最後の予言 ~天上界と直向きな想い〜
目を閉じていたが<死界の吹雪>の光は眩しかった。しかし<竜の涙>を掲げた後、視界は徐々に暗くなっていった。俺は点呼を取って団員の無事を確認したが、目を開けて良いものか不安であった。
「皆...無事か?」
「あぁ...何とかな...。」
「スカイ、ジード!見て!!」
マナの声を聞き、俺は恐る恐る目を開けた。
視界には何とも幻想的な光景が広がっていた。見た事もない木々や湖など、俺達がいた世界とはまるで違っていた。そして何より驚いたのは、一番遠くにある塔であった。塔の天辺にはまるで聖火のように光が集まっていた。
「嘘みたい。生きたまま天上界に入れるなんて...。」
「<竜の涙>のおかげさ。」
「その指輪の?...うん。きっと、そうね。」
「おい、あの塔は何だ?すげぇ大きな振り子だぜ!」
ジードが塔を指差すと、テトが答えてくれた。
「<フィアの塔>...全世界を司る<時の器>さ。」
「遂に来たんだな...。」
テトを先頭に、俺達は天上界の樹海を進んだ。全く人の手が加えられていない道は、魔物との連戦で疲労した俺達に追い討ちをかけるが、皆文句も言わずに俺に付いて来てくれた。すると視界の先に、妖精が2人現れた。テト以外の妖精を見るのは、これが初めてであった。
「テト、おかえり。」
「あぁ。...レイラ様を見なかったか?」
「見ないよ。ねっ。テトの後ろにいるのって、人間?」
「ふぅん。魔物の次は人間か。」
「!見てるんじゃないか!」
「えへ、バレたか。」
テトの怒りに妖精達は全く悪びれてなかった。
「頼む!奴等がどこへ行ったか、教えてくれ!」
「...喋ってきたよ。この人間。僕に話しかけてきた。喋ってきた!」
妖精達は何に驚いたのか、一目散に逃げてしまった。
「お、おい!!」
「よせ、スカイ。妖精達は精霊としか口を聞いちゃいけないんだ。...基本的にはな。」
俺とテトが話していると、さっきの妖精達が帰って来た。
「テト、喋ってる。人間と喋ってる。道理で臭いと思った。汚れちゃったね...。」
「ごめんな。...でも、頼むよ。教えてくれ!急いでいるんだ。レイラ様が危ない!」
テトの必死の訴えに、妖精達は顔を合わせた。
「どうする?」
「テト、困ってる。」
「そうだね、困ってる。」
「教えてあげても良いよ。」
「良いね。でも人間がいるよ。」
「人間は悪い?」
「魔物も悪い?」
妖精達は色々考えた後に、やっと答えを出した。
「...教えてあげよう。」
「そうしよう。!
「魔物達、あっち行った!<フィアの塔>に向かったよ。」
「レイラ様もいたよ。」
「ありがとう!」
俺達は<フィアの塔>へ向けて走った。俺達が去った後で、妖精達は呟いた。
「レイラ様、失敗したんだね。大精霊様に見つかったら、大目玉だ。」
「大目玉。可哀想。」
塔に着き、俺達はゼオン達に気づかれないよう、物陰に隠れた。するとゼオンはレイラを台座に寝かせ、何かの準備をしていた。
「レイラ様!」
「待て、テト!迂闊に飛び出したら危険だ。今は耐えて、様子を見るんだ。」
飛び出しそうになったテトを両手で捕まえ、様子を伺った。
するとゼオンは両手を高々と掲げた。ベルフェザードがまどろみ、孵化を待つ横で、意識を失ったままのレイラが青白い炎のような光に縁取られて宙に浮いた。
「もうすぐ...もうすぐだ。愛しき人よ!私の想いがお前を蘇らせよう。
純潔を守りし女神の器は、聖なる冠を被ったあなたにふさわしい。さぁ、降りられよ!
人間としての弱き肉体が滅び迷える魂に、今、永遠の命を!
愛しき人よ、蘇りたまえ!!」
ゼオンが詠唱すると、光は徐々に強まっていった。
「...レイラの体に、死んだ恋人の魂を入れるってか?」
「その為にレイラを...許せない!
死んだ人間を蘇らせる事も、その為にレイラを利用する事も!!
皆、今だ!行くぞ!」
俺は剣を掴み、皆に号令を出して一気に飛び出した。だがその時、レイラを縁取っていた光が掻き消えた。支えを失ったレイラの身体は、そのまま地面に落ちた。
「レイラ!!」
俺は剣を捨てて走り出し、全身を使ってレイラを受け止めた。彼女はまだ意識を失っているものの、生きている事は確かであった。レイラの無事を確認した俺は安堵する一方で、ゼオンは困惑していた。
「?何故だ!?彼女の魂は何故来ない?
ベルフェザード様はまだ覚醒出来ていないのか?<フィアの塔>でも、まだ起きないのか?」
困惑するゼオンを他所に、ギルが高笑いをした。
「キッシャッシャッシャッシャッシャ!無駄だよ。魔物に魂を扱う力など無い。神竜や人間と同じようにな!...それが出来るのは、昔も今も精霊のみ。」
「ギル?...しかし、お前がベルフェザード様を転生させていけば、いつか自由に魂の再生がはかれると...」
「愚かなクソ野郎!まだ気付かんのか?俺はお前を騙していたんだよ!キーシャッシャッ!」
「!?」
「ウスノロの魔物や出来損ない、そして薄汚い人間のお前に傅き、俺はただひたすら待っていたんだ。この日を!!
影で操っていたとは言え、何百年も下僕の演技を続けるのはキツかったぜ!時々、反吐が出た!」
「...なぜ...そんな事を...」
ギルに裏切られたゼオンに、最早俺の知る奴の威圧感が全く無かった。あるのはただ...今まで積み上げて来た物全てを失った喪失感だけだった。
「我ら神竜を忘れていったあらゆる種族への...世界への...復讐だ!
キッシャッシャッシャッシャッ!俺は主となる!!
世界でたった一人の生者となるのだ!」
「おのれ!ギル!!」
「キッシャッシャッシャッシャッ!どうした?
怒れ!喚け!高々500年しか生きていない小僧が!」
「...私は...私は...何という事を?
おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
ゼオンが絶望の叫びを上げ、どこへともなく走り去るのと同時に、ベルフェザードの血管が脈打ち始めた。
「俺の素敵な木偶人形がお目覚めだ...。
... キッシャッシャッシャッ!飯を食わなきゃ力も出ないか...よし!先ずは腹ごしらえだ!」
意識体としてのベルフェザードを伴い、ギルは飛び去った。これ以上ない程の、残忍な笑い声を残して...。




