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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第二章

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17 心の移り変わりと小さな変化

見つけてくださってありがとうございます。

それから毎月一度、ジョージと一緒に領都へ行くようになった。馬車酔いの問題は、行儀は悪いが乗ってすぐに寝てしまう事で解決した。毎回ジョージが「ほら」と肩を貸してくれるのには慣れないが、背に腹は代えられないし、良く眠れるので甘えてしまっていた。


キリアンの手がかりを探す街歩きは、一度訪れた場所は次は自分一人で、新しい場所にはマシューか、仕事を終えたジョージが一緒に行ってくれるのを繰り返すうちに、やがて自分一人で全て回れるようになった。

何度も行く場所には顔見知りも出来て、マシューが言っていた「王都から来た侍女」として同情もして貰ったが、キリアンの消息についての返事は毎回『分からない』で、何もつかめないままだった。宝飾店に宝石を売りに来た若い男がいると情報が入っても、人相を聞いてみると金髪碧眼のキリアンとは違う外見ばかりだった。

もとより危ない場所には近寄れないので探す範囲も広がらず、セシールは数か月が過ぎた頃には諦めを感じていた。


進展が無い事とは別にキリアンの捜索を諦めつつあるのは、セシールが村に来た目的が満たされつつあったのも理由の一つだった。

元々セシールは自分が信じていたキリアンが虚像なのか、彼が本当はどんな人なのか、出来れば実際に会って自分の目で確かめたくてこの村までやって来た。キリアンが、自分達と暮らすはずの村から逃げたのは何か理由があるのではないか、ここに来ればそれも分かると思っていた。


そして自分がこの村で暮らし始め、皆に助けられてなんとか生きる中で、村の皆の目に映り、語られるキリアンの姿が本性なのだと納得できた。だから実際にキリアンに会って確かめる必要が無くなり、もう捜索をしないで良いと思えてきたのだった。

そうなったセシールは、リリーやハンナに会いたい気持ちが日増しに強くなっていった。


リリーの誕生日プレゼントに、領都で買った若草色の絹に白い百合の花と、光沢のある薄い茶色で名前を刺繍したハンカチを作った。丁寧に包んで手紙と一緒に伯爵家へ送ったら、ハンナがお誕生日のリリーの絵姿を送ってくれた。

今枕元に飾ってある絵姿のリリーは、ケーキの前に笑顔で座り、髪も伸びて、赤ちゃんというより幼児になっていた。ぷくぷくとした頬はバラ色で、ハンナが言うようにずいぶん健康になったように見えた。

セシールは、絵姿が目に入る度「迎えに行きたい」と思っては「ここの暮らしはリリーには無理だ」と打ち消し、「私が伯爵家に戻った方が良いのか」と考えては「あそこに自分の居場所はない」と思うことを繰り返していた。


ハンナの事は、伯爵家を離れた当時はショックを受けて『嘘をつかれていた』と恨む気持ちがあったけれど、今では仕方なかったと思うようになった。自分は、確かにあの時死のうとしていたのだ。

ある日、洗濯場でアンとマギーに話を聞いてもらった事があった。

『死にたかったけど嘘をつかれて生かされて、生きていれば良い事があるって言われたけれど、そんなことは信じられない』とこぼしたセシールに、アンは『死んだら終わりだよ。その時不幸なら、不幸なままで終わるんだ。その人はセシールの幸せを願ってるんだろうよ』と答え、マギーはいつもの調子で怒り出した。

『あんたを生かしたいって言うのは当たり前なんだよ。その人はあんたを娘みたいに思ってるんだろ。大事な子どもが死にたいって言って、はいそうですかって死なせる親がどこにいるのさ。あんただってリリーちゃんが大きくなって、クソみたいな男に騙された時、そのまま死なせるなんて嫌だろう。絶対に幸せを知って欲しいって思うに決まってる』

二人の話を聞きながら、セシールは久しぶりに泣いてしまった。アンもマギーも少し泣いていて、三人でゴシゴシと洗濯物をこすりながら、それぞれが大切な誰かを思い出していた。


そんな中、少しだけセシールの生活に変化があった。


セシールは領都で買って来た材料で、リリーのプレゼントとは別にジャックとマリー、アンとマギー、それにジョージとマシューにも名前の他に好きな物を刺繍したハンカチを作り、プレゼントしていた。

好きな物を尋ねると、ジャックは馬、女性達はそれぞれ好きな花の名前をあげ、マシューは最初遠慮していたが重ねて聞くと「じゃあこの店に絡んでる蔦がいいな」というので、アイビーを刺繍した。皆とても喜んでくれて、セシールは少し恩返し出来た気がして満足だった。


ジョージにも何か好きな物をと聞いたのだが「俺は特に好きな物はない」と言い張るので、セシールが考えてモミの木を選んだ。モミの木言葉の「誠実」「正直」がいつもぶっきら棒だが、支えてくれる彼のイメージに合っていると思って選んだ。モミの木にした理由は言わないで渡したが、彼もお礼を言って丁寧に畳みポケットにしまったので、気に入ってくれたのだと安堵した。


皆にハンカチを渡してから数日後、マリーがセシールに相談があると言ってきた。

「あんたが最初下女の仕事がしたいって言ったから、こうして働いてもらっているけど、それよりも刺繍の仕事をしたらどうかと思うんだ。あの刺繍を知り合いに見せたら、皆欲しいって言うんだよ」

「でも、私、ここのお仕事が好きなんです。皆さんと一緒に働いていたいです」

セシールは驚いた。

「そう言ってもらえて嬉しいよ。うちも助かってる」

「それなら」

「だから、例えば午前中だけ洗濯の仕事をして、午後は刺繍の仕事をするのでも良いんじゃないか。私も、あんたの刺繍は本当に見事だと思うよ」

「ありがとうございます。侍女をしていた時も、刺繍だけは褒めてもらえたんです」セシールは少しホッとしてお礼を言った。

「よそ行きの服に刺繍を入れて欲しいとか、娘の結婚式のドレスに刺繍して欲しいとか、何も引き受けてないのに注文してくる人までいるんだよ」

「そうなんですか」


「それで、これからあんたに刺繍の仕事もして欲しいから、月に一度領都に行く時、手芸店で布や刺繍糸を買ってきておくれよ。もちろん代金はこっちで払うから。キリアンの事はなかなか進展しないけど、そうやって通ってる内に、何か手がかりが出てくるかもしれないしね」

マリーは、セシールの行き詰って鬱々としている現状も考えて提案してくれたのだと気づき、申し出をありがたく受けることにした。

「分かりました。刺繍も一生懸命やらせて頂きます」

「無理しないでやれる事をやれば良いよ」

「はい。でも、洗濯場のお仕事も続けさせてください」


こうして洗濯場の仕事もしつつ、刺繍をする事になったセシールは、月に一度の領都行きに手芸店で買い出しをするという任務が加わった。意義が分からなくなっていた領都行きも、この仕事があると思うと心が少し休まった。

しかもセシールの刺繍はマリーの話通り評判が良く、あっという間に沢山の依頼が舞い込むようになった。生来刺繍が好きな事もあり、セシールは悩みを忘れる様に刺繍にのめり込んで、疲労がたまっているのに気づかないでいた。


その日も前の晩遅くまで刺繍をしていたセシールは、朝から頭痛がしていた。

いつも通り洗濯場へ行ったが、作業をしている時にマギーがセシールの様子がおかしい事に気づいた。「セシール、あんた顔が真っ赤だよ」

アンが急いで額に手を当てると、燃える様に熱かった。

「大変だ。すぐに横になった方が良い」

ちょうど通りかかったジョージが、事情を聞いてセシールを横抱きにするとアンと一緒に家まで連れて行ってベッドに寝かせ、マギーはマリーを呼びに家の中へ走った。

しばらくマリーが付き添って様子を見たが、熱が下がらず上がる一方だったので、医者が呼ばれた。診察した医者は「過労ですね。身体がひどく疲れて衰弱しています。ずいぶん長い間無理をしていたのではないでしょうか。熱が高いので冷やしながら、眠って回復を待つしかありません」


読んでいただき、ありがとうございます。


続きが気になる!と少しでも思っていただけたら、ブックマーク、評価(下の方にある☆☆☆☆☆)やブクマ、いいねで教えていただけると、嬉しいです!

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