閑話 王都のとある料亭にて 前半
今回は本編とは違う閑話を載せました。しかも前後編の2本立て。
1037年30日目
王都での生活に徐々に慣れたのか、考えに行き詰まったりすると、街を散策する様になった。バルトウェイとウォルターにいた頃は、酒場くらいしか外出する所が無かった。街の人々にも目ぼしい噂が無いかを聞き込んでいる。
「フェルメアは堅っ苦しくて息が詰まるよ。その点王都はのんびりしてるからね。」
「魔物がまたやって来るんだって?聖炎騎士団には頑張ってもらいたいねぇ。」
「王都の騎士団も、フェルメアの親衛隊くらい頑張って欲しいねぇ。」
街の人々はやはり俺達と騎士団に魔物を任せている。この間みたいに、一般人でも出来る事はある筈なのに...
そして聞き込みをしている中、気になる話を耳にした。
「この前山の中でとんでもない化け物が出たって噂を聞いたんだ。その時男性が女性を庇って大怪我をしたらしいんだ。化け物はそのまま空を飛んで行ったそうだ。」
この話に出てきた化け物は恐らくギルの事だろう。あれは魔物とは別格の神竜なのだから...
聞き込みをしている内に、時刻はちょうど昼時になった。情報を整理したり、今後の事を考えたら自然と腹が減って来た。
「何か買って帰るかな。それともいっそ...」
普段食事は騎士団本部で済ませている。これは食事をしながら団員達の事を考えたり、万が一依頼者が本部に来た時に対応する為だ。だから外食など、この世界に来てからは滅多にしていない。何処か良い店が無いか見渡していると、凄い行列を目にした。店の周りに長蛇の列が出来ている。最後尾が店に入るのは約三時間後かもしれない...
「この店はそんなに有名なんですか?」
俺は列に並ぶ若者に声をかけた。
「そりゃあ有名さ。なんでもこの店は、何処かの郷土料理を基に作った料理が評判でね。中でも看板メニューは、七色の尻尾を持ったトカゲのシチューさ!」
王都の有名店の看板メニューがシチューとは以外だ。しかし七色の尻尾を持ったトカゲを使うとは、バルトウェイの郷土料理を思い出す。あそこではコウモリやカエルなど、知らぬが仏の料理が色々あったなぁ...
すると店の中が騒がしい事に気付き、俺は店の中へと入った。
「一体どうしたんだ?」
俺は店員の一人に話を聞いた。
「客がこの店のシチューを食べさせてくれって言ってるんすよ。」
「なら食べさせてやれば良いだろ?ここは料亭だろ?」
「そうなんすけど、うちのオーナーが駄目だって言うんすよ。材料はあるのに...」
「それは酷いな。案内してくれないか?」
俺は店員の案内で、問題の現場へと向かった。
「お願いです!この店のシチューを食べさせて下さい。」
「駄目だ駄目だ。生憎材料を切らしてんだ。悪いが帰ってくんな。」
この店のオーナーはカールした髭を持ち、そばかすがついた顔をしていた。俺はオーナーを見た瞬間、何処かで出会った気がした。
オーナーに断られ、客は意気消沈とした。
「トホホ...遥々馬車で4日かけて来たっていうのに、無駄骨かぁ。」
「おい。何で嘘をつくんだ。店員に聞いたら、材料はあるそうじゃないか。」
「何だよあんた?仮にそうだとしても、うちの料理が分かる奴にしか食わせてやらないね。」
「本当に美味しい物は誰が食べたって分かるさ。店が客を粗末に扱うのは、傲慢な証拠だ。」
「うっうるさい!そもそもこの料理に使う食材は、簡単に手に入らないからなんだ。昔は良かったけど、今じゃ魔物が潜んでて手に入り難くなってんだ!」
「じゃあ...その魔物がいなくなれば、誰でも食べられるようになるんだな?」
「いなくなればな!けどこんな頼み、王都の騎士団は聞いちゃくれないさ。」
「分かった。必ず材料を取って来る。さっきの言葉、忘れるなよ!」
俺は急いで店を後にし、騎士団本部へと向かった。
「何だよさっきの奴は?」
「オーナー。ひょっとしてさっきの人...」
俺が店を後にしてすぐ、オーナーは俺の事を知ったそうだ。
材料となる七色の尻尾を持つトカゲは、王都から約20KMの森に生息している。大きさも俺の知るトカゲの5倍はあった。そして一番の心配は魔物だ。急に団員達を集めたせいで、ヤエとエイドは不在だ。メンバーは戦士の俺と、冒険者・僧侶・神官・術者・魔女・魔術師だの7名だ。
「皆...俺の勝手で駆り出してしまって、申し訳ない。」
「謝んないでよ団長。」
「僕らは聖炎騎士団ですよ。」
「我々は常に魔物と戦う準備をしております。」
「しかし、ヤエさんとエイドさんがいないとは...」
「それもサムライやアーチャーがいないなんて...」
「ダンチョ、ドスル?」
皆の気持ちは分からなくない。俺も魔女と魔術師はともかく、他は戦闘に加える事が少ない職業達だ。僧侶と神官は支援と補助を両立出来ず、冒険者は何でも出来るが中途半端だ。ましてや術者なんて...
しかし団員達の力を引き出すのは団長の役目だ。俺は意を決して魔物が潜む場所へと向かった。




