極寒のレヴァレス山脈へ
1036年131日目
俺達がウォルターの正面水路へ行くと、ユナが見送りに来てくれた。
「助けてくれたお礼も出来なかったけど、秀哉、気を付けてね。」
「あぁ、ユナも元気でな。」
「...さよなら。」
俺達の背中をユナが寂しそうにみていると、レダがユナの傍に寄って来た。
「あらら、ちょっと待ってよ。最後の挨拶なら、言いたい事は言った方が良いわよ。」
「けど...私には..時計塔があるから...。」
「あ、そうそう。時計塔と言えば...今後はこの街の皆が塔の管理をするってさ。」
「えっ?」
すると、ウォルターの若者達がユナの前に出てきた。
「そっそうなんだ。また夜中に鐘が鳴ったりしたら、街全体が困るからな...。」
「俺達も少しはその...時計の仕組みを知っておこうと思ってよ。」
「修理もあんた1人じゃ大変だろ?」
「...ありがとう!」
「いや、礼なんていいよ。俺達、今まで何もしてこなかったからな。」
「って事で、お嬢さん。もうこの街に拘る事は無いんだよ。」
「あ...あたし。」
「ユナ?」
「秀哉!あたし、あなたと旅がしたい!あたしを一緒に連れてって!」
「あぁ勿論さ!」
「信じられないな...。これが僕の知るウォルターの住民か?オルボとミリィが聞いたらびっくりするぞ。」
「うふふ。何言ってんのよ。ここの連中が自分達だけで反省したと思う?この街を影で仕切っているのは、だぁれだ?」
「...<深淵>か!?」
「おっと!気安くそんな言葉を口にすんじゃねぇ!夜道を歩けなくなるぜ団長さん。」
レダの後ろから、闇ギルドの男が現れた。
「小僧!てめぇらがこの街の為にやってくれた事の重さは分かってるつもりだ。この払いで足らなきゃ、また相談に乗るぜ!」
「...そうか、ならその時になったらよろしく頼むよ。ヤエにもお礼を伝えてくれ。彼女のお蔭で俺達は助かったんだ。」
「...まぁ、うちの凄腕だからな。礼なら自分で伝えろ。あばよ!」
「え?」
そう言い残すと、男はさっさと帰ってしまった。
「ほらほら!早く出発しましょ!団員達が待ってるわよ。」
「?レダも来るのか?」
「何よ?あの子は良くて私は駄目?秀哉って以外と年下が好みなの?」
「んな訳無いだろ!さっさと行くぞ!」
{こうして、また新しい団員を迎えた騎士団は、水上街ウォルターを後にした。それぞれの思いを胸に秘めながら...。}
1036年137日目
まだ山を登る前だと言うのに、道中には雪が降り積もっていた。そして俺達はレミリア修道院を視界に捉えた。
「建物が見えたわ!」
「少しあそこで休憩するか。」
「賛成賛成!早くこの体を暖めさせて!」
すると修道院からリリとレミリアさんが出て来た。
「あっ団長さん!こんにちは!」
「リリ!」
「今度は団長さん達がお客さんだ!」
「?”今度”って事は、ここ最近の内に誰か来たのかい?」
「うん!真赤な髪でちょっと怖い女の人!」
「ヤエか!?」
「お知り合いでしたか。この修道院の前に傷だらけで倒れていたんですよ。今はもう大分良くなったと思うのですが...。」
すると修道院からヤエが出てきた。少し怪我が残っているが、全く変わっていなかった。
「奇遇だね。」
「ヤエ!久しぶりだな。どうしてここに?」
「野暮用」
「彼女は王都へ行きたいと申されまして...傷が深かったので、私共の方で暫く養生してもらっていたのですが...」
「軽口な院長だな。」
「申し訳ありません...。」
「王都へ?なら俺達と一緒に行くか?」
「止めといた方が良い。今のあたしじゃ足手纏いだ。」
「戦ってくれって言ってるんじゃない。それに俺はヤエを放って置けないんだ。」
「...すまない。」
ヤエは負傷していたせいか、素直に応じてくれた。
「雪山超え並大抵の苦難ではありませんよ?」
「それは承知の上だ。けど、早く王都へ行かないと...。」
「...分かりました。では私共も行きましょう。」
「リリと院長が!?危険過ぎる!」
「この山は我が修道院の管轄。...この子を助けて頂いたご恩を返す番。最短距離を案内します。」
「それは嬉しいけど、...リリは危険じゃ...。」
するとリリは懐から地図を取り出した。
「えへへ、この山の地図はリリが作ったの。北の山の事、一番良く知ってるよ!」
「リリの言う通りです。この子について行くのが賢明ですわ。」
「そうかもしれないが...。」
「世界をより良くしたいと願うのは私共も同じです。修道女の務めとして、あなた方をご案内します!」
「ありがとう。感謝します。」
「えへへ、リリも魔物退治をお手伝いするよ。」
「えっ?」
【リリ 6歳 神官】
・体力 15 ・攻撃力 3 ・素早さ 9.5 ・他回復力 25 ・補助力 28 ・衰退期まで22年
いやいやいやいや!まだまだ子供とはいえ、リリの成績は並の神官以上だった。もしリリが15歳だったら、俺は間違いなくリリを勧誘していたかもしれない。とはいえ、この先、魔物が現れるとは限らない為、俺はレミリアに恐る恐る尋ねた。
「この子はまだ幼いですが、私以上の才能を秘めています。きっとお役に立てるでしょう。」
「分かりました。絶対にリリを死なせはしません。」
「ありがとうございます。」
「リリ、山を越えるまで、よろしくな。」
「うん!よろしくね団長さん!」
リリの笑顔が、冷えた体を不思議と温かくしてくれた。
「それじゃ秀哉。気を付けてね。」
「レダは行かないのか?」
「まっさか~。あたしは命が惜しいからね。危険な山越えはしたくないよ。」
「そうか...。レダも気を付けてな。」
「じゃあね秀哉。生きていたら、また会いましょ。」
俺達はヤエとユナ、レミリア、そしてリリと共に、極寒のエヴァレス山脈へと立ち向かった。
約30年に渡って続いたウォルター編、決死の山越えの後はいよいよ王都リゼル編。
1036年 聖炎騎士団
・スカイ17歳(∞)・ライ44歳(11)・エイド25歳(20)・ヤエ21歳(24)・リリ6歳(25)




