ひ弱な婚約者と無敗の父親 前編
1053年200日目
ウォルターから南西の方角に向かうと、要塞都市グラディウスが見えた。2つの山の間に作られ、高くて頑丈そうな城壁は、当に要塞と呼ばれるに相応しかった。
街の中を散策していると、テトが俺に話しかけて来た。
「おい!キョロキョロしてると危ないぞ。」
「仕方ないだろ?この街に来るのは初めてなんだから、色々と目移りするのは...」
ドンッ!! 俺の言葉は、最後まで言い切る前に、誰かとぶつかった事で遮られた。
「ほら見ろ!言わんこっちゃない。」
「う...いててて...」
ぶつかった相手は、アーチャーの青年だった。俺はすぐに起き上がり、相手に怪我していないかを確かめた。
「すみません!お怪我はありませんでしたか?」
「え、えぇ、何とか。」
怪我が無くて良かったが、青年はまだ浮かない表情をしていた。
「ルース!!」
遠くから女性が彼...ルースを呼ぶ声が聞こえた。すると短いツインテールの髪型をした女性がやって来た。
「どうしたの?お父さん、朝からどこにも出かけずに待ってるのよ?」
「ご、ごめん、エレナ。僕、お父さんのプレゼントを決めかねていて...」
「あら?...そちらの方は?」
「俺はスカイ=ウルメイア=フィールド。さっき、ルースと..."知り合い"になったんだ。なぁルース。」
「えっ?え、えぇ、そうなんだ。うん。」
いくら何でも、被害者と加害者なんて言えないから、"知り合い"ということにした。ルースも少し戸惑ったが、俺に合わせてくれた。
「スカイ?スカイと言ったら...聖炎騎士団の団長ではなくて!?」
「そうだけど?」
「わっ。凄い!騎士団の事は、いつも父から聞いています。」
「君のお父さんから?」
「はい。うちの父、ガイラスは私設自警団の団長を務めているんですが、昔から聖炎騎士団のファンなんです。本物がグラディウスにいると知ったら、きっと喜ぶわ!そしてルース?あなたがスカイ団長の"友達"と知ったら...父の心もきっと動くわ!」
「"友達"か...」
「それじゃあ私は先に戻ってるわ。ルース、頑張ってね!」
エレナはルースを励ますと、笑顔で家の方へと向かった。するとルースが、恐る恐る口を開いた。
「あ、あの...ご、ご都合の方は...お忙しい...ですよね?」
「いや。どのみちこの街で一休みするつもりだから、問題ないよ。」
「そ、そうですか...」
「折角だから、一緒に行って団長さんの誕生日を祝うよ。」
「あ、じゃあ...僕、案内します。」
さっきからルースの表情が曇ったままだった。俺はルースに迷惑をかけているかと思って聞いてみた。
「ルース、何かあるなら言ってくれないか?さっきのお詫びに、相談相手になるよ。」
「はい...実は...」
ルースはエレナと自分の結婚を、彼女の父親であるガイラスが頑として認めてくれない事を打ち明けた。
「エレナは何度も当たれば、そのうちにって言うんですが...当たる度に...」
「砕けていると...そりゃ落ち込みもするわ。」
「スカイ殿、それは余りにも軽薄な言葉...ルース殿が不憫だ。」
「そ、そうか。ごめんよルース。」
「そもそも、恋人の父親というものは如何なる時も男にとって脅威であり...」
普段は冷静なツルギが、熱弁しているのに俺は驚いた。
「ツルギ...やけに実感がこもっているな?」
「あ、いや...拙者は別に...失敬!」
「...とりあえず、プレゼントを一緒に選んでくれますか?」
「あっ、あぁ。そうだな。それじゃあ...エレナの父親、ガイラスってどんな人なんだ。」
「お父さんは剣闘士です。何でも昔は無敗の戦士なんて呼ばれてたらしいです。」
「剣闘士か...じゃあ花とかは合わないかもな。」
「僕としては、上着かブドウ酒のどっちかを考えてます。」
「祝いの席ならば、酒が良いかと。」
「そうだな。食べ物を貰って嫌な顔はしないだろう。」
「ありがとうございます!...それじゃあ、行きましょうか...」
ルースはプレゼントが決まって喜んでくれたが、父親に会いに行くとなると不安そうな顔をした。
「大丈夫だって、ルースの思いはきっと伝わるって。」
「は、はぁ...」
俺達はルースと共に、エレナの家へと向かった。父親に何度もぶつかっては砕けているルースが、昔の自分を見ているように思えた。




