最後の予言 ~<闇の雫>~
魔騎士ゼオンによって戦闘は中断されたが、両者の間には当に一触即発の緊張感が張りつめていた。
「ギル、貴様はいつも使えない奴だな。」
「...も、申し訳ございません。」
「ゼオン...ギルとの戦いを邪魔してくれた事には感謝してやる。だが、俺達はお前らの野望を阻止してみせる!」
「貴様の虚勢癖にはもう飽きた。ギル如きに苦戦しておいて何を言う。」
ゼオンが戦斧を振り下ろすと、その衝撃波で俺達は吹き飛ばされてしまった。
「うわっ!!」
一撃で俺達は倒されてしまったが、一人だけ無傷な者がいた。それは...女神レイラであった。俺達を見た彼女がゼオンに挑もうとするよりも早く、ゼオンの右手がテトを掴み上げた。
「は、離せっ!苦しい...」
「苦しい?そうか。いっそこのまま力を込めて、握りつぶしてやろう。」
ゼオンが力を込めてテトを握ると、テトの顔は真っ赤になった。
「お願い!やめて!!」
「ほぅ...お願い?では、私の願いを聞いてもらおう。この妖精の命が惜しくば、今すぐギルの背中に乗れ!」
「...」
「レイラ...やめろ!」
「レイラ...様...。駄目...だ。僕...なんか..のた...めに。」
俺とテトがレイラを説得するが、ゼオンはテトの髪の毛を掴んだ。
「うわああぁ!」
「テト!!」
「髪の毛を掴んだ程度で大袈裟だな。次は...羽根を毟ってやろう。」
テトの悲痛な叫びが俺達の心の苦しめた。レイラは涙を浮かべてゼオンに懇願した。
「止めて!私...行きます。」
「レイラ!」
「誰かを見殺しにしてまで掴んだ栄光など、勝利とは呼べません...。スカイ...私達は決して負けない。そうでしょう?...信じてるわ。」
ゼオンはレイラと共にギルの背中に乗ると、テトを投げて寄越した。何とか立ち上がろうにも、ゼオンの一撃で体は動かなかった。誰一人...立ち上がる事が出来なかった。
「無力なお前達は、ここらで見物でもしておくのだな!精々悔し涙でも流しておけ。」
2人を乗せたギルは、何処かに向かって飛んで行った。
「レイラ様が僕の為に...レイラ様が僕の為に...うわああぁぁん!!」
「テト、泣いてちゃ駄目!私達にそんな暇は無いの。ほら、皆に傷薬を付けてあげて。即効性が高い塗り薬よ。」
マナがテトを叱り、傷薬を俺達全員に渡した。薬を患部に塗った俺達は、まるで魔法のように回復していった。
「凄い効き目だな。ありがとう!」
「ムカデ草を煎じたの。テトが一生懸命摘んでくれたの。ねっ?」
「...マナ...ありがとう。」
「あいつら、湖の方向へ飛んで行ったな。何をする気なんだ?」
ジードが疑問を口にすると、テトが慌てて答えた。
「分からない...けど!ぐずぐずしてると<闇の雫>が始まって<精霊の門>開いてしまう!!」
「とにかく、湖へ急ごう!」
湖へ到着した時には、既に太陽が欠け始めていた。いつもは透き通った青色の湖が、今は禍々しさを孕んで黒ずんでいた。水面は波紋一つ無く、ゼオンとギル、それにレイラの気配も無かった。俺達は懸命に周囲を警戒したが、動く物は虫一匹もいなかった。
「レイラ様がいない...」
「くそっ!どこにいるんだ?唯でさえ日食で光が弱まっているのに、闇に覆われたらお手上げだ!」
「お日様が!どんどん消えていく...」
「まさか奴等、<闇の雫>に仕掛けてくるつもりじゃ?」
{死の山、黒き太陽にその牙をたて、太陽は血を流す。}
俺達の目の前にある一番高い山の頂が、太陽に針を刺しているように見えた。そしてその太陽から、まさに雫が一滴一滴湖に落ちて行った。
{血だまりは雪粒程の光を舞い上げながら、渦を巻いている。}
雫が落ちた湖の中心から、光の穴が出現した。
{<魔を率いる将>は禍々しき槍で、その渦の中心を、射抜く。}
魔将ベルフェザードが現れ、漆黒の槍を光の穴に突き立てた。
{災いの槍を飲み込んだ血だまりはやがて、さかしまの渦を作り出す。}
光の穴の中心から黒渦が現れ、やがて穴は闇へと染まった。
{そして、門は無残にこじ開けられた。}
ベルフェザードの力は俺達の想像を絶した。精霊の門は残忍にこじ開けられ、湖に中心に傷痕のような禍潮が出来ている。その時、闇の中でうごめく影があった。
「なんと偉大な力!なんと美しい架け橋か!ベルフェザード様!感謝致します...。」
ゼオンは陶然と渦を見つめていたが、次の瞬間、黒々とした奔流の中に身をおどらせた。ギルもすぐに後を追う。その背中には、気を失っているらしいレイラの姿もあった。
「いた!レイラ様だ!」
「あぁ。俺達も続くんだ。皆、飛び込め!」
「待つのは地獄か?天国か?...武者震いがしてきたぜ。」
「或いは異世界かもな?」
俺達は意を決して湖に飛び込んだ。水に濡れる事無く、ただ落下して行った。そして下から光が見えてくると、俺達の足は地に着地した。目の前には眩い光に溢れ、緩やかに波打つ筒状の道があった。床や壁はオブラートの様に柔らかく、絶えず波打ち俺達を揺さぶる。まるで、道自体が生きている様だった...。




