閑話 尊い犠牲
1056年55日目
ヴァルキリーが加わった事で編成の幅が広がったが、まだまだ十分な戦力になるまでには8年を要する。衰退期までまだ15年あるとは言え、団員の育成にはいつも頭を悩ませられる。
この日はメイジゴブリンという魔物を討伐した。昔倒したゴブリンと同じ全体攻撃を仕掛けてくる相手で、どこで覚えたか知らない魔法攻撃をしてきた。何とか倒せたが、俺の予測が甘かったせいで術者が戦死する事態が起きてしまった。
「皆。俺の不甲斐無さが原因で、掛け替えのない団員の命が失われてしまった。だが俺達には、悲しみに打ちひしがれる暇は無い。俺達聖炎騎士団は、前に進み続けるしかないんだ。」
団員達は無言でうなずいてくれたが、内心では俺の事を非情な奴だと思われているだろうと感じた。
王都に戻り、俺が騎士団本部を出ると、団員達は不満を打ち明けた。
「団長のあの言い方は無いと思う。」
「そうですな。いくら世界の為とはいえ、あれは無いと思いますな。」
「今回の戦闘で亡くなった術者は、こいつの幼馴染だったそうです。」
「オレ、カナシ...。」
皆が俺に不満を言う中、反論する者もいた。
「おいおいおめぇ等!スカイ団長は悪くねぇだろうが!」
「スカイ殿は今の我々を考えた上で、最善の編成を組んだ。此度の戦闘では、スカイ殿の予測が外れたに過ぎぬ。」
「けど!もっと良い編成があったんじゃないんですか!?」
「それは何か?スカイ団長を盾に使うつもりか?」
「そ、そんな事は...。」
「確かにスカイ殿は、我々とは違う。しかし、我々と同じく傷つけば血が流れ涙も流す。同じ人間である事に変わりは無いのだ。」
「...」
ツルギの言葉に、不満を言った団員達は黙った。暫く沈黙が続いたが、ガイラスが咳払いをした。
「とにかく!これ以上仲間を失いたくねぇなら、俺達が強くならなきゃならねぇってこったぁ!」
「お主の言う通りじゃな。なら儂が教えられる事を、皆に教えるとしようかのぅ。」
「そいつぁ良い!体を使う奴は、俺とツルギの旦那が鍛えてやらぁ!それ以外は爺さんに鍛えてもらいな!」
ガイラスとフォーロは、団員達を鍛える事を提案し、他の団員達も賛成した。そしてツルギはこの事を俺に伝えようとした。
「ガイラスとフォーロが?」
「うむ。前者は体力等を、後者は知識を強化しようと提案し、団員達も賛同した。」
「そうか...。騎士団の強化は、いつも頭を悩ませる課題の一つだからな。」
「スカイ殿...」
「?」
「此度の戦闘は、スカイ殿の責任ではござらぬぞ。騎士団に加わる者は皆、いつ今生の別れが来ても良い事を覚悟している筈。団長一人に全責任を負わせるのは、筋違いでござる。」
「ありがとう、ツルギ...。けど...俺は魔物との戦闘が長引かないように、守りを疎かにしたかもしれない。戦死した団員に攻撃が行かないようにしたが、あくまでも確率論の話だ。現実は何が起こるか分からない。」
「スカイ殿はこれまでに、戦闘で戦死者を出した事は?」
「2回ある。そして3人...今回で4人だな。」
「...自慢ではござらぬが、拙者は5回、目の前で親衛隊の者が亡くなる瞬間を見た。拙者の手が届かぬ場所でな...」
「そうだったのか...」
「拙者は片時とその者の名を忘れた事は無い。英雄として名が残らぬ者に対して、記憶に留めておく事がせめてもの供養であると、拙者は信じておる。」
「そうだな。誰かが忘れない限り、人は死ぬ事は無いからな。」
「それはスカイ殿の言葉か。」
「いや。俺の世界にある書物の一節さ。」
ツルギの言葉で少し気持ちが落ち着き、俺も今の自分に必要な事をするとした。
「俺もガイラスの特訓を受けてくるよ。そして遠征中には、フォーロの授業を受ける事にする。俺が魔女や魔術師達に知識を教えられるようになれば、少しは能力が上がると思うからさ。」
「しかし、スカイ殿は戦士であるが故、フォーロ殿の授業は分からないのでは?」
「俺...元の世界じゃ、勉強くらいしか取り柄無かったからさ。何とかなるって。」
そう、いつまで下を向いたままでは前に進めない。魔物も滅びの予言も無情にも進み続ける。俺に出来る事は、これからも戦死者が出ないくらいに騎士団を強くさせる事だ。




