17 伯爵家の兄妹2
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私が沈黙していると、エドワードが伯爵に尋ねた。
「妹さんを気づかう気持ちは分かりますが、夫婦として平民生活を送らねばならないのは妹さんですよ。しかも生まれたての赤ん坊と一緒にです。村に行ってから本性を知るより、今のうちに心構えをさせる方が妹さんの為ではないでしょうか」
「おっしゃる通りです。私もそう考えて、最初は全てを教えようと思っていました。けれど妹に長年仕えている侍女から妹が死のうとしていた話を聞き、せめて子が無事に産まれ、妹の身体が回復するまでは黙っていようと決めました」
「死のうとしたですって⁈」突然声を上げた私に伯爵とエドワードが驚く。
「…はい。父親からお前はあの男に捨てられた、子を産んだら後妻にいけと言われた時です。食事を取らず寝たきりになり衰弱していって、侍女にもう死んでしまいたいと言ったそうです。
その時侍女がとっさに妹についた嘘のおかげで、生きようと思い直して徐々に回復したそうです」
「そう…それなら良かった。セシールはキリアンとあんな事になるまで、侍女として良くやってくれていたの。頑張り屋だったわ。
伯爵からのお願いだけど、最初は二人だけで頑張らせて、本当に困っている場合だけ、分からないように最低限の援助をするなら了承するわ。困窮して命を失くすような事は望んでいないけど、二人が真面目にやる事が今回の罰でもあるし、最初から援助を当てにするのはおかしいでしょう。特にキリアンに、今まで同様に暮らすことは出来ないと理解してもらわないといけないから。
ただ、クロフト公爵には前もって話を通して、協力を依頼した方が良いわ。二人はクロフト領に住む訳だから、きちんと現状を把握して何か起こった時対処できるようにね」
「王太女殿下。お許しいただきありがとうございます。ご忠告感謝します。早速クロフト公爵へもお話しします」伯爵は涙を浮かべた。
「それにしても、あなた達は兄妹仲が良いのね」
私はビルの伯父さんの事を思い出していた。伯父さんも妹さんを大切に思っていたから、クロス家の兄妹も同じだなと思い、何気なく口にした言葉だった。
「いえ、全くそうではないんです」伯爵はその言葉を聞いて苦く笑い
「王太女殿下もご存じと思いますが、母はこの一連の出来事が起こってすぐ離縁し、侯爵家に帰りました。私にも妹にも別れの挨拶ひとつありませんでした。
父は自分の目先の欲で妹をこの状態に追い込んで、こうなってからは妹を罵るばかりで、何一つかばおうとしませんでした。
私はそんな両親と関わりたくなくて、学院を出てからは領地に赴き、領地経営を名目にあの家に寄り付かず、妹のことも気にかけませんでした。だから妹があの家の中でどう過ごして、何が起こっているのか、家に戻るまで全く知らなかったんです。
知って初めてもっと早く私が気づいていたらと、妹を放っておいた自分を恥じました。こうしてお願いに上がるのも、結局は自己満足の罪滅ぼしなんでしょう」
「そうだったの」なぜか急に、私に褒められたセシールが嬉しそうに笑う顔を思い出した。
少女みたいに頬を赤らめていたセシールは、ずっと孤独だったのだろうか。
「妹はあんな両親の元でも素直に育ったと思います。きっとあの侍女のおかげでしょう」
「そういえば、侍女はいったいどんな嘘をついて元気を出させたのかしら」
伯爵は何とも言えず悲しい顔になった。
「『キリアン様は、お嬢様を愛していらっしゃいます』これが侍女のついた嘘です。
侍女は、妹と一緒に村へ行くそうです」
マーク・クロス伯爵は何度も頭を下げて部屋を出て行った。
二人になったところで、エドワードが私に尋ねた。
「殿下はセシールが憎くはないんですか。
そもそもあの令嬢はあまり出来が良くなかったですよね。私は殿下が自分の侍女に選んだことが不思議でした」
「私、キリアンの事を愛するどころか婚約破棄したかった訳だから、セシールに婚約者を取られたなんていう憎しみはないのよ。それよりも侍女として可愛がっていたから、主として裏切られた事はショックだった。だから、あの場ですぐ解雇してしまった。反省してるわ」
「殿下の取った行動は当然の事ですよ。侍女が婚約者と抱き合っていて解雇しない主はいません」
「ふふ、そうよね。それが普通よね。でも、伯爵家の解雇された侍女の時もそうだけど、私やお父様がキリアンをあのままにしていなければって思ってしまうのよ。キリアンが自分は許されると勘違いして取った行動で、人生が狂わされた被害者なんじゃないかって。
でも、私にはよく分からないけど、セシールがキリアンを本当に好きだったなら自分は被害者じゃないって言うかしら。伯爵の話を聞いていたら、彼女はただキリアンを好きになって一緒にいたかっただけなのかなって思ったわ。
セシールを侍女に選んだ理由は、確かに優秀じゃなかったけど、素直で一生懸命だったから。いつも小さいメモ帳を持ってて沢山書き込んでるの。何度もメモを見返して、次は失敗しないようにって頑張ってたわ。
メモ帳の事を褒めた時、自分の使用人が教えてくれたやり方なんですって誇らしげに話してたけど、きっと一緒に村に行ってくれる侍女の事ね」
「私は殿下が傷ついていないのなら異存はありませんが、温情もほどほどにしないとつけ込まれます」エドワードが苦い顔をするので、素直にうなずいておく。
「それにしても、伯父さんといいマーク・クロス伯爵といい、お兄様って良いわね。私にも心配してくれるお兄様が居たらよかったな」
「私だってお兄様ではないですが、いつも心配してますよ」
「エドワードは心配し過ぎてお兄様より、むしろお父様ね。
そういえばビルか伯父さんでも良いけど、クロフト領のあの村に知り合いはいないのかしら。セシールの事気にかけてくれるような人がいればこっそり頼みたい。
またビルの店に行って聞いてみようかな。セレンディピティにも行きたいし」
「いや、それなら私が一人で行ってきます。
大体、そこまで殿下がされなくても良いのではないですか。私は殿下がお人好し過ぎて心配です」
ちょうど時間があるので今から行ってきます、とエドワードが早足で出て行ってしまい、
置いて行かれた私は、部屋から出た彼が「そこがあなたの良いところですが」とつぶやく言葉は聞こえなかった。
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