遥か遠い昔話
この回は今後の物語にとって重要なキーワードが出てきます。
フォレスの村は深い森の中だった。リーフも幼い頃は何度も迷子になり、その度に顔がグシャグシャになる位大泣きした事から鼻垂れ小僧と呼ばれたそうだ。
そして僕らは今、まだ森の中を彷徨っていた。
「ライ、あの時リーフに案内を頼めば良かったんじゃないのか?」
「うっうるさいなぁ!あんな別れ方して最後の最後まで世話になるなんて、一番恥ずかしいじゃないか!」
「まぁ気持ちは分かるよ。俺だってカッコ付けてリーフを退団させちゃったし...。」
「ちょっと待て、お前いつから”俺”に乗り換えたんだ。」
「これからベルフェザードとの戦いは避けられないんだ。その度に団員達が委縮してちゃ、全力で戦えないないだろ。団長の僕が堂々としてないと。」
「無理にカッコ付けてるなんて他の奴等が知ったら、相当恥ずかしいぞ。」
何とか日が暮れる前にこの森を抜けなければ、このままではフォレスの村にも戻れない。
「おやおや、旅の方ですかな?」
僕らの前に大層な荷物を背負った老人に出会った。僕らよりも老人の方が旅人だ。
「そうなんです。申し訳ありませんが、この森を抜ける道を教えて貰えないでしょうか?」
「おい!さっきまでとはまるで違うぞ。そんな腰の低い団長でいいのか?」
「背に腹は代えられないだろ!」
「まあまあ落ち着きなされ。案内と共に1つ話をして差し上げましょう。」
「おいおい。老人の昔話なんて興味無いぞ!」
「いいじゃないか。案内料を取られる訳じゃないんだから。」
僕らは老人を先頭に森を進んだ。そして老人はゆっくりと話し始めた。
それはそれは遥か昔のお話。嘗てこの世界には5つの種族が共に共存していたそうな。しかし5つの種族が生きるには世界は狭すぎた。そこで1の種族は新たな世界を作り出した。その世界の名は<天上界>。地上とは固く隔たれた場所だった。今の我々にとっては天国と言っても良い位の世界よ。
5つの種族の内1と2は<天上界>へ。3と4は争いながらも地上に治まった。しかし5の種族は...。
「5の種族はどうしたんだ!?」
「さぁな...。どうなったんじゃろうな...。」
老人は空を見上げて呟いた。
「お若いのや。この世で最も悲しい事は何じゃと思う?」
「最も悲しい事?」
「命を奪われる事か?誰かに憎まれる事か?一生影に隠れて怯える事か?いずれも悲しい事じゃ。しかしな、最も悲しい事とは...。」
「...。」
「忘れられる事じゃ。分かるかのぅ?」
老人の言葉に僕は感嘆した。確かに忘れられてしまえば、どんな偉業を成しても誰にも知られない。
「ご老人、この話は歴史なのですか?それとも誰かから伝わった物なのですか?」
「さぁな。儂の記憶の遥か彼方...。水の様に流れる話でしかない。」
僕は老人の話を必死に思い出してメモした。いつか誰かにこの話を聞かせ忘れられないように。
「水は上から下へと流れるもの。それは魂も一緒よ。魂は下から上へ汲み取られ、<闇の雫>により再び<精霊の門>から流れ落ちるだろう。覚えておかれよ。」
「<5番目の種族>、<天上界>、<闇の雫>、<精霊の門>?お爺さん!実は僕はこの世界の人間じゃないんです!とは言え<天上界>から来た訳ではありません。あなたがこの世界の事を知っているのなら、その全てを教えて下さい。」
「儂が知るのはこの1つのみ...。あとは...。」
僕は固唾を飲んで老人の言葉を待った。
「森の出口くらいじゃな。」
森を出て老人はまた何処かへと行ってしまった。ウォルターへと戻る道中で、僕は何度も老人の話を復唱した。その中で重要な単語はメモに取った。あとで女神レイラに聞いてみる為だ。妖精テトも何か知っているかもしれない。
「今度いつあのベルフェザードが来るかちゃんと把握しといてくれよ。」
「ああ、分かってるよ。その時までに予言の魔物と戦う事があるけど、頑張ろうね。」
「いつまで腰低くしてんだよ!シャキッとしてくれよスカイ団長。」
「ゴメンよ。頑張ろうな、ライ!」
「ああ、当然だろ。」
夜になり、僕はレイラがいる森へと向かった。けどそこに彼女はいなかった。明日またこようと思ったその時だった。
「お待ちなさい、天野秀哉。」
「ああゴメン、今日は会えないかと思ってた。実は聞きたい事が...。」
「何故私の許しを待たなかったのですか?」
彼女は僕の質問を遮り、怒りが混ざった声で僕に問い詰めた。
「俺があんたの許しを待つ事なんて無いけど...。」
「ならば何故あの弓使いを外したのですか?」
「リーフの事か...。あいつは元々故郷を守る為に入団したんだし、俺はあいつの事を思ってした事だ。」
「世界の運命の前に、個人の思いなど不要です。あれはあと10年は使える逸材だったのに...。」
「使えるって、俺達はあんたの道具じゃない!団員をどうするかは、俺に権利がある。」
「レイラ様に口答えすんな!異世界人!」
テトがいきなり僕に野次を飛ばした。
「テトか...。お前にも聞きたかった事があったんだが、こいつのせいで冷めちったよ。」
「お前!レイラ様になんて言い方すんだ!」
「俺はお前に異世界人って呼ばれて、お前と同じ気分なんだ!今日はもう帰る!」
僕は呼び止めらても聞こえない振りをして早々に騎士団本部へと戻った。
「なんて奴だ!お前なんて予言書に頭ぶつけて死んじまえ!」
「...。」
テトの悪口が静かに森の中に消えていった。




