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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun
第一章

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23 王太女殿下の宝飾職人

見つけてくださってありがとうございます。

パレードのパリュールが届いたと聞いて、私は急いで奥宮の応接室へ向かっていた。

ビルから完成の連絡を受けたエドワードが、近衛と一緒に今朝受け取ってきてくれたのだ。

なんでもエドワードが選んだ『かなり高価な』宝石が使われているので、念には念を入れて厳重な警備で運んでくれたらしい。

ビルにはもう二年以上会っていないが、彼のジュエリーには数多く会ってきたので不安は無く、早く見たいという気持ちでいっぱいだった。


ドアを開けてもらい部屋に入ると、エドワードがソファに腰かけて待っていた。

私が彼の隣に座るとエドワードが合図し、侍女の一人が青いビロードのトレーを持って現れ、慎重にテーブルに置いた。


トレーの中をのぞき込んだ時、私は青空の下、花の咲き乱れる庭園の中にいた。

金の花々にさまざまな色の宝石が散りばめられ、花の間からは妖精の撒く粉のような動きを持った、金で編まれたリーフが見え隠れする。

花々のモチーフを連ねて作られたティアラは、春の訪れを告げる妖精王の花冠のようで、中央の花芯には希少な大粒のパープルダイアモンドが輝いていた。

(私の瞳の色だわ) エドワードを見ると、嬉しそうに私を見つめているから、誰がこれを探してくれたかすぐに分かってしまう。

同じモチーフのネックレス、イヤリング、ブレスレット全てに、宝飾職人の磨き上げた技術、時間と努力が注ぎこまれていると分かる逸品だった。


「エド、素晴らしいわ。パレードでこれを着けるのが待ち遠しい。特に、菫色のダイアモンドが付いたティアラを。あなたが見つけてくれたんでしょう。ありがとう」

「君の持っていたブローチに付いていた石と、同じくらい似ているものを探したよ」

「ビルの初めて作ったブローチね」

「生まれは隣国で、クロフト領に伯父さんがいて、素晴らしいパリュールを作って、王太女殿下の宝飾職人になるビルのね」



ビルは一張羅に身を包み、迎えにきた王家の馬車に乗って初めて王宮に足を踏み入れた。

自分よりよほど立派な出で立ちの侍従に案内され、王宮のさらに奥へ進み、小さな客間へ通される。喉がからからに乾いていたので、供されたお茶をありがたく飲んでいると(生まれて一番美味しいお茶だった)、ほどなくしてノックの音がした。慌ててカップをおいて立ち上がると、侍従がドアを開き、王太女殿下とエドワードが姿を現した。


「王大女殿下並びにエドワード侯爵令息様にはご機嫌麗しく…」と言いかけたビルの必死の挨拶は「ビル、敬語は無しよ」という笑いを含んだ言葉にさえぎられ、周りを見回すと、いつの間にか部屋にいた使用人は姿を消して自分達三人だけになっていた。

「わかりました。…わかった」ビルがあの時と同じ受け答えをして、やっと笑顔を作ると、アイリーンの菫色がゆっくりと溶けて滲んだ。


「来てくれてありがとう。元気そうでよかった。あなたの作ってくれたパリュール、素晴らしかったわ」早口で言葉が転がり出る姿に、懐かしさが溢れる。

「喜んでくれたら、頑張った甲斐がある…あー、やっぱりお城でこの言葉遣いは無理です。十分ではないですが、私なりの敬語で話させてください」

「仕方ないわね」許しを得たビルは、改めて言葉を述べた。

「結婚式のパリュールという大切なものを任せてくださったこと、お褒めの言葉を頂けたことに感謝します。お気に召していただけて、身に余る光栄です」

そしてビルは、懐からあの時のブローチを取り出した。

「遅くなりましたが、やっと預かっていた物をお返しすることができます」

あれから折々に眺めてはやる気を奮い立たせてくれ、今やビルのお守りのようになっていたブローチを、ついに主の元へ返す事が出来る。


アイリーンはブローチを両手で受け取り、じっと眺めて微笑んだ。

「私、あの日これを売ろうとしたけど、本当はずっとお守りみたいに持っていたのよ。目に入るとなんだか元気が出たの。これがあったおかげで、今こうしていられる気がする。ビルが初めて作ったこのブローチには、不思議な力があるのかもしれないわね」

「それは私も同じです。このブローチのおかげで、今こうしてここにいます」

「じゃあやっぱりこのブローチは幸運のお守りね。ビルは素晴らしい職人だと信じていたけど、結婚式にあなたのジュエリーをつけられるとは思いもしなかった。あなたの努力と、見守っていてくれたエドワードに感謝しかないわ。二人とも本当にありがとう」


アイリーンはそこで、寄り添って座るエドワードと顔を見合わせてうなずき、

「ビル。あなたを王太女の宝飾職人としたいと思います。受けてくれますか」

ビルは立ち上がり、精一杯の敬意をこめて頭を垂れ、礼を取った。

「王太女殿下の宝飾職人として、誠心誠意仕えさせていただきます」


エドワードが背後の棚に歩み寄り、置いてあった赤いビロードの細長い包みを持ってくると、アイリーンに手渡した。

アイリーンは包みを差し出しながら「ビル、あなたの夢がかなったわね。おめでとう」満面の笑みを浮かべ、エドワードも「あなたの努力の賜物です。おめでとうございます」祝福を送る。

ビルが恐る恐る包みを受け取り、慎重に開けてみると、中には《王太女殿下御用達》と美しい飾り文字が彫られた金色のプレートが入っていた。しばらくの間それに見入ってから我に返り「この名前に恥じない様これからも精進します」声を震わせたビルに、アイリーンは厳かに「期待しています」と答えた。


ビルは再度王家の馬車で送ってもらい店に戻り、さっきもらったばかりの金のプレートを、ドアの横に慎重に取りつけた。

少年の頃に出会った敬愛する王太女殿下の名を掲げさせてもらえた喜びが胸に溢れる。

いつまでも見つめていたかったが、これに恥じない店であり続け、いずれ「女王陛下御用達」を掲げられるよう精進しなければならないと、気持ちを新たに次のジュエリーの制作に取り掛かった。



読んでいただき、ありがとうございます。


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