表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/65

7 セシールとクロフト領の宝飾職人

見つけてくださってありがとうございます。

王太女殿下の結婚式翌日。

灯亭が定休日のセシールは、いつもよりゆっくり起きて、厨房で淹れたお茶とモニカが残しておいてくれたパンで朝食を取った。モニカはいつもセシールの朝食用にと、前日仕入れたパンを一つ取っておいてくれる。

この有難い好意へのお返しに、セシールは街に出た時モニカの好きな茶葉を買って、賄いの時に二人で飲むようになった。モニカはいつもセシールの淹れたお茶は美味しいと褒めてくれるので、侍女をしていた時失敗しながらも真面目に練習して良かったと思っている。


朝食後、セシールは包みを一つ持って灯亭を出た。

向かう先は、表通りから一本入った通りにある洋品店だった。下級貴族や富裕な平民、商家のドレスを扱うこの店から、刺繍の下請けを頼まれるようになって二年になる。

毎日灯亭の仕事が始まる前と終わってからの時間と定休日に、注文を受けた刺繍を刺して店に納品している。量は多く出来ないが、セシールにとっては貴重な収入源になっていた。


裏口へ回り、扉を開けると店主のキャスリンが笑顔で迎えてくれた。

「セシール、いらっしゃい。昨日は灯亭は大繁盛だったでしょう。疲れてるのにありがとうね」「いいえ、大丈夫です。キャスリンさんも、昨日はパレードご覧になりましたか」

世間話をしながら包みを開き、頼まれていた刺繍をキャスリンへ見せた。

「わあ、すごく綺麗に出来てる。やっぱりセシールは刺繡の才能があるわよ。特に、鳥が飛んでいる部分なんて、細かい線が滑らかに出てるわ。…ねえ、何度も言うようだけど、うちの店で働かない?モニカさんには悪いけど、うちにくればもっとお給料も弾むし、セシールは礼儀がちゃんと出来てるから、最近増えた貴族の接客をしてもらえたら助かるんだけど。考えてくれないかしら」

キャスリンの誘いにセシールは、困った顔をしながらいつものように断る。

「すみません、キャスリンさん。モニカさんには恩もありますし、あそこのお家賃もタダ同然にしてくださってるんです。それに、私、灯亭のお仕事が好きなんです。だから今まで通り、刺繍だけやらせてもらえませんか」

キャスリンは「そういう答えだって分かってたわよ」と苦笑いして「じゃあ、次はこれをお願いするわ」と早速新しい依頼の図案を出して来た。


次の仕事の打ち合わせを終え、受け取った刺繍する布や糸を包んで帰ろうとすると

「そういえば、この前裁断した時の端切れを上げるわ」と小さい布を差し出された。

それは薄い緑の絹だったので、セシールは驚いて「これ、絹ですよね。こんな高価な物いただけません」と断った。

「良いのよ。いくらうまく型紙を取っても、どうしても端切れは出るから。

もう少し大きければドレスと共布で小物が作れるんだけど、これだとハンカチ位しか出来ないでしょう。ハンカチにするにはやっぱり刺繍くらい入れなきゃだめだから、セシールが自分で刺繍して使ってくれる方が良いわ。絹に刺繍する練習にもなるから、うちの店の為だと思って受け取って」布をしまう気配の無いキャスリンに、セシールは根負けして「ありがとうございます。頑張って練習します」と受け取り、灯亭へ帰って行った。


「あのお嬢さん、見覚えがある」

洋品店へ入って行くセシールを見て、一昨日から王都に滞在しているマシューはつぶやいた。


クロフト領で宝飾店を営むマシューは、一年前甥のビルから、王太女殿下の結婚式にパリュールを依頼されたと報告を受けた。それを聞いたマシューはまず驚き、そして喜び、それから甥が満足な品を作れるのか心配しながら、完成した品を見られる日を心待ちにしていた。

結婚式に合わせて王都へ出て来て、甥の店に掲げられた「王太女殿下御用達」の金プレートを見た時には涙が滲んで甥にからかわれたが、そんな事は全く気にならない程嬉しかった。


到着した日の夜にはセレンディピティという居酒屋で、ビルの師匠でもあるマシューの修行仲間と三人で飲み、自分達の思い出話とビルの修行時代の失敗談で盛り上がり、すこぶる楽しい幸せな時間を過ごせた。

そして昨日、パレードで王太女殿下の頭上に輝くティアラとジュエリーの素晴らしさを目の当たりにし、甥の成長と成功を見届ける事が出来たマシューは満足して、明日の帰郷の為に土産を買うべく王都の商店を物色していた。そこでセシールを見かけたのだ。


「伯父さん、いくらなんでも伯父さんの年であのお嬢さんは無理だろ」隣で相変わらず王太女殿下とエドワードの絵姿を物色していたビルが呆れたように言う。

「ば、何言ってんだ。本当に見覚えがあるんだよ。何度も会ったんだが、誰だったかな…」考え込んでいると、「伯父さん、これなんか土産に良いんじゃないか。王太女殿下の雰囲気が良く出てる良い絵だよ。五枚セットだし、かさばらないで五人分の土産になるぜ」ビルの能天気な声がして、思考が途切れたマシューは、ビルの勧める絵姿の隣にあった記念の木彫りコインを手に取って「これにする」と会計に向かった。


「思い出した!」

その夜、また昨日の居酒屋セレンディピティへ行き、ビルと二人夕食を兼ねて飲んでいた時、マシューは唐突に昼間の女性の事を思い出した。

「思い出したって、何のこと?」すじ肉の煮込みをエールと一緒に流し込んでビルが尋ねる。

「昼間見かけたお嬢さんだよ」「ああ、あの茶色の髪の。どこで会ったの」

「三年位前、クロフト領でうちの店に何度も来た。一緒に領都を回ったりしたのに、何ですぐ思い出せなかったんだろ」マシューは悔しがった。

「へえ、伯父さんが?どうして?」

「いや…」急に声をひそめるマシューをビルはいぶかしんだ。

「どうしたの。困った事でもあった人なの」

「実は例の女性なんだ。アルカン村でひと騒動あった事、お前も知ってるだろ」」


いつも騒がしい店内は、昨日の結婚式の為に常よりさらに騒がしい。声をひそめて距離を近づければ他には聞こえないと判断して、マシューはビルに打ち明けた。

「ほら、お前が知り合いの貴族から、アルカン村に来たら気にかけて欲しいって頼まれた、元貴族のお嬢さんだよ。村から逃げ出した夫を探して、領都に来たんだ。その時は今日見たより細っこくてやつれてて、雰囲気も違ってたから、すぐには思い出せなかった」

「え、本当にその女性なの」

「うん。確かセシールって名前だったよ。何回か会ってるから間違いない。

領都に行方不明のそいつがいるって聞いて、月に一回村の奴に連れてきてもらって探してたんだ。俺も知り合いに聞いてやったけど、見つけられなくてな。

最後に来た時お礼にって刺繍したハンカチをくれて、気立ての良い子だった。

…なのにその後、あんな事になっちまって。ジャックから姿を消したって聞いて心配したけど、今日見たところ元気そうで良かった。ジャックにも知らせてやらなきゃな」


翌日マシューはビルに別れを告げ、沢山のお土産と共にクロフト領へ帰って行った。

ビルは伯父に聞いたセシールの話を、エドワードへ教えなければと一旦思ったが(昨日結婚式だからエドワードはダメだ)と気づき、もう一つ聞かされていた連絡先のマーク・クロス伯爵へ宛てて手紙を書いた。



読んでいただき、ありがとうございます。


続きが気になる!と少しでも思っていただけたら、ブックマーク、評価(下の方にある☆☆☆☆☆)やブクマ、いいねで教えていただけると、嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ