19 王太女殿下の婚約者1
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婚約解消してここ数年の憂いが晴れた私は、これまで以上に公務に励み、国をより良くする為の試行錯誤を続けていた。
ビルと話して自分の取った施策が現実に役立ったと知れたのは大きかったが、その中で気になったのが、特効薬の流通経路だった。
あの時ビルはたまたま王都に住んでいて、師匠が大商会に伝手を持っていたからすぐに薬を手に入れられたが、そう幸運でなかった者も多くいただろう。
伯父さんが疫病にかかったという事は、クロフト領に他にも患者がいたはずで、その人達皆に薬が行き渡ったとは思えなかった。
緊急を要する場合、大商会が薬を仕入れ、それを各地の大きい薬屋や問屋が都市まで出向いて購入する仕組みではなく、もっと早く隅々へ行き渡る仕組みが必要な気がしていた。
風邪や腰痛など一般的な薬なら薬師が調合できるから、人々は自分の住む場所ですぐ手に入り問題ない。だが今回のような特効薬に関しては、まず処方が秘密の事も多いし、材料も手に入るのか分からない為、完成品を手に入れるのがセオリーになる。完成品を仕入れて、国の地方にまで迅速に行き渡るようにするにはどうすれば良いのか。
うんうん唸って考えていると、いつの間にかエドワードが、侍女に頼んでお茶の用意をさせてくれた。
「殿下、少し休憩をお取りください。甘い物を食べると思考がはかどります」
私の好きなリモネジャムの載ったクッキーに頬がほころぶ。
「美味しい」
「良かったです。この菓子は、元は南の辺境伯領地でだけ作られていたそうですね」
「そうなの?今は国中で食べられるわよね」
「はい。初めは南の教会を訪れた司祭がこの菓子を気に入ってレシピをもらい、自分の教会の料理人に作らせたそうです。その教会を訪れた別の司祭がまたそれを気に入って…と言う具合に国中に広まっていったという話です」
「教会から教会か…。おかげで今私はここで、好きな時にリモネジャムクッキーが食べられるわけね」ありがたいわ!ともう一枚取って食べる途中で、これは使えるのでは?とひらめいた。
「エドワード、あなたの言う通り頭が働いてきたみたい。
特効薬みたいな特別な薬を、迅速に国中に行き渡らせる方法に悩んでいたんだけど、教会に協力してもらえないかしら。教会は国中にあるし、民は必ず居住区の教会と密接に結びついているでしょう。地区に住む人数や、老人や子どもがどれくらいいるのかも把握してるから、緊急時に慌てて調査する必要もない。
国が商会に依頼して仕入れた薬を、まず王都や地方都市の大教会へ卸して、それぞれ管轄下にある地区の教会へ配布してもらうの。各地区では把握している人数に応じて、医師や薬師に必要数を供給する。教会も人助けは神の御心にかなうんだから、応じないとは言いずらいと思うのよ」
「供給方法だけで言えば、いい案だと言えますね」エドワードもうなずいた。
「方法以外で問題なのは…費用よね」
「そうですね。国も、全て無償で薬を提供するほどの余裕はありません。非常時用の予算から一定額を国が出し、残りは各領主に領民数に応じた負担をしてもらい、さらに民にもそれぞれの収入に応じて支払ってもらうのはどうでしょう。
もちろん、天災で通常の税を払うのも苦しい領主や、貧しくて食にも事欠くような者は考慮して」
「そうね。どのくらいの割合で皆が負担するかは、後で担当部署に概算を出してもらうとして、大まかな骨組みはそれで良いと思う。
領民を軽んじる領主は負担に反発すると思うけど、感染が止まらなければ働ける領民が減って自滅するって理解してもらうしかないわね。この施策に対する態度で、問題ある領主も一緒にあぶりだせそうよ」
「あとは供給された薬の横流しや、速やかに供給せずため込んで値段を吊り上げるなど、予想される悪事を防ぐシステムも必要でしょう」
せっかく用意してもらったお茶が冷めてしまうのも気付かず、私たちは話し続けた。
この時二人で考えた案は後に議会の承認を得て、各担当部署で実務、法律面を整えながら教会、貴族、領主、地方の長らと話合いを重ねた末、薬に限らず非常時における支援網の礎となった。
また、後にこの方法を取り入れる国が増えた結果、大陸全土に広がる大規模な疫病が流行った際、速やかな収束に至る原動力にもなれるとは想像もしていなかった。
そうこうしている間に婚約解消から4年が過ぎ、そろそろ次の婚約者を選ぶ様にと父から圧力をかけられるようになっていた。
「サミール国の第三王子から婿入りの話が来ているぞ。アイリーンに留学時に世話になったと書いてある。良い話に思えるが、どんな人柄なんだ」
「ライアンね、懐かしいな。面白くて頭の良い人よ。いい加減そうに見えて、留学前にしっかりこの国の言語を学んできて、農業技術をサミールに持って帰っていたわ。でもライアンにも婚約者がいたはずだけど、どうしたのかしら」
「お前に婚約者が未だにいないのを知って、第三王子が王配になれるのなら、国益として元々の婚約を無しにしようと思っているらしい」
「はあ。ライアンは婚約者が大好きで、ほぼ毎週手紙を書いていたのよ。そんな婚約者と無理やり別れさせて結婚しても、良い未来が見えないわ。お断りしてください」
「お前がさっさと次の婚約者を決めないのがいけない」
「分かりました。出来るだけ早急に対応します」
仕事の話じゃないんだぞというお父様の声は聞こえない振りで執務室に戻ると、書類整理をしていたエドワードから「また婚約申し込みのお話ですか」と尋ねられた。
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