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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第二章

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15 マシューとセシール1

見つけてくださってありがとうございます。

「着いたぞ」

ジョージに肩を揺すられて、セシールは目覚めた。一瞬自分がどこにいるのか分からなかったが、ジョージにもたれている事に気づき飛び起きた。馬車酔いの気持ち悪さは、良く眠れたおかげで消えていた。


「すみません、私、重かったですよね」

「いや、これくらい何でもない…気分が直ったみたいで良かったな。さあ、領都に着いたぞ。初めてだから、今日は俺がジャックさんの知り合いの店まで連れて行ってやる。俺はあんたを送ったら役場に行って仕事して、四時頃に迎えに行くよ」

それを聞いてセシールは慌てて「私、住所を知っているので、一人で行きます。ジョージさんはお仕事で来ているのに、ご迷惑をかけられません」

「あんたは街歩きなんてした事ないだろう。村と違ってここは色んな奴がいる。金があろうとなかろうと、若い女ってだけでひどい目に遭う事もある。少なくとも、いかにも慣れてない様子が隠せるまでは、誰かと一緒にいるようにしないと。それこそ迷惑な事が起きる」

真剣な顔で言われハッとしたセシールは「わかりました。よろしくお願いします」と頭を下げた。


ジャックの親友マシューの宝飾店は、馬車止めから歩いて数分の所にあった。

古くからある店らしく赤かったレンガは茶色になり、所々に緑の蔦が絡まって模様を描いていた。

ジョージは「マシューさん、連れて来たよ」と声をかけながらドアを開けた。

店の中には沢山の宝飾品が輝くショーケースが並び、奥にあるカウンターにいた大柄な男性が顔を上げて「やあ、待ってたよ」と笑顔を見せた。

ジョージはその男性を片手で示し「セシール、こちらがマシューさんだ。マシューさん、これがセシール」と簡単過ぎる紹介をした。そして「じゃあ、後はよろしく。俺はまた四時頃来るから」と言い捨て、あっという間に出て行ってしまった。


呆気に取られるセシールに、マシューは「気忙しい奴だな」と苦笑いして「知らないと思うけど、あいつはここの代官をしてる男爵の三男坊なんだよ。爵位はもう長男が継いでジョージは今は平民だけど、男爵家がこの店の顧客だから、俺はあいつが小さい頃から知ってるんだ。それであいつは俺が苦手で逃げ出したんだよ」と説明してくれた。

ジョージが男爵家出身と聞いてセシールは少し驚いたが、気を取り直してマシューに挨拶した。

「アルカン村でジャックさんにお世話になっているセシールです。ご存じだと思いますが、キリアンの妻です。今日はお忙しいのにご迷惑おかけします。どうぞよろしくお願いします」


「ご丁寧にどうも。俺はジャックとは昔からの友達で、セシールの事は王都にいる甥からも聞いてるから、俺には言いづらい話はしなくても大丈夫だよ。勿論話したい事があれば、遠慮なく話してくれ」

その言葉にセシールがホッとしていると、マシューは店の中にいた若い店員に「アルカン村のお客さんが来たから、俺は街を案内してくる。店の事は頼んだ」と声をかけ「さあ、行こうか」とセシールを促し外に出かけた。


どこに行くのかと思っていたら、最初に向かったのは近くにあるカフェだった。

カフェに入った事などほとんどないセシールが、店の中を珍しそうに見回していると、マシューが「似合わないと思うけど、ここは俺の行きつけなんだ」と笑い「馬車は疲れただろう。ここで甘い物でも食べて、まずは一息つこう」と、お勧めのケーキとお茶を注文してくれた。

運ばれてきたケーキは、ふわふわのスポンジの上にたっぷりの白いクリームと赤い苺がのっていて、一口食べたセシールは思わず「美味しい」と声が出た。

「このお茶とすごく合うんだよ」と言われたお茶も飲んでみると、甘いクリームに対して程よい苦みで、確かにとても良く合った。

「マシューさんは、甘い物がお好きなんですね」

「俺は昔から酒も飲むけど甘い物も好きで、よく甥っ子に笑われたよ」と目を細めた。


ケーキを食べ終わって一息ついた頃、マシューがセシールに尋ねた。

「旦那を探しに領都に来たそうだけど、何か当てはあるのかい」

セシールは飲んでいたカップをソーサーに戻し、申し訳なさそうに答えた。

「それが、ほとんど無いんです。領都ではローワン夫人という人に世話になっていたそうですが、その人も今回の事で領から追い出されたようで、今はどこにいるか分かりません。キリアン様の為に借りていた部屋や使用人もいたらしいんですが、場所も高級な地区としか分からないんです。…こんな手がかりのない人探しに、巻き込んでしまってすみません」


「ローワン夫人か。俺の顧客にはその名前は無かったと思うが、他の店のやつにも聞いてみるよ。実際、公爵家は何かつかんでいるんじゃないのかい」

「私は公爵家の方に連絡を取る方法が無いので、実家の伯爵家に聞いてみたんですが、今お話しした事しか分からないと言われました。…本当は何か分かっているのかもしれないですが、私には教えてくれませんでした」

「そうか。それなら、地道に人に尋ねるしかないな。そうと決まれば、高級な地区とやらに行ってみるか。ローワン夫人もそこらへんに住んでいたんだろうし」


代金を払う段になって、全てマシューが払おうとするのでセシールは固辞したが

「もう死んじまったけど、俺にも妹がいたんだ。妹とこの店に来たかったと思ってたから、セシールが一緒に来てくれて嬉しいんだよ」そう話すマシューに「ありがとうございます」とお礼を言って受け入れるしかなかった。


それから二人は大通りを歩いて、大きな屋敷と立派な集合住宅がある緑の多い地区に来た。

「ここら辺は公爵家寄り家の下級貴族や、裕福な商人なんかが住んでるんだ。公爵家に長く仕えて引退した侍女なら、集合住宅に部屋を貰ってる事もあると思うぞ」


二人はとりあえず、近辺にある高級品を扱う店に夫人について聞いてみる事にした。最初に目についた食料品店に入ると、黒いベストにソムリエエプロンを着けた店員が「いらっしゃいませ」と声をかけながらも、一瞬不審そうな目で二人を見てきた。

ビルは宝飾店主なので平民の粗野さは無いが、この地区の住人程裕福にも見えない。セシールは元は伯爵令嬢なので物腰は上品だが、日焼けして髪は短く、手は荒れている。客層に当てはまらないちぐはぐな二人を、店員は警戒した。

そしてセシールの放った質問に、彼は自分の勘が当たったと思った。

「すみません。もしご存じでしたら教えていただきたいのですが、この辺りにローワン夫人という方は住んでいらっしゃいましたか」


ローワン夫人。ちょっと前に、突然領主様からここを追い出された老女。

この店にはたまにしか来なかったし、来てもほんの少しチーズを買うくらいだった。なのに、追い出される前数か月は、何度も鴨肉やテリーヌを買い込んでいて、俺はおかしいと思っていた。

この二人があの女とどういう関係かは知らないが、関わりになって良い事はないだろう。


店員は申し訳なさそうな顔を作り「ローワン夫人ですか。あいにく、私どもは存じ上げません」と答えた。

セシールはその答えを聞き「そうですか。お忙しいところ、お邪魔しました」と頭を下げ、マシューと共に店を出た。店を出る時にマシューは何か言いたげに店員を見たが、結局何も言わず、セシールの後に続いた。


読んでいただき、ありがとうございます。


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