最後の予言 ~大精霊エルゼシオン〜
突然のギルの裏切りと復讐、500年かけて積み上げて来た全てを失ったゼオン。思わぬ仲間割れが起きてしまったが、誰一人喜ぶ者はいなかった。
「マズいな。あの化け物...厄介な爆弾を持って行きやがった。」
「きっと奴はまた戻って来る。このままだと、天上界も危ない!」
「逃げたあの野郎はどうするんだ?」
「今はレイラが最優先だ!」
「レイラ様!レイラ様!しっかりなさってください!!レイラ様!!!!」
俺達は塔を離れ、再び樹海へと戻って来た。束の間ではあるが、団員達を休ませる事が出来た。そしてテトの必死の呼びかけに、とうとうレイラが目を覚ました。
「本当に良かった!もう...目を覚まして頂けないかと...」
「泣かないで、テト。私は無事です。本当にありがとう。」
俺達はレイラに、ここまでの経緯を全て話した。そして話を終えると、彼女は数秒間黙った後に口を開いた。
「感謝はどれだけしても足りません。けれど今は、予言の魔物の対処を優先させてもらって良いかしら?」
「あぁ、それには俺も異論は無い」
「では...先ず、天上界を統べる大精霊エルゼシオン様に、この事態を報告します。」
「ベルフェザードが優先じゃないのか?」
「そうですが、これは最早人間界だけの問題ではありません。天上界の協力を仰ぎ、力を合わせてこの危機を乗り越えるのです!」
「それは有難い。なら、大精霊様の元へ行こう。」
「大丈夫かな...。」
「まっ、俺は余り期待しないでおくぜ。」
マナとジードは後ろ向きの考えであったが、正直俺も不安だった。テト以外の妖精の言葉が耳に残っていたからだ。テトの事を汚れたと言ったのだから、レイラもきっとそう言われるに違いない。そして大精霊エルゼシオン...黒死病の事について、彼はレイラに何も教えてくれなかった。知らなかったというのであれば仕方ないと済ませられるが、あの時のレイラの反応は...考えてもくれなかったというのが正しかった。
俺達はレイラに案内の元、大精霊エルゼシオンがいる場所へと辿り着いた。しかしそこに当の本人はいなかったが、代わりに大層お怒り気味の老人の声が聞こえた。
「レイラ、恥を知れ!!
人間に現を抜かし”アルバレスの正予言”の施行を滞らせるばかりか、魔物を天上界に案内してくるとは、どういう了見だ?」
「大精霊様!それは僕が...」
「うるさい!妖精が口を挟むな!」
「うぅ...」
テトがレイラを弁護しようとしたが、余計に大精霊を怒らせる事となった。
「<フィアの塔>がどれだけ重要な建物か、お前には分かっておるのか?
魔物にもし破壊でもされたら人間界だけでなく、天上界の秩序まで狂い、大変な事になってしまうのだぞ!」
「ですから!お願いに参ったのです!!
私とここに並ぶ人間に、精霊達の力をお貸し頂けないでしょか?
強大な魔物を使って、憎しみをぶつけてくる神竜に対抗するには、皆に協力が必要...。」
「ふざけた事をぬかすでない!!」
レイラの懇願は大精霊の一喝で消されてしまった。この時点で天上界との共同戦線が無くなり、大精霊の怒りはまだ続いた。
「レイラ...お前に予言書に管理をさせたのは、何の為だ?
我は常々、天上界に被害が及ばぬよう、人間界だけで処理せよと申してきた筈だぞ。」
大精霊...いや、奴の言葉に俺は腹が立った。つまりこの予言書は、魔物から世界を守る為の物でなく、天上界に魔物が及ばぬよう人間界で魔物を処理する為の物だった。要するに俺達は、天上界という聖域を守る為に、魔物という害悪を処理する為の掃除屋だったという事だ...。
レイラは奴に叱責されながらも、声を上げる事を止めなかった。
「...人間達はもう十分傷つき、それでもなお、戦おうとしています!
そんな彼らをただ見下ろして...自分達は無何もしないなんておかしい!!」
「...下らぬ平等意識か。不完全なる人間の悪しき影響だ...。レイラよ。腐ったな...。話はここまでだ。最後まで、お前とそこの人間達とて片をつけよ。失敗して時は...」
「...時は?」
「...想像したくも無いわ。但し、これだけは言えよう。レイラ、お前は女神失格だ。
「そんな...」
「天上界の秩序を乱す者は要らぬ。」
「...分かりました。」
俺は腸が煮えくり返るくらいであった。下らぬ平等意識?不完全なる人間の悪しき影響??お前がそんなんだから、神竜が忘れ去られる事態を招いたんじゃないのか!!!!
...と心の中で奴に激怒した。もし奴が俺の目の前にいたのなら、俺は真っ先に奴を殴り飛ばしていた筈だ。失意の表情で俺達の元に戻って来たレイラは、恐る恐る口を開いた。
「スカイ、ジード、マナ、テト...頑張りましょう。」
「うん。任して!」
「爺の説教は長くていけねぇ。早いとこやっちまおうぜ。」
「お疲れさん。」
「...ごめんなさい。私の力不足だったわ...。」
レイラは今にも泣き出しそうなくらいであった。俺は奴に対する怒りを込めた拳を開き、彼女の手を握った。
「何言ってんだよ。レイラには、十分過ぎるくらいの力があるじゃないか!」
「えっ?」
「レイラの言葉を聞いてたらさ、俺...勝てる気がしてきたんだ。天上界の協力なんて要らない。レイラが信じてくれれば、俺達は何でも出来るんだ。さ、行こう!」
俺の号令を聞いて、団員達は声を上げて応えてくれた。俺はレイラの手を引き、ギルとベルフェザードがいる<フィアの塔>へと走りだした。
大精霊の間には誰もいなくなった。しかし一人...いや、妖精テトだけが残っていた。
「大精霊様...」
「まだ何かあるのか?」
「はい、一言だけ...」
テトは息を大きく吸い、一気に吐き出すくらいに大声を上げた。
「くそじじい!!!」
テトはすぐさま俺達の後を追いかけ飛んだ。そして漸く、大精霊の間には誰もいなくなった。
「...妖精め。」




