水上街に訪れた災厄
1017年 聖炎騎士団
・スカイ17歳(∞) ・フィリン36歳(2)・リーフ31歳(12)・ライ25歳(30)・ミリィ26歳(20)
{1017年 「水の都市の災厄」}
{葉脈に浮かぶ 時を記す槍の台座。流された沈殿は流れ着き、その羊水は汚されるだろう。}
{穢れは瞬く間に世界を覆い、滅びの歌を歌うだろう。}
{歌は止まらない流血を呼び、さるぐつわはそれを止めることが出来ない。}
{そこには水に浮かぶ廃墟だけが残るだろう。}
魔物は街の北側に現れたと情報が入った。闇ギルド<深淵>は情報を提供してくれただけで、戦闘には協力してくれないそうだ。オルボがいたギルドは、他に魔物が現れていないか巡回している。
そして僕らは、今までとは違う特殊攻撃を持った魔物に立ち向かう。
【バッドスモーク レベル03】
・体力200 ・攻撃力 10(列) ・素早さ4.0
・特徴・・・ 2回目と5回目に“死の呪い攻撃(回復行動を不能にする)”をする。
魔物は積乱雲の様な姿だった。しかし物理攻撃は有効であり、攻撃し続ければ消滅するとミリィは言った。
そして厄介なのは、常に前列にいる者を攻撃する事と、回復能力を持つ者を回復不能にする攻撃してくる事だ。
「奴は自分の体を千切って攻撃してくるが、偶に奴の口から攻撃してくる時がある。あれを食らった時、僕は回復出来なくなった事があるんだ。」
「ありがとう、ライ。だが逆を言えば、“回復能力”を持っていない者には、ただの攻撃でしかない筈だ。それに、完全に防ぐ事が出来れば、回復は出来るだろ?」
「それはそうだが…」
ライの職種“冒険者”は、“騎士”や“神官”と違って、援護力が低かった。ライの発言力の弱さは、自身の援護力の低さから来たものだった。
前列は僕とフィリン。中列はリーフ、ライ、ミリィ。後列は神官、僧侶と編成を組んだ。
ミリィが僕、ライがフィリン、神官がミリィ、を援護し、僧侶がリーフを支援する隊列にした。リーフは回復能力を持っていないが、魔物の攻撃を3回までは受けても大丈夫だった。神官の体力は、魔物の攻撃を1回受けただけで瀕死になる位だったが、ローテーションを行えば問題無かった。そして問題は、ライを援護する者がいない事だ。魔物の攻撃がミリィかリーフに向けられるように隊列を組んだが、こればかりは運に任せるしかなかった。
そして戦闘態勢を整えようとした時、ミリィが浮かない表情をしていたのが気になった。
「…」
「どうしたミリィ?具合でも悪いのか?」
「な、なんでも無いさ。」
「無理はしない方が良い。今ならまだ間に合うぞ。」
「大丈夫だってさ。さぁほら、さっさとやっつけてやりましょ。」
ミリィは気丈に振る舞って、魔物との戦いに専念した。彼女が何を思っていたのか見当はついていたが、今は戦闘態勢を整える事が最優先だった。
ウォルターに来て、初めての予言の魔物との戦闘が始まった。
先手はリーフの間接攻撃から始まり、次に、僕がミリィの補助効果を得た攻撃が魔物に当たり、最後はライの補助を得たフィリンが攻撃した。そして魔物は小さな雲の塊をぶつけて来た。僕は無傷で済んだが、フィリンは少しダメージを負った。
次はいよいよ“死の呪い”攻撃が来る番だ。僕は魔物の攻撃が自分に向けられる事に賭け、隊列を入れ替えなかった。
後列で僧侶と神官が回復を終えると、2回目の戦闘が始まった。1回目と同様に、リーフ・僕・フィリンの順で攻撃し、最後は魔物の番が来た。
魔物は口から輪を描いた雲を吐き出した。そしてそれは僕ではなく、フィリンに向けられた。フィリンの体力が半分以下になってしまい、僕は隊列を入れ替えた。僕は回復出来ないのは分かっていたが、フィリンは先ほどの攻撃で、回復行動を封じられてしまった。
3回目の戦闘が始まり、ミリィが先手を取り、僧侶の支援を受けたリーフの攻撃に続いて、ライが魔物に攻撃した。そして魔物の攻撃は、神官の補助を受けたミリィ以外はダメージを受けた。
再び隊列を入れ替え、ライが回復を終えた所で、4回目の戦闘が始まった。今度は魔物が先手を取り、僧侶・神官がダメージを受けた。2人の攻撃力の合計は低かったが、今回の魔物が回復能力を持っていなかったのが幸いだった。
そしていよいよ5回目の戦闘が始まると、リーフの攻撃が魔物に命中して瞬間、魔物は影も形も無くなった。
この瞬間、僕らは初めて予言書の災厄を乗り越える事が出来たのだった。
魔物が倒された事により、ウォルターが壊滅する危機を回避する事が出来た。僕は予言書を開き、今日の出来事が書かれたページを見つけると、内容は全く違う物に変わっていた。
{1017年 「水の都市の災い」}
{葉脈に浮かぶ、時を記す槍の台座。流された沈殿は流れ着き、その羊水は汚されるだろう。}
{永劫の世界にある者の兵士達は、穢れを取り除き、けして滅びの歌を歌わせない。}
{時を記す槍はやはり満月に向かって輝くだろう!}
僕は予言書の内容が変わって事で、世界の破滅を救う事が出来ると確信した。皆にもこの事を教えようと思ったが、団員達は疲労困憊であり、立っているのがやっとであった。
「今回の魔物は自己回復を持っていなかったから良かったね。」
「ああ、でもこれからもこういった魔物との戦いは避けられないね。戦術と編成をもう一度考え直さなきゃ。」
「これからも戦い続けるのか?しかも百年も。」
「それが団長に与えられた使命だ。俺もお前も覚悟していた筈だ。」
騎士団の皆がこれから続く戦いに向けて、各々覚悟を改めている中、一人だけ違う者がいた。
「...。団長、やっぱりあたい、この団を辞めようと思う。」
ミリィが悲しそうな表情で僕に打ち明けた。彼女を騎士団から失う事は大きな損失であったが、僕は引き留める事が出来なかった。彼女の退団理由を、僕は分かっていたからだ。
「それはやっぱり、僕がオルボを退団させたからかい。」
「それもあるけど、あたいオルボと一緒に大工工房を開こうと思うんだ。」
「工房を?確かにオルボは大工に向いてるなと思ったけど。」
「うん、これからも魔物のせいで街やこの辺りの村とかが目茶目茶にされるかもしれないだろ。だから、それをあたい等が何とかしてやりたいと思ったんだ。勿論、世界を救う事に繋がらないのは分かってるさ。あたいは戦う以外の方法で皆を守りたいと思ったんだ。」
ミリィのオルボへの思いも、退団を決めた覚悟も本物だった。ミリィを失うのは残念だが、本人が決めた事なら引き留める事は出来ない。
「分かった。今までありがとう。オルボと幸せにね。」
僕は笑顔でミリィの退団を承諾し、ミリィは少し涙を浮かべていた。
退団者 ・ミリィ
1008年15日目
予言の魔物との戦いが終わって1年が経った頃、騎士団本部に来客が来た。
「だ、団長ぉ、久しぶりだなぁ。」
「団長、お別れの挨拶に来たよ。」
「オルボにミリィじゃないか。お別れというのはどういう事だい?」
「あたい等ウォルターを離れるんだ。ギルドで稼いだお金で再出発をしようと思うんだ。」
「団長には感謝してるぜ。ミリィとライと一緒に騎士団で過ごした日々は、オラの一生の宝にすっからよぉ。」
「そうか、気をつけてな。何かあったら2人に仕事を依頼しようかな。」
「任せてくれよぉ!オラはこの街の時計塔を直したんだぜ。団長の頼みなら何だって直してやるさぁ!」
「あんまり調子に乗るんじゃないよ!」
相変わらずオルボはミリィの尻に敷かれている。そんな2人を見て僕は思った。女神が求めている勝利と団員達の幸せは同じではない事を。僕は出来る限り団員達の幸せを優先したい。しかしその結果、予言の魔物に立ち向かう事が困難になってしまわないだろうか...。




