余話・君も猫にならないか 1
エヴァン様が帰国した数日後・・・つまり私がシェラさんから解放された後日、リオン様からブルグ王国でのその後のことを聞かせてもらった。
「じゃあやっぱり王子様も謹慎になったんですか」
「母親である側妃殿下とはまた別の修道院に三年間の軟禁だそうだよ」
「三年もですか!?結構長いですね」
確か第一王子殿下の歳は9歳だとエヴァン様から聞いている。
そんな小さな子がお母さんと離れ、質素な修道院で三年も暮らすなんて大丈夫なんだろうか。
少し心配になって思わず呟けば、ソファのすぐ隣に座っているリオン様が私を気遣うように肩を抱いてくれた。
「幼いながらに物事の分別もつく賢い子らしいよ。母親である側妃殿下は反対したけど、王子は自分の祖父がしでかした事の重大さをよく理解して自ら処分を受け入れたらしい」
「偉い子ですねぇ・・・」
内心どんなに不安だろう。大人の思惑で小さな子どもまでとばっちりを受けてしまい、エヴァン様も心苦しく思っているだろうな。
エヴァン様にも思いを馳せていれば、リオン様も丁度その名前を出した。
「最初は五年の軟禁という話だったところをエヴァンがうまく立ち回ってその期間を縮めたと聞いているよ。三年ならまだ帝王教育の遅れも取り戻せる。それに月に一度の院外からの面会も認められているし、状況によってはその軟禁期間も短くなるらしい」
「そうなんですか!」
「第二王子の弟殿下も、毎月の面会日にはエヴァンと一緒に必ず修道院を訪問するって言ってるんだって。それに第一王子殿下は一人きりで修道院に入るわけじゃないよ。プリシラ嬢の所から引き取った猫も一緒だ」
その言葉にホッとする。
エヴァン様も、元々は二人の王子様のために猫を引き取ってくれたものの状況によっては軟禁先まで連れて行けないことも考えられたのだ。
「じゃあ猫ちゃんが少しは第一王子殿下の慰めになってくれますね!」
良かったと笑えばリオン様も頷いて微笑む。
「ユーリの心遣いであるあの植木鉢も持参出来るそうだし、猫も元々はユーリが手伝っていたカフェにいた子でしょう?さすがにルーシャ国の癒し子に関係あるものまでは取り上げられないよ」
それに、とリオン様は続けた。
「ユーリの加護が付いた物を持っている事によって、第一王子殿下はルーシャ国の癒し子にも気にかけてもらっている人物だとの証明にもなるからね。謹慎中もその後も王子が粗末に扱われることはないと思う」
「それならいいんですけど」
最初にリオン様に相談した通り、私の肩書きが役立ちそうで良かった。
「そういえば刺客の人達はどうだったんですか?やっぱりシグウェルさんのあの自白剤でまた酷い副作用が出たんですか?」
そちらも気になっていたのでついでに聞けば、リオン様はちょっとだけ呆れたように言った。
「まだあんな奴らのことも気にしてたの?ユーリは本当にお人好しが過ぎるね」
「あはは・・・」
まあ確かにブルグ王国へ護送される前に面会した刺客達に癒しの力を使った際は、私が声を掛けてもあの人達はみんな目を逸らして無言だったけど。
でも人間、都合が悪い時は素直になれないこともあるよね。
あれは狙った相手の私に逆に親切にされたから自責の念にとらわれて何も言えなくなったと思っている。
刺客達のその態度にリオン様達は怒っていたけど私自身はそんなに気にしていない。
だけど私のために腹を立ててくれたリオン様達の気持ちもありがたいので、何も言わずにただ笑って誤魔化した。
するとそんな私を見てリオン様はため息をついた。
「・・・まあその人が良過ぎるところが今回はうまく働いたと言ってもいいんだけど」
「え?」
どういう意味だろう。小首を傾げた私に教えてくれる。
「ブルグ王国に護送されてからの刺客達は、非公開の場でもう一度証言させられたらしい。第一王子殿下の外祖父を始めとして事件に関わった者や重臣達が同席する場での非公式な裁きの場だ」
その言葉になるほどと思った。
国王陛下の代行も務めることもあるエヴァン様が他国で襲われたなんて公になったら国内が大変な騒ぎになるんだろう。
だからなるべく穏便かつ迅速に処分を決めるために非公式・非公開という形を取ったに違いない。
「それで、その場で刺客達にシグウェルの自白剤を使ってこちらで話したのと同じ事をもう一度喋らせようとしたら、彼らは薬を使うまでもなく自ら進んで洗いざらい話したらしいよ」
「ええ?」
ルーシャ国で捕まった時はあんなに貝のように口を閉じて何も話さなかったのに?
「シグウェルさんの魔法薬がよっぽど怖かったんでしょうかね・・・?」
思わず眉をひそめたらリオン様に笑われた。
「違う、そうじゃない。まあ多少それもあるかも知れないけど一番の原因はユーリだよ」
「私?」
「帰国直前、ユーリに治癒の魔法を受けて優しい言葉まで掛けられたことが効いたらしい。その前までに受けたシグウェルの強制的な魔法を使っての尋問や自白剤に比べてよっぽどそれが心に響いたんだね。証言した時に泣きながらユーリを称えて、ユーリに対する感謝と謝罪もしたらしいよ」
手紙でエヴァンも凄く驚いたって書いていたと言われて私も驚く。あの人達が泣いて謝った・・・?全然そんな雰囲気の人達には見えなかったのに。
「そんなわけで手練れの刺客達を簡単に改心させてしまったユーリは第一王子殿下達への贈り物も相まって、ブルグ王国の中では慈悲深い女神の遣いとして名声が高まったみたいだね」
良かったね、とリオン様は笑っているけど良かったのかな?
イメージだけが先行して、この先いざブルグ王国を訪問した時に実物とのギャップにがっかりしないといいんだけど。
「ブルグ王国の人達に会う機会がある時は私、いつもよりちょっとおとなしくしていた方がいいですか?」
お菓子を出されても手を付けない方が?と聞けば楽しそうにまた笑われた。
「いつも通りのユーリでいいんだよ。それが一番魅力的だし、皆に敬愛されている僕らの好きなユーリなんだから」
「はあ・・・」
いつも通りって、食い意地が張ってるとか迂闊に揚げ足を取られる言動が多いとか、体力不足の運動音痴とかあんまり良いところはない気がするんだけど。
本当にそれでいいの?と思っていたところにレジナスさんから声がかかった。
「リオン様、さきほどシグウェルから連絡がありました。ユーリに用事があるので王宮に立ち寄った際、帰りにこちらにも顔を出したいそうです」
あれ、何だろう?
「そうなんだ。今日はもう僕も仕事はないし同席するよ。君も一緒でいいだろう?シグウェルには僕らも同席するって伝えておいてくれるかな」
レジナスさんの報告に頷いたリオン様は私に向き直り
「ユーリに用事ってことはまた何か新しい魔法薬か魔法実験でも持ち掛けるつもりかも知れないからね。念のため僕らも立ち会うよ」
なんて言う。信用ないなシグウェルさん。まあ今までの実績の積み重ねだから仕方ない。
そう思って同意したら
「それにシグウェルの口車にうっかり乗せられたユーリが騙されてそれに協力しないとも限らないでしょ?そうなったら止める人がいないと」
と続けられた。あれ?私もシグウェルさんと同じくらい信用がないね!?
腑に落ちない、と思いながらその後もリオン様やレジナスさんと過ごしていたら予定通りシグウェルさんがやって来た。
やって来て、開口一番言ったのが
「君も猫にならないかユーリ」
だった。・・・え、今何て言ったの?ていうかなんで?




