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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第三章

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7 王太女殿下の逆鱗

見つけてくださってありがとうございます。

「そう。そのジョージさんも良い人なのね。でも、きっとセシールが努力していたから、皆が認めて親切にしてくれたのだと思うわ」

ね、とアイリーンはエドワードに同意を促し微笑みかけた。

エドワードもうなずいて「周りの人が力を貸そうと思う気持ちを、あなたが引き出したんでしょう」と言ってくれ、セシールは驚いたが嬉しかった。


エドワードは続けて「クロフト領から王都に来る時は、一人で乗合馬車を使ったんですよね。その時は大丈夫でしたか」と尋ねてきた。

セシールはその質問にあの街での出来事を思い出し、忘れられない怒りがよみがえった。

「クロフト領から王都へ行く最後の乗り換え場所の街は、本当にひどい所でした」

セシールは、あの日の事を覚えている限り、アイリーンとエドワードに話した。


引ったくりに突き飛ばされ、お金も、ハンナの形見も、一歳のリリーの絵姿も全て奪われた事。

憲兵はそれを見ているだけで、捕まえて欲しいと訴えたら嘲笑された事。

災難につけ込んで自分を買おうとする男まで現れ、憲兵は男を止めるどころか、そうしろと勧めてきた事。

最後に、実はあの街では一連の全てが仕組まれていると、街の女性が教えてくれた事まで全部話した。


「私は何とか無事に王都にたどり着きましたが、あの時忠告してくれた女性の言葉を聞かず街に留まっていたら、あの街を無事に出られたのか分かりません。

王都までの街道を襲われず歩いて来られたのは、ハンナが守ってくれたからだと思っていますし、今生きていられるのは、王都で行き倒れそうだった所をモニカさん…今の雇い主が助けてくれたからだと思います」

セシールが語り終えた時、アイリーンの瞳の菫色は濃い紫色のように深まって見え、エドワードもビルも(これは逆鱗に触れたな)と考えていた。


「セシール、本当に大事な話を聞かせてくれてありがとう。今こうしている時も被害者が出ていると思うから、この件は私が迅速に対応すると約束する。人々の安全と治安を守る為に憲兵がいるのに、悪事を助けているなんて許せないわ。

エド、憲兵は領主の管轄よね。あそこはクロフト領で良かったかしら」


静かに尋ねるアイリーンに、エドワードはうなずき「クロフト領だ」と答えた。

「ダニエル・クロフト公爵ね」アイリーンは(また後で)とエドワードに唇で伝えた。

ビルはそれを横目で見ていて(弟といい、領地の代官といい、クロフト公爵は運が無いな。いや重なるって事は、自業自得な面もあるんだろうな)などと考えていた。


そこでアイリーンが、嬉しそうに話を変えた。

「そういえば、セシールのお兄様が結婚するのは、生徒会で一緒だったシンシア・バーリ男爵令嬢なのよ。彼女はとても優秀で、私がお願いして生徒会に入って貰った人なの。爵位が低くて嫌な思いもしたと思うけど、熱心に応えてくれた誠実な人よ。

彼女の最初の結婚は辛いものだったけど、クロス伯爵とこうして一緒になれるなら、結果的には良かったのかもしれないわね」

セシールもそれを聞いて明るい表情になり「そうなんですか。私は学年が離れているので、バーリ男爵令嬢の事は全く知らなかったんです。

先日兄と話をした時に、その方と学院時代から想い合っていたと初めて聞きました。

あの両親ですから、兄が男爵令嬢と結婚したいと訴えても全く聞いてくれなかったそうです。

私のした事で唯一良い結果を導けたのは、兄が爵位を継いでその方と一緒になれる事かもしれません。殿下は、学院で兄がバーリ男爵令嬢と親しかったのはご存知だったんですか?」


エドワードは一瞬吹き出しそうになったが、アイリーンににらまれグッとこらえた。

アイリーンは澄まし顔で「そうね。皆が知っていた事だったのよ」と答えた。

「じゃあ、本当に幸せですね。兄も『彼女と生きられるのが一番大切』なんて言っていたんです」セシールが頬を染めて話すと「学院時代からの愛が実るなんて、素敵な事ね」とアイリーンも訳知り顔でうなずいた。


セシールはそれから居住まいを正して「殿下はご存じだと思いますが、娘、リリーを兄が正式に養女にして、伯爵位を継がせる事になりました。兄とバーリ男爵令嬢が結婚してリリーの親になり、慈しんで育ててくれると思います。兄がずっと想っていた女性なので心配はしていませんでしたが、殿下のお話を聞いて、より一層安心することが出来ました。ありがとうございます」


「セシール。色んな事があったあなたが、今もそうして人を信じていられる事を私は尊敬するわ。

以前のあなたも純粋に人を信じる心が綺麗だったけど、今は強くなって一人でも生きられるのに、変わらないでいる心が何倍も美しいと思う。

私は、この国をあなたのような人たちの為にもっと良くするから、見ていてちょうだい」


「殿下。私、死にたいと思っていた時、侍女のハンナに『生きて王太女殿下の御代に少しでもお役に立てたら、その方がよほど罪滅しになる』って言われたんです。その時は、私が殿下のお役に立てる日が来るなんて想像できませんでしたが、もし私が少しでもお力になれるなら、何でもおっしゃってください」

「ありがとう。セシール」


アイリーンとエドワードが城へ戻った後、しばし放心していたセシールだったが、ずいぶん遅い時間になっている事に気づき、慌ててビルに詫びた。

「すみません、ビルさん。こんなに遅くなっているなんて気づきませんでした。帰ります」

ビルは空腹だった事もあり、セシールを引き留めて「もう遅いから、一緒に居酒屋でも行かないか」と誘ってみた。

「居酒屋ですか。私はお酒も飲んだ事がなくて、行った事が無いんです」

「ほんとか。灯亭でエールとか飲まないのか」

「はい。あれは売り物ですから」「確かに、売り物だな」セシールの返事になんだかビルは笑えて「じゃあセシールは飲まないで良いから、メシだけ食おうや。腹が減っただろ」

セシールはさっきまで緊張のあまり空腹を感じていなかったが、ホッとしたら急にお腹が空いて、「はい」と笑顔で答えた。

ビルはその屈託ない顔を見て、セシールの娘がちゃんと大事にされている事、アイリーンとセシールが再会して昔を許された事が、セシールの心を取り戻させたんだなと思った。



「エド、あの街の話は許せないわ」

城に帰ってすぐ、アイリーンが怖い顔でエドワードに話し始めた。


「憲兵組織はそれぞれの領で作っているけど、その質は結局領主に左右されてしまうのよね。

領主が町や村を代官に任せるのは分かるけど、代官を監督する責任は領主にあるでしょう。

ダニエル・クロフトの任せきりでほったらかしっていう姿勢が、代官と憲兵をのさばらせたんでしょうね。

私は今回は許さないつもりよ。

クロフト公爵は、キリアンが凶悪事件を起こしたと知っても、平民のやった事だからって我関せずだった。あの時も、あれ程の事件の発端が公爵家なのに、あの態度はどうかと思ったわ。

婚約解消騒動の時は関わっていなかったけど、今回は彼が領主なんだから、きちんと対処させるわ。エド、出来るだけ早く、その街の実態を調べさせてちょうだい」


エドワードは自分も、キリアンが平民になってからは正直どうなっても構わないと思っていたので、ヒヤリとした気持ちでアイリーンの怒りを受け止めていた。

しかし自分でさえ、アイリーンの為とは言えセシールの事は気遣っていた訳だし、元々はクロフト公爵家の不祥事でキリアンはダニエルの弟だ。

それを考えるとあの惨事の時、確かにダニエル・クロフトは関知しなさ過ぎた。

まして今回の件は、彼の領主としての怠慢だから話が違う。


あの時の失点を補う為にも、全力で迅速に調べ上げよう、そうエドワードが決めたところで、アイリーンがふいにこんな事を言いだした。

「それにしても、オパールのブローチをくれた人、ジョージさんが気になるわね。

考えてみればセシールは、あのブローチは取られなかった訳でしょ。

それを売れば馬車代も払えたのに王都まで歩いて、今もああして大切に持ってる。

なんだか良い話な気がするわ…。この際だから、その人の事も調べましょう。

そっちは、ビルの伯父さんに聞いてもらえばいいわね」



読んでいただき、ありがとうございます。


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