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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第二章

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6 村長の憂鬱

見つけてくださってありがとうございます。

次の朝、ジャックはキリアンの家を訪れた。

実はキリアンを村に受け入れるに当たり、領主である公爵家から、村への迷惑料のような形で見返りがあった。それは村から領主に納める税を軽減してくれるという有難いもので、村長としては、それに報いて少しは面倒を見てやろうという気持ちがあった。


同時に、領都で宝飾店をやっているマシューから、後から来る奥さんと赤ん坊、侍女の三人を気にかけてくれと頼まれていたので、この男を鍛え直せば一石二鳥だとも思っていた。

キリアンがまともになれば、その三人も結果的に暮らしが楽になるからだ。

しかし昨日の様子を見ると前途多難だな、とジャックはいささか憂鬱だった。




「入るぞ」声をかけてドアを押すと鍵はかかっておらず、すんなり開いた。

部屋に入って見渡せば、隅にあるソファでキリアンが眠っているのを見つけた。

テーブルには、半分程水が入ったコップが置いてある。


家の中には、食器棚、数人分の食器、テーブル、椅子、奥の部屋にベッドも見えて、すぐにここで生活出来るよう整えられているのが分かった。

公爵家から数日前何人か人が来て、傷んだ箇所の修繕をしたり、家具やリネンを運び込んでいるのは見たが、ここまで整えられているとは思わなかった。公爵家の者達は作業が終わると鍵をかけ、その鍵をジャックに預けて帰ったので、家の中をちゃんと見たのはこれが初めてだった。

この家は元々公爵家の執事が引退する際、田舎で晴耕雨読の生活がしたいと願って、退職金の一部として与えられた家だ。

その男が亡くなって数年間空き家になっていたのを、前公爵が平民となるキリアンの為に全て整えておいてやったのだ。

そんな事、この坊ちゃんは気づきもしないんだろうな。ジャックは、前公爵もこいつをダメにするのに一役買ったんだろうと確信した。


「おい、起きろ」いつまでも部屋の観察もしていられずキリアンを乱暴に揺すると、キリアンは嫌そうに薄く目を開いた。

「今日から仕事だぞ。顔を洗って向かいの俺の家へ来い。来たら飯をくわせてやる」

キリアンは何か文句を言っていたが、ジャックは無視して「さっさと来いよ」と引き上げた。

(頼まれたのは女子どもの事だけだからな。マシュー、悪いが俺もそこまで暇じゃない。坊ちゃんも腹が減れば働くだろ)


キリアンは乱暴に起こされて腹を立てたが、昨日昼を食べたきりで空腹はどうしようもなく、仕方なく顔を洗いに洗面所らしき場所へ向かった。

いままでは侍従が運んできた温かい湯で顔を洗っていたのに、洗面所には水道と桶が一つ置いてあるだけだった。蛇口を回すと冷たい水が出てきて、水をすくう手があっという間にかじかんで赤くなった。それでも昨日は顔も洗えなかったので、悪態をつきながらも何度も顔に水をかけた。洗い終えてタオルを探したら、横の棚に粗い布が何枚か見つかったのでそれで顔を拭いた。


顔を洗っても湯あみを諦めきれないキリアンは、家の中にバスタブを探したが見当たらず、そもそも湯をどうやって用意するのかも分からないので、早く領都へ行かなければと固く決心した。領都で思い出し慌てて腹をさぐると、金と宝石の入った袋は無事に巻き付いたままで心底ホッとした。

(母上の言った通り、あの男の言う事をひとまず聞いて油断させよう。どうやって領都に行くのかも分からないから、情報を集めなければ。どんな仕事か知らないけど、僕なら何だってうまく出来るはずだ。違いを思い知らせてやれ。信用させて、領都へ逃げよう)


そうと決まれば、とキリアンは早速向かいのジャックの家へ行った。

「おはようございます。今日からお世話になります」ジャックの家の玄関をノックし、出てきた男に出来るだけ愛想良く挨拶をした。

男はキリアンを見ると「使用人か。裏口に回りな」とだけ告げ、ドアを閉めてしまった。

「裏口…?」何のことか分からず突っ立っていると、キリアンを見かけて若い女が近寄ってきた。


「あなた、ここで働くの?使用人は表玄関は使っちゃダメって言われなかった? 私も行くから、一緒に行きましょう」女は聞いてもいないのに「私はサラよ」と名乗り、キリアンに媚びるような笑顔を向けてきた。

(ああ、そうだ。何で忘れてたんだろう。僕に近づきたがる女はどこにだっているじゃないか)

キリアンはサラの態度に、婚約解消騒動で失くしそうだった自信がよみがえってきた。

「案内してくれる?サラ」手始めに優しく笑ってみせて、一緒に歩き出した。


ジャックは素直にやって来たキリアンに驚きながら、台所で他の使用人と共に朝食を取らせてやり、食べ終わる頃一人の男を連れてきた。

それはさっき玄関を閉めたあの男で、キリアンは不快になったが「先ほどは失礼しました」と丁寧に話しかけた。


ジャックが「先ほどってなんだ」と男に聞くと「こいつが表玄関から入ろうとしていたんです」と答えた。

「あーそうか。キリアンは元貴族で最近平民になったばかりだから、面倒だがそう言う事から教えてやってくれるか。キリアン、これはうちで書類仕事を主にやってくれているジョージだ。お前の教育を頼んだから、よく言う事を聞いて、真面目に働けよ」

ジャックが忙しそうに去って行くと、キリアンはジョージに「では、私はどんな事をすれば良いでしょう。手紙を書く事も、計算も、書類仕事全般出来ますよ」と得意げに言ってみせた。


それを聞いたジョージは、馬鹿にしたようにキリアンを見やり「お前の仕事は、下男の仕事で書類仕事じゃない。だがその前に、まずは生活する事を覚えさせろと村長に言われている。いずれ力が付いたら畑や厩舎にも行かせるが、まずは下女達と一緒に洗濯と掃除だ。それと、厨房の下働きだな」

キリアンは余りの事に血の気が引いたが、計画を思い出し「分かりました」と頭を下げながら、唇をかみしめた。


しかしジョージに連れられ洗濯場に向かったキリアンは、内心で(これは思ったより悪くないな)とほくそ笑んだ。

洗濯は下女の仕事で、そこには三人の下女が働いていたが、その中に今朝会ったサラがいたのだ。他の二人は疲れた顔をした年配の女で、キリアンには目もくれず、一心に布をこすっていた。

サラは洗濯場に現れたキリアンを見て驚いた顔を向けたが、ジョージから「こいつはキリアンだ。貴族だったが最近平民になったから、何も出来ない。まずは洗濯から教えてやってくれ」と紹介されると憧れの目を向けてきた。

(貴族が珍しいから仕方ないな)キリアンが悦に入っていると、ジョージが「彼女たちに教えてもらって真面目にやれよ。お前の着ている服も、これからは家で自分で洗わなけりゃならないんだ」と言い「また時間が経ったら掃除の方へ連れて行く」と去って行った。


「あの」サラが残されたキリアンに声をかけると、他の二人もうろんな目つきでキリアンを見てきた。

「なに」キリアンはサラだけに視線を合わせて答えると「わたし、教えてあげましょうか」

頬を紅潮させて聞いてくるので「うん。僕はよく見て覚えるから、やって見せてくれるかな」と答え、皆に美しいと褒められた微笑を浮かべてみせた。

サラは「はい。じゃあよく見ていてくださいね。まずは石鹸を…」と始め、キリアンは横に座って洗濯を見ているフリをしながら、ずっとサラの白い首元を見ていた。



読んでいただき、ありがとうございます。


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