに現国王陛下が退位を宣言すると、集った者達から陛下の今までの導きと功績に感謝する拍手が巻き起こり、アイリーン、エドワード、子どもたちも皆と一緒に揃って拍手を送り、それが静まったところで陛下が簡潔にスピーチを行った。
「私の在位期間中、この国を疫病や水害など逆らいようのない災害が襲い、近年は稀にみる悲劇が起こった街も出してしまったが、皆の力があったからこそ乗り越えて来られた。
力及ばない王であったと思うが、今ここで皆に拍手を送ってもらえることは、身に余る光栄で喜びだ。どうかこれ以後は、私を継ぎ王として立つ娘、アイリーンをこれまで同様皆が支えてくれる事を願っている。最後に、今日ここには共に立てなかった亡き王妃の献身と、その全てに感謝して王位を退く」
王のスピーチに再び集まった人々から拍手と歓声の上がる中、陛下は皆に手をあげてアーサー王子の隣の席へ下がった。代わってアイリーンがエドワードのエスコートで祭壇の前に進み出て、エドワードはそのまま数歩下がった位置に立つ。
アイリーンが祭壇の前にひざまずくと、大司祭が王家に伝わる王冠を彼女の頭上に載せ、神の御前でアイリーンの王位継承を宣言した。
王冠を戴き立ち上がったアイリーンに続き、エドワードも同様にひざまずいて大司祭に王配の賜る冠を授けられた後、祝福を受けた。
エドワードが立ち上がってアイリーンの横に並び立つと、アイリーンは人々に向かい女王就任を宣言した。
「私、アイリーン・カーツァイトはカーツァイト王国第十三代女王となった事を今日ここに宣言いたします。私はこの身を賭して、カーツァイト王国の平和と安寧に尽くす事を誓います」
ひときわ大きな歓声が上がり、大聖堂に集まった人々が全員起立してアイリーンに拍手を送った。アイリーンとエドワードは、観覧席の間に敷かれた赤いカーペットをゆっくりと進み、二人並んで退出した。
その頃街の中は戴冠式後の王宮へのパレードを一目見ようと、群衆が溢れていた。
以前と同じく王都へ出て来たマシュー伯父さんと一緒に、ビルは噴水広場の特等席に立っていた。そして、マシュー伯父さんの隣にはセシールとジョージが並び、昔話に花を咲かせていた。
あれからカンラの街が落ち着きを取り戻した頃、決心した通りにジョージは王都を訪れ、セシールへ想いを打ち明けた。その時、セシールもジョージに同じ気持ちを返したものの、リリーがデビュタントを迎えるまでは王都で見守っていたいと願った。
その気持ちをジョージは受け入れ、それからはお互い頻繁に手紙を書き、ジョージは機会のある度に足繫く王都へも通った。
そうして二人は愛を育て、奇しくもアイリーンの戴冠直前にリリーのデビュタントが無事に終わり、セシールは戴冠式を見届けた翌日、このままジョージとカンラへ向かう事になっていた。
「本当に良かったなあ、セシール。ジョージは、愛想は無いけどいい奴だから、きっと幸せになれるよ」マシュー伯父さんは、パレードそっちのけでセシールとジョージを祝福していた。セシールはもう目を赤くして「マシューさんのおかげです。私をあの時王都で見つけてくれて、ありがとうございました」と答え、ジョージでさえ「マシューさん。セシールにまた会わせてくれてありがとう」と素直に礼を言った。「そうだろう、俺のおかげだぞ」と得意げなマシューも目には涙が滲み、二人を嬉しそうに見ていた。
そんな三人をよそに、ビルは今か今かとアイリーンの馬車が来るのを待っていた。
(今日が晴れて本当に良かった。陽の光の下で、ティアラの太陽は燦然と輝いてくれるだろう。女王陛下の栄光をきっと皆に届けてくれる)
やがて群衆のざわめきが近くなってきて、噴水広場に近づいてきた。
八頭立ての王家の馬車は二台連なり、先頭の馬車には女王になったばかりのアイリーンとエドワードが、続く馬車には先王陛下とアーサー王子、ソフィア王女、ルイ王子が乗っている。
大きく開け放たれゆっくりと進む馬車の中に、ビルのパリュールを身に着けたアイリーンが、こちらを見て微笑み、手を振るのをビルははっきりと見た。
ビルのティアラはアイリーンの頭上で光り輝いていた。
栄光と繁栄の月桂樹に包まれ、今まさに女王となったアイリーン自身が持つ人々を照らす明るさと力を表すように、群衆の歓喜の声に包まれ輝きを放っていた。
ビルはいつかのように、アイリーンに向かって胸に手を当て会釈をした後、思い切り両手を上げて叫んだ。
「女王陛下万歳‼」
セシールも、ジョージも、周りにいた人々も、それに続いて皆口々に
「女王陛下万歳!」 「王配殿下万歳!」 「女王ご夫妻万歳!」と叫び、マシューはアイリーンのパリュールを目を皿の様にして見つめた後「万歳!」と叫んでビルの背中をバンバンと叩いた。
「エド、みんないるわ」アイリーンは涙がにじむのを懸命にこらえながら、エドワードにささやいた。
「ああ。伯父さんはまたパリュールしか見ていないね」エドワードが笑う。
「セシールの隣にいるのがジョージね」
「ああ、そうだ。彼らはやっと一緒になるらしい」
二人は囁き合いながら群衆に笑顔で手を振って、馬車は無事王宮に到着してパレードは終わった。
パレードも終わった街は、浮き立った気分のまま夜を迎えつつあった。
灯亭では、今夜セシールとジョージの祝いと送別会も兼ねた宴を開く事になっている。
今日はどうしてもガラス工房に行かなければならなくて、パレードを見られなかったキャスリンも合流して、賑やかな夜になるだろう。
ビルもマシューと二人で誘われたが、今日はどうしてもセレンディピティへ行きたいビルは断った。王太女殿下が女王陛下になった今日は、出会いの奇跡を思いながら、他でもないマシューと二人であの店へ行きたかった。
セレンディピティに行く前、ビルはマシューと二人で『王太女殿下御用達』のプレートを外し、綺麗に磨いて布に包んでから、新しく『女王陛下御用達』と彫られた金色のプレートにかけ替えた。
ビルはマシューに、このプレートを替える時、一緒にいてもらいたいと前もって頼んでいた。
新しくなったプレートを、二人は並んで見つめた。
「おじさん、ありがとう」ビルが不意に言うと「なんだよ。いきなり」マシューが狼狽えた。
「全部だよ。俺の事を隣の国まで迎えに来てくれた事も、大事に育ててくれた事も、宝飾職人にしてくれた事も、王都に出してくれた事も全部感謝してる。伯父さんがいてくれたから、俺は夢を持つことも、叶えることもできた」
マシューはビルが話している途中から、涙が止まらなくなった。
「何言ってるんだよ。お前が努力したから、女王陛下御用達になれたんじゃないか。それに俺だって、お前があの時生きててくれて、どんなに感謝したか分からねえ。俺の人生に喜びをくれたのは、間違いなくお前なんだよ」
ビルは、以前より涙もろく、少しだけ小さくなった伯父を抱きしめ「これからも元気でいてくれ」と願った。
祝福の明かりが灯る王都の街で、二人の宝飾職人はもう一度『女王陛下御用達』の文字を見つめて、幸運な偶然の待つ居酒屋へ向かって歩き出した。
女王陛下の宝飾職人 完
女王陛下の宝飾職人、これにて本編完結です。初めて書いたつたない小説を、読んでくださった全ての方に感謝しています。一体どこへ行きつくのか自分でも不安でしたが、目標であった完結は何とか達成出来てほっとしています。
これから不定期で、番外編として書ききれなかった人々のエピソードや、その後を少しずつ書いていきたいと思っています。
また、今日から『残念ながら全部聞こえてます~召喚聖女は誰を守るか自分で選ぶ』という新しいお話を投稿します。題名そのままの作品です。読んでいただければ嬉しいです。
https://syosetu.com/draftnovelmanage/updateinput/ncode/3163929/




