270話 焼きそばって優秀だよね
「たくさん動いたからお腹すいたよ~。ちょっと早いけど、お昼ごはんにしない?」
「そうですね、わたしもお腹すきました」
今日は朝から二人で掃除を頑張っていた。
ミミちゃんの部屋のシーツと布団を洗って干した後、『せっかくだからついでに……』と謎に掃除のモチベーションが上がり、いろいろ手を着けていったら大掃除に発展していまに至る。
普段から小まめに掃除しているおかげであんまり時間がかからなかったけど、ちょっとした運動と同じぐらいには疲れた。
「使いかけの食材がけっこうあるし、焼きそば作ろうよ!」
キッチンに行って冷蔵庫を漁った結果、すぐさま頭の中に焼きそばが浮かんだ。
具材の自由度や作りやすさにおいて、焼きそばはカレーに匹敵すると思う。
まぁ、今回は焼きそばの具材として意外性のあるものは使わないんだけど。
「あっ、いいですね。ホットプレート出しますか?」
「うんっ」
「了解です」
ミミちゃんがホットプレートに手を伸ばす。
ホットプレートはそんなに重くはないけど、かと言って軽い物でもない。
「手伝おっか?」
「ありがとうございます。でも、一人で大丈夫ですよ。任せてください」
「分かったっ。じゃあ、あたしは具材出しとくね」
危なげなく運ぶ姿をしっかり確認してから、視線を冷蔵庫に戻す。
賞味期限が近いソーセージを手に取り、野菜室から四分の一ぐらいのキャベツ、三分の一ほど残ったにんじん、玉ねぎ半分、ピーマン一個を取り出して調理台に並べる。
麺とソースはもう少し後で。
そして、ちょうどいいタイミングでミミちゃんがリビングから戻ってきた。
「キャベツから切っていきますね」
「ありがと~」
ミミちゃんがキャベツを切り始めたのに合わせて、あたしは切った具材を置くための大皿を用意する。
次ににんじんとピーマンを洗って玉ねぎの皮を剥き、包丁とまな板をもう一組出してミミちゃんの隣であたしも同じように食材を切っていく。
野菜が焼きそばの具材に適した大きさに刻まれていく中、『ぐぅぅぅぅ』という音が重なって聞こえた。
「あっ、いま同時にお腹鳴ったね」
「そ、そうですね、ちょっと恥ずかしいです」
「野菜を切ってるだけでこれなら、ソースの焼ける匂いを嗅いだらどうなっちゃうのかな」
「配信中じゃなくてよかったって心から思うことになりそうです」
「あははっ、確かに」
そして、そんな談笑から十数分後。
「配信中じゃなくてほんとによかった~」
目の前で食べ頃に近付いていく焼きそばが、おいしそうな匂いであたしとミミちゃんの食欲を過剰なまでに刺激していた。
一刻も早く食べさせろと催促するかのように、お腹の音が力強さを増して何度も鳴る。
高温で熱されたソースが放つ香ばしい匂い、おいしくないわけがないと一目で分かる圧倒的なビジュアル、油やソースが跳ねるじゅうじゅうという音。
「もういいよね、食べよう!」
「賛成ですっ」
言うが早いか、あたしたちはすぐさま焼きそばを取り皿に移す。
「「いただきますっ」」
逸る気持ちをなんとか抑え、火傷しないよう熱々の焼きそばに数回息を吹きかけてから満を持して口に運ぶ。
「……っ!」
濃いめのソースがしっかりと絡んだ麺、シャキシャキのキャベツと、食感を残しつつ加熱によって甘みが引き出された玉ねぎ。
おいしい。
ただひたすらにおいしい。
「んっ、んんっ!」
対面に座るミミちゃんと目を合わせ、言葉を交わす代わりに何度もうなずき合って感動を表す。
口の周りに付いたソースを拭うこともせず、あたしたちはただひたすらに食べ続けた。
最初こそ一心不乱に食べていたけど、途中から食べさせ合いっこしたり、テーブルの下で爪先同士をくっつけたり、いつも通りイチャイチャしながら食事を楽しんだ。




