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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第二章

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18 ハンナとの再会

見つけてくださってありがとうございます。

ジャックは伯爵家から何かあれば知らせて欲しいと頼まれていたので、すぐにセシールの容体を手紙で知らせた。マリーもアンもマギーも交代で付いてくれているが、皆自分の仕事があるのでなかなか世話もままならない。伯爵家から誰か応援に来てくれるなら、助かるとしたためた。

伯爵家に手紙が届いて二日後、かなり急いで王都から村に到着した伯爵家の馬車から、フラフラになりながらも決然とした様子でハンナが降り立った。

ハンナは挨拶もそこそこに、セシールの住む家に案内してもらって、その日からつきっきりの看病を始めた。


夢の中で、セシールは伯爵家の懐かしい薔薇園の中にいた。

お母様を追って薔薇の棘に刺されても進んで行くと、薔薇園の奥、道の先にお母さまが見知らぬ男の人と立っていた。近づくセシールを見つけると眉をひそめ『あっちへ行きなさい。私の前に現れないで』と言って立ち去ってしまった。

これは、本当にあった事。セシールが五歳の頃の思い出だ。あれから自分は、母に話しかける事は無くなった。

悲しくてうずくまって泣いていると、誰かが抱き上げてくれて温かい腕の中に包まれた。

その人は小さな声で歌を歌ってくれて、それはセシールが良く知っている歌だった。

「ハンナ」私もハンナと一緒にリリーに歌ってあげていた。


「ハンナ」自分の名前を呼ばれたハンナは「大丈夫ですよ。ハンナはここにおります」と眠るセシールの手を握り、もう片方の手でやつれた頬をそっと撫ぜた。

ハンナが到着してからの二日間、ずっと下がらなかった熱がやっと今日は平熱に戻った。先ほど来てくれた医師も「もう大丈夫です。後は自然に目が覚めるまで眠らせてあげてください」と言ってくれて、安心したところだった。


ハンナはここに着いた時、熱にうなされるセシールの短くなった髪と、荒れた手を目の当りにして、村での暮らしの苦労を思って涙した。

だが、皆が代わるがわる様子を見に来て、セシールを心配し食事を届けてくれる姿に(お嬢様はここで苦労をしても、ちゃんとご自分で居場所を作れたんだわ)と悟り、泣くことは無くなった。

今、お嬢様がキリアンの事をどう思っているのかは分からないけれど、少なくとも一人でこの村に来た事は、正しかったような気がした。


セシールが目を覚ました時、椅子に腰かけてベッドに上半身を預けて眠るハンナがいた。

数か月振りに見るハンナは、ふくよかだった頬に影が差し、いつもきちんと結っていた髪は乱れて顔にかかって、目の下には隈が出来ていた。

身じろぐと額にあった濡れタオルが落ちて、自分を看病してくれていた事が分かった。

「ハンナ」小さく呼ぶと目蓋が震え、優しい茶色の瞳がセシールを見た。

「お嬢様、気がつかれましたか」飛び起きたハンナの目に涙の膜が張り、流れ落ちるのを、セシールはまだ夢の中にいるような気持ちで見つめた。


現実だと確かめたくて手を伸ばすと、小さい頃から知っている温かい手が、セシールの手を包んでくれた。「お嬢様。嘘をついてしまったこと、申し訳ありませんでした」ハンナの泣き声に、セシールは首を振った。

「良いの、もう大丈夫。今は生きていて良かったと思えてるの。ハンナのおかげで、こうしていられるのよ。とても会いたかった」セシールの言葉にハンナは嗚咽を漏らし、二人は長い間手を握り合っていた。


久しぶりにハンナが世話を焼いて水を飲ませたり、ぬるま湯で身体を拭いて着替えさせてからしばらくして、玄関をノックする音がした。ハンナが向かい、ドアを細めに開けて誰かと言葉を交わしているのが聞こえる。

「はい、もう目が覚めたんです。おかげさまで、ちゃんとお話しも出来ています」

「そうですか。良かった。…じゃあ、俺はマリーさん達に知らせてきます」

男性の声がして、慌ただしく走って行く音がした。


ドアを閉めてハンナが戻ってきたところで、セシールは尋ねた。

「今の人、もしかしたらジョージさんかしら」

「はい。毎日必ず様子を見に来て下さってましたよ。とても心配してらっしゃいました」

「そう。私、ジョージさんにはずっと迷惑ばかりかけているの。元気になったらきちんとお礼を言わなければ」

「そうですね。皆さんにご心配をおかけしましたが、ハンナはここに来て、お嬢様が皆さんに好かれているのが分かって嬉しかったです。お嬢様が頑張られた証ですね」いつもの調子でハンナに褒められ「そうだと嬉しいわ」とくすぐったそうにセシールは答えた。


またノックの音がして、ハンナがドアを開けるとマリーとアン、食事の盆を持ったマギーが立っていた。

「セシール!目が覚めたんだね」テーブルにお盆を置いて駆け寄ってくるマギーの後ろから、マリーとアンがゆっくり入ってくる。

「はい。もう頭も痛くないし、すっきりしています。色々ありがとうございました」

「良かった。本当に良かったよ。私は、ハンナさんも倒れるんじゃないかと心配してたんだ。セシールは四日も眠っていてね。ハンナさんは王都から馬車を飛ばしてきて、ずっと付き添ってくれてたんだよ」

「そうだったんですね。ハンナ、どうもありがとう」

「セシール、ハンナさんとまた会えて良かったね」セシールがハンナに向けたわだかまりのない顔を見て、しみじみとアンが言った。一瞬虚をつかれたセシールは、前に洗濯場で話したからだと思い当たり「はい。本当に良かったです」と答えた。そこでマリーが「さあ、セシールの顔も見れたし、長居は良くないから戻ろう」と声をかける。

三人が口々に「お大事にね」「何かあったら遠慮なく言って」「しっかり治すんだよ」と声をかけ帰る所で、セシールがマリーを呼び止めた。

「なんだい」

「あの、治ったら、お話したい事があります」

マリーは笑って「分かったよ。治ったらちゃんと聞くから、ゆっくり養生しな」と去って行った。


読んでいただき、ありがとうございます。


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