最後の予言 ~<フィアの塔> 前編〜
俺達が塔へ向かって樹海を進んでいると、再びあの時の妖精達が現れた。
「現れたよ。」
「うん。現れた。大きい竜。」
「精霊の塔に向かっていったよ。」
「怖いね。」
「怖いよ。」
妖精達は今にも逃げ出したいくらい怯えていた。だがそれでも俺達にこの事を伝える為に来てくれたのは嬉しかった。天上界でも数少ない味方であったからだ。
「ありがとう。でも大丈夫。俺達が必ず何とかするよ。」
「うん...頑張って。」
「頑張って。お願い!」
妖精達からの応援を貰い、レイラが俺に話しかけて来た。
「いよいよね。」
「あぁ!...レイラ、心配するな。俺達は負けない!その為に今まで戦ってきたんだから。」
「はい。」
俺達は再び塔へ向かって進みだした。すると後ろからテトが追いつき、妖精達と再会した。
「テト、頑張れよ。」
「!ありがとう...。」
「帰ってきたら、また遊ぼうね。」
「うん!じゃあな!」
テトも妖精達に再会を約束し、俺達と共に塔へ向かった。
俺達は再び<フィアの塔>へと戻って来た。改めて見ると塔の頂上は、頭の無い羽根を持った石像が、光を玉を両手に掲げているように見えた。そして聖火に見えた光の玉は、嘗て<ウルの塔>で見た人魂と同じであった。
「<フィアの塔>!やっぱり大きいなぁ!」
マナが塔を見て、素直な感想を言った。するとジードは塔の事について、レイラに聞いた。
「振り子の動力は何だ?」
「人間をはじめ、鳥や獣、草木など、命ある全てにものの...”魂”です。」
「...へっ。驚かせやがる。ここは巨大な”霊安室”ってことか。」
「いいえ。大抵の魂は長居しません。塔に引き上げられると、すぐに蒸留され、再び地上に放たれるのです。」
「本当に単なる動力源扱いか。なるほど。
じゃあ..俺の魂も昔一度、ここを通っている訳だ。」
「一度じゃないかもしれませんが...。」
すると俺達の前から魔物の姿が見えてきた。
「...へっ。敵が来たぜ!魂になっちまわないよう頑張るか。」
<魔質留分層>
俺達は塔の一階に着いた。ここでゼオンとギルに追いついたが、やはり二人ともいなかった。考えられる場所は...塔の最上階で、そこまでの道のりは当然容易くなかった。
「へっ。既に塔の中は奴等で一杯か。出迎えが多くてありがたいこった。」
「油断するなよ!<精霊の胎動>の時と違って、かなり手強い奴ばかりだ!」
出て来る魔物は、嘗て予言の年に戦ったレベル...詰まりは中ボス並の強さであった。編成を間違えれば、団員を戦死させてしまいかねなかった。
「言われるまでもねぇ。こちとら、こんな所でくたばる気は更々無ぇんだ。どれ一つ、魔物共にも”死神”の名を轟かせてやるぜ!」
-10分後-
「ジード、あまり一人で無茶しまいで。もっと仲間を...あたし達を信じてよ!」
マナはジードの身を心配した。確かにさっきの戦いでは彼は奮闘してくれた。しかしその戦い振りは一歩間違えば致命傷を負いかねないものであった。俺も無理をする時があるが、ジードはそれ以上の無茶であった。
「あぁ...分かっちゃいるんだがな。...。」
「...。何?どうしたの?」
「いや...。なんかこういうのも悪くねぇって...。」
「えっ?」
「...何でも無ぇよ!そら、とっとと行くぞ!」
<動力伝達層>
塔を登り始めて約10分後、マナが何かに気が付いた。
「...ねぇ。何か聞こえるよ。」
マナの言葉に俺はドキッとした。またあの時のような事にならないか、心を落ち着かせた。しかし、マナはそれとは違うものを聞いたようだった。
「チクタクチクタク...。振り子の音?時計みたいね。」
「まぁ、言ってみればここは時計塔の一部だからな。」
マナの疑問にテトが答えてくれた。確かにチクタクと音が聞こえ、マナはテトの答えに驚いた。
「そうなんだ!?でも...文字盤がどこにも無いよ。」
「そりゃそうさ。限りある命を持つ人間の時間とは、定義が違う。精霊にとって、時間は”積み重ねる”ものでしかないんだ。」
「足りなくなったり、余ったりしないの?」
「うん。どれだけの魂が塔に入って来て、どれだけの魂が地上に帰って行くか?この循環の積み重ねこそが、時間を作り出しているのさ。」
「ふぅん...確かに全然違うかも。」
マナの疑問が晴れた所で、俺はテトに質問した。
「なぁテト...この塔って何階あるんだ?」
「さあ、数えた奴なんていないよ。それに、見かけと中身だって、多分違うんだ。とにかく登るしかない。」
「はぁ...。こういう時に空を飛べる奴が羨ましいよ。」
「ふふん。なんならお前の上でキラキラを落としてやろうか?もしかしたら、飛べるかもしれないぞ?」
「いつの頃の話だよ!!」
テトが俺に冗談を言ってくれたお蔭で、少しはリラックス出来た。でも確かに、外から見た時は30階位ありそうであったが、まだまだ半分にも満たしていないやもしれない。
<加圧層>
魔物との戦いを挟みながら既に20階は登った。さっきのマナとテトではないが、俺もレイラに質問した。
「<フィアの塔>は誰が仕切っているんだ?」
「今は、エルゼシオン様よ。大精霊の始祖ザイ・ウル・アルバレスが塔を作って以来、代々、大精霊によって受け継がれて来たわ。」
「そうなのか?」
「<フィアの塔>を制する者、天上界を制す。それくらい名誉のある、大変な仕事なの。」
「へぇ~。その大事な塔が危ないってのに、あくまで自分は傍観者か。優雅なもんだ。」
俺が奴に対して毒を吐くと、レイラの表情は曇ってしまった。少し彼女に悪い事を言ってしまったかもしれないが、俺はもう...奴に敬語すら使う気が無かった。
「長年培ってきた考え方や常識を変えるのは、難しいものよ...。」
「...。」
レイラの言う事は当に本人の経験からによるものだった。最初の頃は予言書の遂行にしか彼女には無く、俺達人間の幸せなどは二の次にしか思っていなかった。いや、或いは何とも思っていなかったのかもしれない。そんな事を思いながらも、目の前に魔物が現れ、俺は気持ちを切り替えて剣を抜いた。
-20分後-
少し手強かったせいか、思ったより時間がかかってしまった。ギルが持ち去ったベルフェザードの事を考えれば、ここでの戦闘は手短に終えたかった。そんな事を考えていたら、再び俺の中に疑問が生まれた。
「スカイ、どうしたの?」
「...いや。ちょっとこの先の事を考えてたんだ。」
「この先の事?」
「あぁ。人間の俺達が無我夢中で天上界に来た。そして今は天上界を脅かす魔物を追っている。それはいいんだが、魔物を倒した後、それで俺達はどうなるんだろうってな...。ちゃんと元の世界に戻れるのか?それとも、このまま天上界に居座る事になるのか?」
「...それは私にも分からないわ。でも、あなたはいつだって、自分が正しいと信じた事をしてきた。何があっても、きっとそれは変わらないと思うわ。」
「そうか...そうだな。ありがとう、レイラ。」
レイラの言葉を聞いて、俺の中の迷いは完全に吹っ切れた。そして再び、頂上目指して進み始めた。
<精霊留分層>
登り始めてもう2時間位は経過したかもしれない。あれ程先が長いと思えた道のりも、もう一息という所まで来た。するとジードがテトに尋ねた。
「おい...俺、思ったんだが...ウォルターの時計塔って、ここと何か関係があるんじゃねぇのか?」
「よく気付いたな。確かに!あそこの水路には水の他に魂が流れてる。ウォルターの時計塔は天上界への小さな窓口なんだ。だから...あそこには昔から”番人”がいた。」
「神竜の少女だろ?ガキの頃、村のばあさんが話してくれた。単なるおとぎ話だと思っていたがな。」
時計塔の”番人”で神竜の少女...それは間違いなくユナの事であった。彼女が亡くなったのは今から50年も昔の事だ。ジードの出身が何処かは知らないが、ユナの事を忘れずに語り継いできた人々がいた事に、俺は嬉しかった。
「おとぎ話なんかじゃない...皆...確かに生きてた。」
すると俺達の目の前に、今まで見た事も無い魔物が現れた。
「何だありゃ!?」
「あんなの見たことも無いよ!」
団員達も動揺を隠せなかった。しかし、俺はあれを知っていた。<精霊の胎動>で一瞬垣間見た天上界が生み出した魔物、その名は...。




