16 伯爵家の兄妹1
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王とアイリーンは新当主挨拶の為に王宮を訪れた新たなクロフト公爵とクロス伯爵を、謁見の間に迎えていた。
新クロフト公爵は年の離れた弟のキリアンの素行をほとんど知らなかったようだが、元来真面目な性格らしく非常に恐縮して、謝罪を繰り返した。
「愚弟の犯した過ち、心よりお詫び申し上げます。我が家の教育と監督が行き届かなかった罪を、寛大なお心をもってこのようにお収めくださり、感謝申し上げます。
今後はクロフト公爵家一同、王家へさらなる忠誠を尽くして参る所存です」
最上級の礼をとる新公爵家当主へ王はうなずき
「この度の事はまことに残念であったが、王家と公爵家がこれまで以上に協力できるようになったと考えれば良かろう。よろしく頼むぞ」
「今後の貢献に期待します」私も言葉を添え、新クロフト公爵家当主の謁見は無事終了した。
クロフト公爵が退出し代わってセシールの兄マーク・クロス新伯爵の謁見となった。
新たにクロス伯爵となったマーク・クロスは、セシールと同じ栗色の髪に緑の目で顔立ちもよく似ていて、私は少し苦い気持ちと共に彼女の事を思い出した。
彼は公爵家同様に王家への謝罪と忠誠を誓った後、王と私へ向かいさらに言葉を続けた。
「先ほど、クロス伯爵家として王家への不敬をお詫びさせていただきましたが、兄として再度、妹セシールが殿下へ大変な過ちを犯したことを謝罪させていただきたく存じます。王太女殿下付き侍女としてお仕えしながらの不適切な行動と、今回の様な事態を引き起こしたこと、妹に代わりお詫びいたします」
クロス伯爵は突然床に跪き頭を垂れ、私は慌てた。
「伯爵。もう謝罪は受け取り、家としての対応も了承しています。そのような事をする必要はありません。立ってください」
「そうだな。それはもう済んだ話だ。これ以上の謝罪は必要ない。…それとも、他に何か話したい事があるのか」
王からの問いかけに伯爵は跪いたまま「実は妹の事で、厚かましい事を承知でお許しいただきたいことがございます」
私の後ろに控えていたエドワードが低い声で「厚かましいと分かっていて願い出るのは筋違いでしょう」とつぶやくのが聞こえたが無視する。
「ともかく、そんな格好をされていては落ち着かん。立ちなさい。しかし、私はこれから他国の大使との懇談が控えている。アイリーン、クロス伯爵の妹はお前の侍女だったのだろう。お前の元婚約者との話でもあるし、お前が伯爵の話を聞くと良い。聞いた結果どうするかは、お前が王太女として公正な目で決めなさい。エドワード、よろしく頼むぞ」
「御意」
父に任され、私はようやく立ち上がった伯爵とエドワードと共に、謁見室から応接室へ移動した。全員腰かけて、侍女に淹れてもらったお茶を飲んで一息ついたところで、話を再開した。
「セシールの事で許しを求めたいと言っていたけど、どんな事なのかしら」
伯爵はしばらく逡巡したが、やがて意を決して話し始めた。
「殿下もご存じの通り妹は現在身重で、順調であれば数か月で子が産まれる予定です。産後しばらくは伯爵家で過ごす事が許されていますが、その後は平民としてクロフト領へ向かいます。前当主間で決まった事とはいえ、貴族だったあの子が乳飲み子を抱え、平民になったあの男…元クロフト公爵令息と生活していけるとは、私にはとても思えないのです。妹の自業自得だとは分かっているのですが、内々に暮らしを助けてやる事をお許しいただけないでしょうか」
「自業自得と分かっているのなら、放っておかれたらいかがですか」
私を見つめる必死な瞳にどう答えようかためらっていると、隣に座っていたエドワードが冷たく言い放った。驚いて横を見ると見たことのない険しい顔をしていて、私は動揺して慌てて伯爵へ尋ねた。
「セシールはどうしているの? 自分達の処遇は聞いているのでしょう。自分には無理だと言っているのかしら」
「私が王都へ戻ってくるまで、妹は何も知らされていなかったんです。父は妹には何も話さず、公爵家の提案を全て受け入れて、それをそのまま私へ伝えただけです。
私が妹に会うのはあの子のデビュタント以来2年ぶりでしたが、妹の様子を見に部屋へ行くと、あの男が迎えに来てくれるから後妻には行きたくない、子どもも取り上げないでくれと懇願してきました。驚いて話を聞いたら、以前父に産んだ子は取り上げる、お前はサンディス侯爵の後妻にすると言われてずっと怯えていたそうです」
「サンディス侯爵の後妻? 確かあの方は今年40歳になられてセシールは17歳よね。まあ、それは良いとして子どもを取り上げるって、前伯爵は子どもをどうするつもりだったの」
「公爵家が欲しいなら渡して、いらないなら孤児院へ入れると言われたそうです」
私の頭の中に前クロス伯爵の姿が浮かぶ。いつも優しそうな笑みを浮かべていたけど、そんな人間と知っていたら、当主への罰をもっと厳格にしてやれば良かった。
「そう。それで実際決まったことを伝えたらどうだったの。キリアンは迎えには来れないけど、既に二人とも結婚して平民になっているって知って」
「妹は…涙を流して喜んだんです」
「「喜んだ⁈」」私もエドワードも驚いて声が重なった。
「喜ぶって、貴族令嬢が平民になって喜んだの?」
伯爵は深くため息をついた。
「妹は、あの男…元公爵令息を本気で愛しています。同時に王太女殿下の信頼を裏切った罪を自覚し自分を責めてもいます。だから平民になる事は当然の罰と思っていますし、それでもあの男と結婚させてもらえて嬉しいと喜んでいるんです。
私は卑怯だとは思いましたが、両家の取り決めで妹がクロフト領へ出立する期限が設定されていないのを良い事に、少なくとも子どもの手が離れるまでは伯爵家にいて良いと言いました。それなのに、あの男が先に村で頑張っているなら、自分も早く行って一緒に働かねばと言い、使用人に家事を習っています。
…私は前公爵から、あの男が妹も子どもも自分には関係無い、妹を愛していないと言っていたと聞き、妹の目を覚ましてやらなければと思いましたが、あの男を信じ切っている妹に教える事は出来ませんでした」
私はうなだれる伯爵を前に、セシールを今までのキリアンの浮気相手と同じだと思い込んでいた事を悔やんでいた。
キリアンの浮気相手は彼の見目と育ちの良さもさることながら、王太女の婚約者に愛をささやかせる事で、自分が王太女に勝ったと喜ぶような性質の者ばかりだったから、セシールを侍女として可愛がっていた分よけいに失望して、その場で乱暴に解雇してしまった。
私が早めにキリアンをどうにかしていれば、もしくはあの時彼女とちゃんと話をして、あんな男はやめなさいと言ってあげていれば、少なくともキリアンの子を身ごもってはいなかったかもしれない。
私はセシールが純粋にキリアンを愛しているなんて考えもしなかった。
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