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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第三章

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12 ジョージ・アレンの決心

見つけてくださってありがとうございます。

数週間をかけて後処理を終え、エドワードが王宮へ戻る日がやって来た。

王領になったカンラ周辺は、新たに男爵位を授与され貴族に戻ったジョージが、代官として任せられる事になった。話に聞いていた通り、ジョージはカンラに精通していて、エドワードは安心して後を託す事が出来た。


「ジョージ。まだ街の中は混乱しているし、人々の傷も深い。これから先も問題が多々起こると思うが、王家も手を尽くすのでよろしく頼む。要望や報告があれば、いつでも遠慮なく言ってきてくれ」

「はい。ありがとうございます。全力を尽くします。…そういえば聞いていませんでしたが、なぜ、カンラにこんなひどい事が起こっているのが分かったんですか。

人の出入りも、郵便も、マルサリスの奴らは全て監視してましたよね。乗合馬車の御者も一味の人間でしたし」

ジョージはカンラに到着してから怒涛の様に過ぎていく日々の中、気になっていたが聞きそびれていた事を思い出し、エドワードに尋ねた。


「しまった。私も大事な事を話すのを忘れていた」エドワードも今さら気が付き、慌てた顔をした。

「アルカン村にいたセシール嬢を覚えているだろう。彼女が王都に来る途中で、ここで危ない目にあったんだ。その時の話を聞いて、私たちは初めてカンラの現状を知ったんだよ。彼女のおかげで分かったんだ」


ジョージはセシールの名前を聞いて驚いた。

「殿下はセシールをご存知なんですか。なぜ…」そこまで言いかけたところで、キリアンが王太女殿下の元婚約者だった事を思い出し、ジョージは口をつぐんだ。


その様子を見たエドワードは苦笑いして、セシールに話を聞いた経緯を説明してくれた。

「セシール嬢は王太女殿下…アイリーンの侍女だったんだよ。アイリーンは婚約解消以来、ずっと彼女を気にかけていたが、彼女がアルカン村を出てから行方が分からなくなった。

それが、王都に来ていたマシューさんが偶然彼女を見かけて、所在を突き止める事が出来たんだ。マシューさんの甥のビルの仲介で彼女に会いに行って、村に行ってから王都に戻るまでの話を聞いたんだ。セシール嬢は今、王都の灯亭っていう食堂で働いているよ。

マシューさんはその話を知っていると思ったけど、ジョージは知らなかったのか。マシューさんは村長には教えてないのかな」


「私はマシューさんから村長に宛てて、セシールが王都にいたと知らせる手紙が来た事は知っていました。しかしセシールは伯爵家にいると思っていたので、彼女が食堂で働いていると聞いて驚きました。それに、ここで危険な目にあっていた事も全く知らなかったです。

マシューさんにもカンラに立つ前に挨拶したんですが、セシールとカンラの話は一言も出ませんでしたし」

脱力したように話すジョージをエドワードは気の毒そうな目で見て、話を補足した。


「カンラの件は大事になるのが分かっていたから、ビルがマシューさんに伝えなかったんだろう。私たちもセシール嬢に、カンラにどう対処するのか、詳しい話はしなかった。

だから王都に帰ったら彼女に会って、きちんと話さなければと思っている。セシール嬢が王都で話してくれた事が、カンラの救出につながったんだからね。

セシール嬢は、ここで侍女の形見のペンダントを含めて全財産盗まれたんだ。それで馬車代も無くなって、王都まで歩いてたどり着いたんだよ。途中で納屋に泊まったと言っていたな。三年も前の事だから没収した盗品の中に残っていないと思うが、もしそれらしいペンダントがあったら、彼女の為に取っておいてくれないか」


「ハンナさんのペンダントですね…分かりました。それにしても、セシールはよく無事にこの街から王都まで歩けましたね」

非力なセシールが歩いて王都まで行ったと聞いて、今更ながらジョージはヒヤリとした。

「王都にたどりついてすぐ倒れて、今働いている食堂の女将さんが助けてくれたと言っていたから、正確には無事とは言えないがね。彼女は、王都にたどりつけたのは、ハンナさんが守ってくれたのだと言っていたよ。

それとひったくりに遭った時、親切な女性が彼女にこの街の実情を教えて、荷物は諦めて早く街を出ろと忠告してくれたそうだ」

「そうだったんですか」

ジョージは、セシールが何事もなく王都まで歩けたのは確かに奇跡で、本当にハンナのおかげかもしれないと考え、セシールを愛したあの忠実な侍女を思い浮かべた。


その時エドワードが「彼女は、君のあげたブローチをまだ持っていたよ。私たちと会う時にも着けていた。ビルの伯父さんの作品だそうだね」と聞き捨てならない事を言いだした。


「あれは盗られてなかったんですか。それならセシールは、何で売らなかったんだ。馬車代位にはなっただろうに」

ジョージは、自分がブローチの贈り主と知られていたのには気づかず、なぜそれで馬車代を捻出しなかったのかと、思わず声を荒げた。

言ってしまってから、王配殿下の前でと慌てて謝罪したが、エドワードは「彼女にとって馬車代より大切な物だったからだろう」と答え微笑んだ。


その日の内にエドワードは王都へ戻って、残ったジョージはセシールの事が気になりながらも、カンラの街の復興に尽力する日々を送った。


―セシールが姿を消したあの日。

仕事を済ませたジョージがジャックの家に戻ると、マリー達がセシールの使っていた部屋に集まっていた。アンもマギーもセシールの残した自分宛ての手紙を読み「黙って行っちまうなんて、水臭いよ」と目を赤くしていた。

マリーは部屋に入って来たジョージに気付くと「セシールが出て行ったんだ。ジョージに宛てた手紙もあったよ」と手紙を差し出してきた。

そして「セシールは色んな事があり過ぎて、一人になりたかったのかもしれないね」と誰ともなしにつぶやいた。

手紙を受け取って部屋を見回してみると、ジョージがあの家から運んだセシールの荷物は何も残っておらず、彼女が本当に行ってしまったのだと分かった。

ジャックが自分宛ての手紙を読み「預かってた金を、村とハンナさんの供養に使ってくれと書いてある」と言うと、「お金なんて残さなくても、皆ハンナさんの所に行って花を手向けるよ」とマギーが怒りながら泣いた。


ジョージは手紙を持って、黙って自分の部屋に帰った。

セシールが王都に戻るのは知っていたから、自分の想いが届くとも、一緒にいられるとも思っていなかったが、こんな風にいきなり姿を消すとは考えておらず、別れの挨拶一つ言えなかった事が辛かった。

セシールからの手紙には、親切にしてくれてありがとうという礼とブローチを大切にするという事、そして最後に『ジョージさんと領都に行く馬車は、私が安心していられる場所でした』と書かれていた。その下にかかれたセシールという名を見た時、ジョージは父母が亡くなって以来初めて涙がこぼれた。彼女を守りたかったのに、守れなかったという、後悔だけが胸の中に残った。


それからもジョージはアルカン村で、皆と一緒に変わらない暮らしを続けた。

毎月帳簿を持って領都に通い、時にはマシューの店に顔を出して軽口を言い合い、やがて皆がセシールの無事を祈りながらも、彼女の事を思い出話のように語り始めた頃。

王都で王太女殿下のご成婚があり、マシューは甥のビルが殿下のパリュールを作ったと言い、自分の事の様にひどく緊張しながら王都へ出かけて行った。


それからしばらくして、ジャックがマシューからの手紙を読んで大きな声を出した。

「セシールが王都にいたらしいぞ」

ちょうど一緒に執務室にいたジョージは持っていた書類を取り落とし、慌てて拾った。

「マシューがビルと一緒に見かけたそうだ。ビルが、クロス伯爵に知らせると言ってる」

「そうなんですね。無事だったなら、良かった」


それからというものジョージは、セシールが元気でいてくれただけで良いと思いながら、もう一度会いたいと願う様になった。

しかし、王都はアルカン村からは遠く、おいそれと出かけて行ける訳もない。それに伯爵家に戻ったセシールに、平民の自分が会って何を言えるというのだろう。

悶々としながら過ごしていたジョージに、ある日兄のアレン男爵から連絡があり、自分がかつて代官の仕事をしていたカンラの驚くべき話を聞かされた。


それから突如男爵位を授けられ、王領となるカンラの代官に任ぜられたジョージは、村の皆への挨拶もそこそこにカンラへ出立した。

カンラに着いて、馴染み深い街の惨状を前に奮い立った彼は、最初は恐れ多かった王配殿下と行動を共にし懸命に働き、普通に話が出来る程の協力関係を築けた。

そして今、まさか王配殿下からセシールの居場所を教えられるとは、ジョージは夢にも思っていなかった。


今はカンラの復興の為、力を尽くす時だと分かっている。

だから自分の出来る限りの事をして、街が落ち着いたと思えたら、俺はセシールに会いに王都に行こう。そしてブローチをずっと持っていてくれた彼女に、今度こそ言いたかった事を伝えよう。

ジョージは決心した。


読んでいただき、ありがとうございます。


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