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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第二章

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14 セシールの領都行きとジョージ

見つけてくださってありがとうございます。

セシールはマリーに髪を切ってもらって以来、その軽さに驚いていた。

髪の長さ一つで大げさだが、重石をつけられていた自分がどこにでも行ける様な、そんな気持ちさえ感じた。

三人で洗濯をしている時、アンとマギーにそう言ってみると「私はずっとこの髪だから、そんな事思ったことも無いよ」「私も。髪が短くても、ここら辺以外どこにも行った事ないね」二人は笑ったが「でもさ、何にせよセシールがそういう気持ちになったのは良い事だよ」と嬉しそうに言ってくれた。

二人の気持ちが嬉しくて、セシールも一緒に笑ったが、本当ならこの温かい場所はサラという少女の居場所だったと思うと、自分がこれを享受して安穏と暮らすのは違うとも感じていた。


そんなある日、セシールはジャックに領都に行く事を相談した。いよいよ、自分でキリアンを探し始めようと思ったのだ。

「領都かあ」

「乗合馬車に乗れば、その日の内に往復できますよね。週に一度のお休みの日に、行ってこようと思うんです。何もしないでここで帰りを待っていても、仕方ないと思って」

「休みはセシールの好きに使ってくれて良いんだが、まずあんたは身体を休める必要があるぞ。最近は洗濯の他に、掃除や炊事場の下働きも手伝ってるだろう。つい最近まで貴族だったんだ。元々の体力が無いんだから、休みに領都の往復なんてしてたら倒れちまう。それにサラの事もあったから、一人で乗合馬車に乗るのも心配だ」


ジャックに言われて、セシールは反論出来なかった。

毎日仕事が終わり賄いを食べて家に帰ると、あとは身体を拭くのがやっとで、すぐにベッドに入りそのまま朝まで眠ってしまう。

今までは休みの日があるから溜まっていた家事も出来ていたし、半日ゆっくり過ごす事で体力も回復出来た。その休みを毎週領都へ行って潰していたら、疲れ果てて病気になる可能性は大きい。

乗合馬車には一度も乗った事がないので分からないが、ジャックがそう言うなら、おそらく色々な危険性があるのだろう。自分はそもそも街歩きも一人でした事が無いのだ。


セシールは不安になったがこのまま何もしないでいる事も出来ず、キリアンを探しに行くにはどうしたら良いか必死に考え始めた。

ジャックも同じように打開策を考え始め、二人して向かい合い黙り込んでいると、

「じゃあ、毎月一度ジョージが領都に行く時、一緒に連れてってやれば良いじゃないか」横で話を聞いていたマリーが声をあげた。

「ジョージが領都に行く日を、その週のセシールの休みにしてさ。毎週は疲れて無理だけど、月に一度なら大丈夫だろ。

探すって言っても当てがないんだから、毎週闇雲に領都を駆けずり回っても仕方ないよ。どうにか情報を集めながら、せいぜい月に一度行く位でちょうど良いと思うよ」


それを聞いてジャックはしかめていた眉を開き、顔を明るくした。

「ああ、それは良い。セシール、ジョージは村の帳簿を毎月領都の役場へ持って行ってるんだ。うちの馬車で行くから金はかからないし、乗合馬車にお前が一人で乗る事もなくて安心だ。月に一度の領都行きでどうだい」

「ありがとうございます。ぜひ、お願いします」


その日の内にセシールは王都の伯爵とハンナへ手紙を書いた。

次にジョージが領都へ行くのは二週間先だったので、それまでにキリアンの居場所の手がかりが欲しかったのだ。

セシールの為にハンナは侍女仲間に聞いてみたが、厳しく口止めされているか、実際に何も知らないかで何も情報はなかったし、伯爵は逆に知っているからセシールを近寄らせたくなくて、結局二人とも『全く分からない』と同じ返事を寄越した。


セシールは手がかりの無さにがっかりしたが、ジャックが領都にいる親友を紹介すると言ってくれた。

「セシールがここに来る時、王都の貴族から頼まれた甥のいる奴だよ。

そいつは領都で昔から宝飾店をしてて、甥も王都で宝飾店を任されてるんだ。俺からも手紙を書いておくよ。いい奴だからきっと力になってくれると思う。

それと、俺が預かりっぱなしの金も少し持って行って、領都で買い物でもしてくると良いさ」


セシールはジャックから店の名前と住所を書いた紙と、兄から貰った金からいくばくかを受け取り(お金の使い方は、あの後すぐ村の店で教えてもらっていた)、ジョージと共に領都へ行く日がやって来た。


「おはようございます。今日は、出来るだけお邪魔にならないようにしますので、よろしくお願いします」

セシールに丁寧に挨拶され、ジョージは少し緊張気味に「おはよう。よろしく」と返した。

セシールがアルカン村に来てもう三か月になろうとしていたが、ジョージが彼女とまともに話したのは初日に洗濯場に案内して以来だった。

あの時はキリアンという悪例があったので、キリアンの妻で元貴族というセシールの事も警戒していたのだが、少しでも接すると全く違う事はすぐにわかった。

だから、挨拶や世間話位していても良いのだが、セシールのたたずまいは周囲とはどこか違っていて、ジョージに限らず他の者も彼女に話しかける事はまれで、普通に会話しているのは主人夫婦を除けばアンとマギーくらいだった。


話しかける事は出来ないのに、ジョージは不思議と彼女が気になった。セシールを見かけると目で追っているうちに、気づいたら姿を探してしまうようになっていた。

やがて、ジョージはセシールがとても美しいという事に気づいた。

単純に、育ちの違いで肌や髪が美しいという事もあるのだが、相手を見る時の素直でまっすぐな瞳や、アンやマギーといる時に浮かべる陽だまりの様な笑顔、そうかと思えば年を経た女がするような、諦めと哀しみを含んだ表情を見せて、その度にジョージはハッとして見入ってしまった。

髪を切った彼女は、強く前を向くような新しい顔も見せるようになり、ますます心惹かれる自分を持て余していた矢先のこの領都への同行に、ジョージはおかしな緊張感に包まれ朝を迎えていた。


馬車に乗り込んで少しして、セシールは早くも気分が悪くなってきた。

伯爵家の贅沢な馬車に慣れていた為、田舎の砂利道の振動を余計に辛く感じ、どんどん吐き気が強くなっていた。もう限界だと思い切羽詰まったセシールは、ついに向かいに黙って座るジョージに声をかけた。驚くことに彼は、揺れる馬車の中で書類に目を通していた。


「ジョージさん」

かぼそい声に顔を上げたジョージは、セシールの口元を押さえた蒼白な顔を見て仰天した。

「どうした⁈ 馬車酔いしたのか」弱々しくうなずくのに、慌てて馭者に声をかけ馬車を路肩に止めてもらった。

急いでドアを開け手を貸して降ろすと、彼女は道の奥の茂みに走って吐いてしまっているようだった。

(参ったな。もう少し早く気づいてやれば良かった)後悔しながら突っ立っていると、やがてさっきよりは顔色の良くなったセシールがよろよろと戻ってきた。


「これで口をすすいで、水も少し飲んだ方が良い」ジョージは、携帯していた水の入った瓶を差し出した。受け取ったセシールが、また茂みに入って口をすすいで戻ってきたので「あと三十分くらいかかるけど、もう少し休むかい?」と尋ねる。

あと三十分なら大丈夫ですと答えるので、早く着いて馬車を降りる方が良いかと思い、また手を貸して馬車に乗せた。


乗り込んでから、ジョージは向かい側の席からセシールの隣に移った。

驚いて、思わずと言った風に身をすくませたセシールに「悪い。俺じゃ嫌だろうけど、肩に寄りかかって寝た方が楽だと思ったから。馬車酔いした時は、寝るのが一番だからさ」といつものぶっきら棒な調子で言った。

セシールは最初遠慮したが、また迷惑をかけるよりは好意に甘えるべきだと思い直し、お礼を言ってそっとジョージの肩に頭を預け、目をつぶった。

さっきよりゆっくりと馬車は走り出し、久しぶりに感じた体温の暖かさもあって、セシールはいつの間にか眠りに落ちていた。



読んでいただき、ありがとうございます。


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