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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第二章

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23 旅立ち

見つけてくださってありがとうございます。

葬儀から一週間程過ぎて、セシールは起き上がれるようになってすぐ、ハンナの墓へ行った。

真新しい墓石に棺の埋まった地面はまだ黒々としていて、どれがハンナの墓なのかはすぐに分かった。まだ痛む手足でひざまずいたセシールは、一心に祈りを捧げた。

ハンナへの感謝、申し訳なさ、後悔、大切な思い出。伝えたい事が多すぎて、一緒に来てくれたジョージが「身体に障る」と腕を取り立ち上がらせるまで、ひたすらに祈り続けた。


それからしばらくの間、どうやって暮らしていたかセシールは記憶がない。気がつくと涙が流れ、日付も曖昧なまま時間が流れていた。

けれどある日これでは以前と同じだと気づき、ハンナが自分に望んでくれていた事を思い出すにつれ、セシールは泣いてばかりいる事を止めた。何かやっている方が気が紛れると思ったが、怪我で洗濯の仕事は出来ないので、部屋で出来る刺繍を少しずつ始めた。


そうやってセシールが気持ちを強く持つようになると、手の空いた時間にアンとマギーが部屋に来て、時にはマリーも混じって他愛のない話も出来るようになった。

皆、あの事件の具体的な事には何も触れなかったが、ある日アンがハンナの話を始めた。

「あの日、セシールだけ帰った後、ハンナさんだけ残って一緒に洗濯しただろ。ハンナさん、すごく喜んでいてね」「ハンナが?」セシールはハンナの話に鼓動が早くなり息苦しくなったが、ハンナが最後の日に何を喜んでいたのかどうしても聞きたくて、先を促した。


「セシールは小さい頃からすごく良い子だったのに、どこか自信が無くていつも謙遜しててって話し始めて」アンが続けると「そうだったね」マギーも思い出してうなずいた。

「いつも人の後ろに一歩下がって隠れていて、ハンナさんにしてみたら、誰にも負けていないお嬢様なのにって歯がゆかったんだって」「ハンナさん、悔しそうだったね」


「でもここに来て一人で暮らして、刺繍の仕事で皆に喜ばれて頼りにされて、お嬢様は自信のない顔をしなくなったって言ってた。安心したって喜んでたよ」

本当はハンナはその後に『でも、そうなると私は少し寂しいんですよ。おかしなもんですね』と笑っていたのだが、アンとマギーはその言葉はセシールには伝えなかった。

二人は、子どもが巣立つ寂しさは親だけが知っていれば良い、それが子どもの旅立ちを邪魔してはいけないと考え、ハンナと自分達だけの思い出にしたのだ。


「そう…。私、最後にハンナを安心させる事が出来たんですね。喜ばせてあげられて良かった…」セシールはたまらなくなって、子どもの様にしゃくり上げた。

ずっとハンナにはしてもらってばかりで、何一つ返せていないと思っていたけれど、少しでも喜ばせる事ができたと知って、セシールは救われた気がした。それならば、これからもハンナを安心させられる自分でいたい。

そう思った時、これから自分が進むべき方向が分かった気がした。


葬儀から二か月が経とういう頃、セシールの怪我はほぼ治って生活に支障は無くなっていた。

ジャック達は、そろそろ伯爵家へ連絡して迎えに来てもらう頃かと考えていた。


そんなある日、午前中の皆が忙しく働いている時間。

誰にも言わず、セシールは一人ハンナの墓を訪れた。

最近誰かが来てくれたらしくまだ新しい花が供えてある横に、持って来た花束とハンナの為に刺繍したハンカチを置く。ハンナの優しい目の色の薄いベージュの生地に、ワスレナグサと、自分の目の色の緑色で二人のイニシャルを刺したものだ。

(ハンナ。あなたの事は決して、決して忘れない)

あれから泣けるだけ泣いて、今はもう泣かないと決めた。ハンナがあれほど望んでくれた幸せを、これから手にする事が出来るのかは未だ分からないけれど、ちゃんと生きて行く事を約束した。セシールは墓石に刻まれたハンナの名前を心を込めて撫ぜて、脇に置いていたカバンを持って立ち上がり、歩き出した。


お金は、自分で働いて稼いだ分だけ持ってきた。全然使っていなかったので、王都までの馬車と宿代位にはなるだろう。セシールは、アルカン村を離れ一人で生きていくと決めていた。

まず始めは村の外れから乗合馬車に乗り、そこから王都まで馬車を乗り継いで行く。

以前何気ない風を装ってジョージに教えてもらった、王都への行き方を書き留めた紙を握り締め、馬車乗り場のある村はずれを目指した。王都へは行くが、もう伯爵家に戻るつもりは無かった。


風に吹かれて歩きながら、リリーの事を考える。

(リリー。私の愛しい子。この事件が無ければ、ハンナに付いていてもらえたけれど、ごめんなさい)

リリーは、もう私達の子どもであってはならない。人を二人も殺し、サラさんの死を招いて、お兄さんの人生も台無しにした男が父親だという事を、リリーの人生から消してあげなくてはダメだ。私が伯爵家に行けば、人々はあの男と私がリリーの親だと思い出すだろう。私たちが親であるより、天涯孤独の孤児の方が余程マシだ。


セシールはクロス伯爵へ迷惑をかける事を詫びて、リリーを頼むと手紙を書いていた。

兄はきっとリリーを悪くは扱わないと信じた。

アルカン村の人々とマシューへも、それぞれに手紙を書いて来た。

内容はほとんど全て感謝の言葉と、引き起こしてしまった事への詫びで、ジャック宛の手紙には預かって貰っていたお金を村と、これからのハンナのお墓の保持に使って欲しいと書いた。

ジョージへの手紙だけは、長い時間をかけてもなかなか書き上げる事が出来なかった。

感謝とお詫びの気持ちを書いた後、お元気でと締めくくる事が中々出来ず、封をしないまま日が過ぎた。自分の中に芽生えかけて立ち枯れた気持ちを、封じ込める時間がかかった。

家を出る前日にやっと、最後の行に自分の名前を書いて封をし、皆の分と一緒にテーブルに置いた。

ジョージに貰ったブローチは、ポケットに入れてある。私の幸運と希望を彼が祈ってくれたものだから、これからの人生に連れて行かせてもらおうと思った。


読んでいただき、ありがとうございます。


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