11 キリアンの消息2
見つけてくださってありがとうございます。
「セシール、辛いならまた後で話しても良いんだよ」マリーがセシールの気持ちを慮って言うと「ありがとうございます。でも、もう、何も知らずにいる方が辛いんです。だからジャックさん、どうぞ続けてください」
そのうち二人は仕事にも来なくなったが、来ないなら賃金を払わんだけだと、ますます疎遠になってな。キリアンにはどうも金があるらしいから、しばらくはそれでやってくんだろうと俺たちは思ってた。後から知ったが、あいつは公爵家を出る時、相当な金貨と宝石を貰っていたらしい。
だが、村では金貨なんて使う奴はいないし、宝石だって買い取る店が無い。だからあいつは、サラを領都まで行かせて宝石を換金させたり、金貨を使っても目立たない高級店で、食い物を買って帰らせるようになったんだ。あいつは食い物も欲しかったんだろうが、釣銭の銀貨と銅貨も欲しかったんだろうな。
「セシールが伯爵にもらった金は、銀貨や銅貨だったろ。あれは伯爵が、お前のここでの暮らしをちゃんと考えて渡してくれたのさ」ジャックの言葉にセシールはハッとして、今さらながらそうだったと気づいた。兄は、自分の事を考えてくれたのか。
「キリアン様は、なんで自分で領都に行かなかったんでしょう」
「人目に付きたくなかったんだろうな。仕事はしなくても、大人しく村で暮らしていると思わせたかったんだ。そこまで金を持ってるとは知らなかったから、俺たちはあいつの思惑どおり、家を捨てて村から出るとは思っていなかった」
「サラさんはどうなったんですか。今も、キリアン様と一緒にいるんでしょうか」
セシールの問いに、ジャックもマリーも沈痛な表情になった。
「サラはね、領都で強盗に遭って殺されたの」マリーの目から涙がこぼれた。
領都まではここから乗合馬車で二時間くらいかかるんだが、サラは領都へ行き来するのに、いつも村外れから出る馬車を使っていた。その運賃を支払う時に財布を落として、周りにいた奴に金貨を見られちまったらしい。サラはすぐ財布を拾って、運賃は銅貨で支払ったが、金に困っていたそいつに目をつけられたんだよ。
その男は領都に着いてからサラをつけて、宝石店で宝石を売るのも見た。後で捕まったそいつが言うには、本当はその日にやりたかったけど、たまたま道に憲兵がウロウロしてたから諦めたそうだ。
それで済めば良かったんだが、また何日か後サラはキリアンの使いで領都へ出かけた。
馬車の乗り場を見張ってたそいつは再びサラをつけて、サラが金貨で食料を買い宝石を金に替え終わると、暗い路地に引き込んで襲って金も、命も全部奪ったんだ。
セシールは聞きながら泣いていたが、何も言えなかった。何と言えば良いか分からなかったし、サラは自分だとも思ったからだ。ただ、彼女が憐れで可哀想だった。
マリーが席を立ってセシールを抱きしめ「しばらくして領都から憲兵が来て、サラの死が分かったの。その日の夜、キリアンは姿を消したんだよ」と言った。
キリアンは、サラがいつまでも帰ってこないのを不審に思ってはいたんだろう。さっぱりここには来なくなってたのに、いきなり現れて台所で朝飯を食べた後、洗濯場に行ったらしい。
アンとマギーに『サラは来ていないか』と聞いたが、二人から『こっちが聞きたいね』『あんた、サラをどうするつもりなんだい』と詰め寄られ、早々に退散したと聞いた。
その次の日、領都から憲兵が俺を訪ねてきた。
「憲兵は、死んだサラの持ち物から宝石店の買い取票を見つけて、売主のサインでサラの名前だけは分かった。しかし身元が分からず、買い取票の宝石店へ行ったそうだ」
「普通は平民の若い女が宝石なんて持ってるはず無いからね。憲兵も怪しんで、盗品の買い取りをしたのかと、店を厳しく問い詰めたそうだよ」
店主は、最初はただ宝石を買っただけで、女の事は何も知らないと言い張っていたそうだ。
だがあまり綺麗な商売をしていなかったらしく、憲兵に他の容疑を持ち出され、ついに知っている事を話した。
『そりゃあ私も最初はおかしいと思いましたよ。あんなみすぼらしい女が、質のいい宝石を持ってくるなんてありえませんからね。ええ、本当に良い品でした。こちらが疑っていたら、あの女が自分は領主様の弟の恋人だって言いだして。最初は信じませんでしたが、キリアン・クロフトって名前と今アルカン村にいるって言うんで、これは例の追放された御子息の物だと思い買い取りました』
憲兵は「アルカン村に元公爵令息がいる事は上の者しか知らなくて、自分達も知らなかったんです。それを確認していたので、サラさんの事を知らせに来るのが遅くなってしまいました。ここにサラさんの身寄りの方はいますか。それと事情を聞きたいので、元公爵令息と話がしたいのですが」と言ってきた。
俺はサラの死に動揺しながら、サラは兄が一人いるが今は隣村で働いている事、キリアンは向いの家にいるはずだと教えた。憲兵はまずキリアンの家に向かい、俺はすぐマリーを呼んでサラの事を話していた。
そうしていると、戻ってきた憲兵が『呼びかけても返事がなくて、留守のようです。先に隣村のお兄さんの所へ行って、また後で会いにきます』と、隣村で働いているサラの兄のところへ知らせに行った。
「それで、夜になって兄貴と一緒に憲兵が戻って来たんだが、家をノックしても返事が無くて」
「私が構わないから開けちまおうって、公爵家から預かった予備の鍵で開けたら、もぬけの殻だったのさ」
「金やなんかは何も無くて、あいつが持って来たカバンやなんかも無くなってたんだ。憲兵が後で調べたところじゃ、その日の最後の乗合馬車に乗って領都に行ったらしい。帽子を被っていたが金髪は平民にはほとんどいないから、珍しいと思って覚えてた人が証言した。
…ただ、その後すぐに犯人が捕まったから、憲兵もそれ以上あいつを探す事は無かった。自分の持ってる宝石を人に頼んで売っただけじゃ、罪にならないからな」
「あと、これはあんたにだけ教えるけれど、公爵家からも探さなくて良いって言われてるんだよ。私たちの村にキリアンを受け入れる時、迷惑料として村の税を軽くしてくれるって約束でね。
キリアンがいなくなって、それはどうなるのかお伺いを立てたら、税は約束通りにしてくれるって返事が来てね。その手紙にキリアンの事は忘れるようにって、サラの事も醜聞だから、キリアンはいつの間にかいなくなった事にして欲しいって書いてあったんだ」
「そう言われたら、俺たちは言う事を聞くしかない。犯人は捕まったし、こう言っちまうと酷だが、皆に止められてもキリアンと一緒にいたのは、サラが選んだ事だ。キリアンがいた数か月で村の税金が軽くなるなら、村にとっては有難い話だった」
「だからサラが領都で何をしていたのか、皆は詳しい事を知らないの。キリアンと暮らしていて、領都に買い物に行った事は知ってるけど、運悪く強盗にあったとしか思ってない。キリアンがいなくなったのもサラが死んで、村の暮らしに嫌気がさしたからだって思ってる」
懺悔するようなジャックとマリーに、セシールは尋ねた。
「じゃあ、キリアン様は領都にいるんでしょうか」
その問いに虚を突かれたマリーが「一旦は領都にいたと思うよ。でも今はどこにいるか、私たちには分からない。…セシール、あんたがキリアンを愛していたのは聞いてる。だから子どもを置いてわざわざ来たんだろう。でもね、あんたこそキリアンを忘れた方が良いよ。
この話を聞けば分かったと思うけど、キリアンは人の事を自分の道具にしか思っていない。会っても何にもならないよ」
「私、確かめたいんです」
「確かめる?」
「はい。他の人から話を聞けば、キリアン様はそういう人間だって分かるんです。でも、私が信じて来たキリアン様は違うんです。その気持ちも、ここに来るまでにずいぶん揺らいだけど、ちゃんと自分の目で確かめたい。その上で気持ちをはっきり決めて、これからどうするか選びたいと思います。
だからマリーさん、私の髪を切ってください」
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