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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第一章

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24/61

24 王太女殿下の結婚式

*3/31 14:30 加筆修正しました。

結婚式の日は、空に雲一つなく、柔らかな緑に春の陽がきらめく素晴らしい天気になった。


「王太女殿下、おはようございます。今日は全てが殿下を祝福してくれていますよ」

昇りたての朝日と共に、侍女長のミラ夫人が私を起こしに来てくれた。

いつもは専属侍女の誰かが来るのだが、今日は夫人自らがその役を買って出てくれたらしい。

母の代から長年侍女長を務めるミラ夫人は、私にとって優しくも厳しい叔母のような存在だ。

「さあ、大聖堂へ向かうお仕度をいたしますよ」

起きたてでまだ少しぼんやりしている私を、にこやかに、しかし有無を言わさず急き立てる夫人の笑顔に、私は一気に覚醒し飛び起きた。


正装には大聖堂で着替える為、王宮では簡単に身支度を整えて、朝食は軽めに取った。

その後ミラ夫人を筆頭に、専属侍女達と共に大聖堂へ向かう。

万一の事を考え、式とパレードのドレスとパリュールはこの時まで王宮で保管されていたので、全てを携えての大移動である。

厳重な警備に守られて到着した大聖堂には、私たちより早く来て待機していた王宮付き侍女達が、準備を整え待ち構えていた。


彼女達は、専属侍女達と合流するや、綿密な打ち合わせとリハーサルを繰り返した手順通り、私の今日の装いを作り上げてくれる。


髪は額を出しサイドを編み込んでから、残りの長い髪と一緒に後ろで高く結い上げまとめた形に、化粧はいつもよりもくっきりと、式の行われる聖堂の中はほの暗いので、顔色が悪く見えないように紅も強めにほどこす。普段私は薄化粧が好みなのだが、今日は沢山の人が集まってくれるので、遠くの人に少しでも顔が見える様にと、彼女たちの提案を取り入れた化粧方法だ。


髪と化粧を整えた後、エドワードと相談して選んだ純白のマーメイドラインのドレスに袖を通した。

『あなたがこれを着ると、きっと凛と立つ百合のように見えるでしょうね』

エドワードは、言葉を飲み込んでいたあの頃が嘘のように、誉め言葉を惜しまない男性に変身していた。そのお陰で私は自信を持って、身体のラインが出るこのデザインを選ぶ事が出来て感謝だ。

最後に母と同じ真珠のネックレス、ブレスレット、イアリングを着け、ヴェールを被り、頭上にティアラを載せて装いが完成した。


「とてもお綺麗です、王太女殿下。王妃様もきっと今、殿下とご一緒にいらっしゃるでしょう。どうぞお幸せに」ミラ夫人が涙ぐみながらかけてくれる祝いの言葉に、私も危うく涙をこぼしそうになるが、ここはぐっとこらえる。

そのまま椅子に腰かけて待っていると「お時間です」と声がかかり、ノックの音がしてお父様が入って来た。


「アイリーン」名前を呼んだきり黙っているお父様を、どうしたのかしらとヴェールを透かし見上げると、口を一文字に結んで泣いていた。

「お父様」ミラ夫人の手を借りて立ち上がり、父の元へ向かいそっと手を握る。

「お父様、今まで本当にありがとう。でも、これでお終いじゃないわよ。これからもよろしくお願いね」明るく言う私に父は泣き笑いでうなずき「ああ。そうだな。これからはお前とエドワードと三人で国を支えていこう。きっとお母様も見守ってくれる」「ええ。今日の式は、お母様も一緒よ」

父は侍女から受け取ったハンカチで目元をぬぐい、私は差し出してくれた腕に手をかけて、二人で笑い合い聖堂へ向かった。


聖堂の扉が開かれ、皆が一斉に私とエスコートする父を振り返った。

よく知っている顔、懐かしい顔、もしかしたら初めての顔、誰もが笑顔で迎えてくれて、祝福の気持ちに包まれたカーペットの先に、エドワードが立っている。

エドワードは黒の正装で胸には真珠のピンとシルクのチーフ、いつもの様にスッと背筋を伸ばし、大好きな榛色の瞳に愛情をたたえ、私を見つめている。

その瞳を見たら、いつのまにか冷えていた指先に温かさが戻り、口元には自然と笑みが浮かんだ。




閉ざされていた扉が開きアイリーンが陛下と共に入場した時、エドワードは何度目なのか分からない、夢の中にいるような気持ちになった。

歩み寄ってくるのは、確かに二人で考えたドレスに身を包む人なのに、このシーンが現実では無いような気さえしてくる。落ち着かない気持ちを振り払うように、ひたすらヴェールで隠れた愛しい菫色を想っていると、ヴェールからのぞく口元がそっと弧を描いて微笑んだ。

それを見た瞬間夢と現実が一つになったエドワードは、幸せな微笑を浮かべ、彼女の父親からその手を受け取った。



私とエドワードは大聖堂の式を終え、少しだけ休憩を取ってからそれぞれ装いを替えた。

私は下ろした髪の所々に花を挿し、ドレスは光沢のあるアイボリーのプリンセスライン、そしてビルの華やかなパリュールを身に着けた。

私の頭上のティアラにはパープルダイアモンドが輝いて、口下手を捨て去ったエドワードは「正に妖精の女王のようだ」と賛辞を送ってくれる。

そんなエドワードも白い礼装にアメジストのピンに替え、いよいよ集まってくれた皆に、私たちの結婚をお披露目する番だ。


私たちは王都を巡るパレードの為に、華やかに飾られた八頭の馬が引く豪奢な馬車に乗り込んだ。今日は出来るだけ皆に見えるようカーテンを全開にして、ゆっくりと進むことになっている。


聖堂から王宮への道は、私たちの姿を見ようと待ってくれていた人々でいっぱいだった。

皆、輝くような笑顔で手を振り、歓声を送ってくれている。

私たちもそれに応え手を振り返すと一層声があがり、それにまた応えながら、全力で皆の笑顔を守っていこうと胸に誓った。


噴水広場にさしかかったところで、エドワードが「アイリーン、右を見て」とささやいてきた。不自然にならないよう顔を巡らせると、向かいの通りにビルが立って笑顔でこちらを見ていた。


彼は私と目が合うと、うやうやしく胸に手を当て会釈をしたかと思うと、悪戯な顔をして思い切り両手を上げて叫んだ。

「王太女ご夫妻万歳!」

ビルの隣に立っている、彼によく似た年配の男性の目は、私たちにというより私のティアラに釘付けだった。ティアラに続いてネックレス、イアリング、ブレスレットと順に見ていった後、大きくうなずいて「万歳!」と叫び、ビルの背中をバンバン叩いて泣き笑いした。叩かれているビルも嬉しそうに笑う。


「あれ、絶対伯父さんよ」「ジュエリーしか見ていないな」思わずエドワードと言葉を交わして笑ってしまったけれど、皆が浮かれて万歳する声に溶け込んで、パレードは二人の前を進み通り過ぎた。

長く続いた万歳の声が途切れた時、今度は少し離れた場所から「王太女殿下、おめでとうございます!」という女性の声がして、また皆がそれに合わせて「おめでとうございます!」と叫ぶ中、パレードは王宮に到着して無事に終わった。


その日私の付けていたパリュールは、国内だけでなく国外の招待客の間でも評判になり、ビルは「王太女殿下の宝飾職人」として大陸中に名を上げていくことになる。




読んでいただき、ありがとうございます。

ここまでで第一章完結です。第二章からはキリアンとセシールの物語になります。


続きが気になる!と少しでも思っていただけたら、ブックマーク、評価(下の方にある☆☆☆☆☆)やブクマ、いいねで教えていただけると、嬉しいです!

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