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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第三章

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5 王太女殿下と元侍女

見つけてくださってありがとうございます。

最初の灯亭訪問の後、ビルは伯父さんに連絡して、アルカン村で起こった出来事を詳しく聞いた。

以前エドワードに頼まれ、伯父さん経由で村長のジャックを紹介した経緯があったが、その時は自分にはそれ以上関係無い話だと思っていた。

しかし今回ひょんな事から、伯爵家の兄妹の再会を手助けする事になってしまった。

そうなるとセシールは今近所に住んでいて、彼女を気にかけている王太女殿下の事もあり、アルカン村の出来事を何も知らないままではいられないと思ったからだ。


そうして話を聞いてみると、セシールを襲った出来事の悲しさに胸が詰まった。

やっと悪縁を断ち切り、希望を見出して前に進もうとしたところに舞い戻って来た災厄。

大きな犠牲を払って生き残った後、誰にも告げず村を離れひとり王都で過ごすセシールが、本体の無い影法師みたいに見えるのは、きっと心をどこかに置いてきてしまっているからだろう。


ビルはまた、自分が孤児になって伯父さんに育てられた身のせいか、クロス伯爵に育てられているセシールの娘も気になった。

貴族の家族の在り方はよく分からないが、その娘も自分同様に、健やかに愛されていてくれたらと思う。これからセシールと伯爵の間で決められる事が、子どもにとって良い事であるようにと願っていた。


だからキャスリンからまた灯亭へ行こうと誘われた時は、二つ返事で承諾した。

前回同様、お互いの店が終わってから訪れた灯亭では、やはりセシールが元気よく二人を出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。今晩の日替わりはチキンのハーブ焼ですよ」

「私、ハーブ焼き大好き。それにするわ。それとエール。ビルはどうする?」

「俺もそれで。エールも頼む」

「はい!モニカさん、日替わり二つお願いします」

二人はまたカウンターに座り、エールを運んで来たセシールにビルは尋ねた。

「この前、伯爵とちゃんと話せたかい」


セシールはにっこりと笑い「はい。ちゃんと話せました。もう、ビルさんやキャスリンさんにお兄様がご迷惑をかける事は無いと思います。ご心配かけました」と落ち着いて答えた。

「そうか。良かったな。…俺の伯父さんも心配していたから、もしセシールが良ければ、詳しい話を聞いても良いかな。話したくないなら、遠慮なく断ってくれ」

ビルはマシューからセシールの今の状況も聞かれていたし、自分も話し合いの行方が気になっていたので、人目の無い所で話せたらと思って聞いてみた。


セシールはビルがもう何もかも知っていると感じ、自分も村の皆がどうしているのか気になっていたので「そうですね。私も、マシューさんの事を聞かせて貰えると嬉しいです。またここの定休日で良ければ、お話させてもらえますか」と承諾した。

そうしてビルは次のセシールの定休日、宝飾店の閉店後に店に来てもらう約束をした。

二人が話す間、モニカもキャスリンもやり取りは聞こえていたが、その場で口を挟まず何も聞く事もなく、話が終わるとやがていつものやり取りに戻っていった。


その次の日、ビルはエドワードから手紙を受け取った。

「王太女殿下の新しいジュエリーの話かな」ワクワクしながら手紙を開いたが、読み終わったビルは、どうしたら良いのか頭を悩ませた。

手紙には、アイリーンがセシールから話を聞きたいと言っている事、出来ればビルに面会の調整をしてもらえないかと書かれていた。

ただ、話を聞くと言ってもアルカン村で起こった事件についてではなく、貴族から平民になった時に困った事、気づいた事、理不尽に感じた事が無かったかを知りたいので、そこは安心して欲しいともあった。


「全く安心できないな」ビルは独り言を言ってぼやいてみたが、この手紙を放っておける訳はない。

次の月曜日の約束が頭をよぎり、やはりまずはセシールに聞いてみるかと重い腰を上げて、開店直後でまだ客のいない時間に灯亭へ出向いた。

「今日は早いんですね」驚きながら迎えてくれたセシールを店の隅に連れて行き、声をひそめて「殿下が君に会いたいって言ってるんだ」と伝えた。


「王太女殿下がですか? どうして」セシールは驚きの余り大きな声が出て、口元を押さえた。厨房のモニカはちらりとこちらを見たが、何も言わず下ごしらえを続けていた。

セシールは、アイリーンが自分を気にかけてくれていた事が分かったので、責められるとは思わなかったが、なぜ平民である自分に会う必要があるのかは分からなかった。

一瞬キリアンの事がよぎり事件についてかと不安になったが、その不安は「村の事件の話じゃなくて、平民になった貴族としての話が聞きたいらしいよ」とビルが言ったので払拭された。


「平民になった貴族として、ですか」

「うん。俺もよく分からないんだが、今進めてる法の整備にも関係するらしいよ。セシールが平民になった時、自分も周りも困った事があっただろう?王配殿下の手紙によれば、そう言う事が聞きたいんだってさ」

「王配殿下もいらっしゃるんですか」

侍女だった時に失敗続きだったセシールは、正直言ってエドワードが苦手だった。

あの庭園でアイリーンに解雇を言い渡された時も、後ろに付き従っていたエドワードの冷たい目つきを覚えている。あの時彼は、心底自分とキリアンを軽蔑していた。


ただあの時自分達は軽蔑されて当然だったし、パレードで見たエドワードは、心底愛しそうに殿下を見て喜びに溢れていた。

今回殿下と一緒にいらっしゃるのなら、あの冷たい目は向けられないだろうと、記憶にこびりつく怖さを飲み込みセシールはうなずいた。

「分かりました。お二人がいらっしゃっても、取り乱さず、出来るだけちゃんとお話が出来る様に頑張ります」

「まあ、きっとお二人は忙しくてすぐには来られないと思うけどな。一応連絡だけはしておくから」

ビルが気休めのように言っていたが、セシールはその日ずっと挙動不審になり、注文を間違えたり皿を割ったりと散々だった。そのせいで灯亭でビルは、またもモニカに鋭い目でにらまれた。


「エド、ちょうどビルが月曜、セシールと会う約束をしていたんですってね」

「ああ。こんなにすぐ機会が来るとは思わなかったな。ビルがクロフト領の伯父さんに詳しい事を伝えたくて、話を聞く約束をしていたみたいだね」

「そういえば、伯父さんは何度かセシールと領都を周ったんですってね。優しい伯父さんだから、きっとセシールにも親切にしてあげてたんでしょう」

「ビルの伯父さんもキリアンの捜索を手伝ってあげていたが、アルカン村の村長も、セシール嬢を領都へ行く家の馬車に同乗させてあげてたんだよ。セシール嬢が一人で乗合馬車に乗るのを心配して、毎月一度、領都に帳簿を届ける人と一緒に行けるよう、取り計らっていたらしい」

「セシールはいつも一生懸命だから、皆に親切にしてもらえていたのね。…キリアンだって、条件は同じだったはずなのに。きちんと頑張っていれば、家も仕事も、お金だってあんなに貰っていたんだから、もしかしたら今頃は幸せに暮らしていたかもしれないのに。こんな事を考えても仕方ないと分かっているけど、どうしても人間の本質というものを考えてしまうわ」

「彼は結局変われないまま終わってしまったね」


「でもセシールは変わったわ」アイリーンはしんみりした空気を振り払って

「私の侍女だった時は、世の中を何も知らない少女のようだったセシールが、たくさんの事を経験して、頑張って一人で生きているってすごい事だと思うわ。彼女と会うのが本当に楽しみ」と瞳を輝かせた。

エドワードはビルの忙しくて先になるという予想を覆し「次の月曜日、二人でお邪魔する」と手紙を書いた。


読んでいただき、ありがとうございます。


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