最後の一歩
酒場でレダと別れた後、俺は真っ直ぐ本部へ戻らずにスラム街にいた。誰もいない通りを歩いていると、前からレイラがやって来た。
「スカイ...散歩ですか?」
「ん?まぁ...ちょっと考え事を...レイラは?買い物か?」
「...い、いえ!私は心配で見に来たのです。」
「心配?」
「あなたが...迷子にならないかと。」
「俺はもう百歳超えてんだぞ?子供扱いしないでくれよ。」
「心配だったの!迷わないで戻って来てくれるか...。」
彼女の気持ちは本当だった。確かにあの時、俺がレダと生きる道を選んでいたら...俺はレイラの元へ戻る事は無かった筈だ。レイラと出会ってから百年が過ぎ、昔に比べれば随分彼女は感情をはっきりと現すようになった。
「あなたがいなくなってしまったら、私...。」
「...俺は迷わないし、いなくなったりしないよ。」
「その言葉、信じていい?」
「約束する。俺は必ずレイラの元へ戻って来る。」
「...先に戻ってますね。スカイもなるべく早く帰って来て。待ってるから...」
レイラは俺の言葉に安堵すると、騎士団本部に向かって走って行った。そして完全に人気が無くなった時、俺の目の前に<破滅の死者>ゼオンが現れた。
「泣かせる女神だな。つくづく興味深い...。」
「ゼオン!」
「ふふふ。久しぶりだな、スカイ。<黒の災い>を倒すとは、腕を上げたな。ついこの間までは虫ケラ以下の臆病者だったのになぁ。」
「残るはお前とギルだけだ。ベルフェザードと共に、お前等を倒す!」
「それは楽しみだが、無理だな。予言の実行が先に来るのでな。
今度こそ貴様を殺す。そして...この世界はもうじき死ぬ!」
「死なせてたまるか!世界は俺達が守る!!」
「...たわ言を言ってられるのも今のうちだ。」
「何だと!?」
「せいぜい楽しみにしておけ。<闇の雫>を!!」
「あぁ...楽しみにしてるよ。お前等の最期をな!!」
俺とゼオンはそれ以上語る事無く、それぞれの場所へと戻った。誰もいない路地裏で、俺は震える身体を必死に落ち着かせた。百年経っても、ゼオンを前にすると身体が凍る。そして仲間がいなければ、俺は虚勢を張るので精一杯であった。
「...ちくしょう。」
俺は改めて、自分の無力さに腹が立った。こんな俺に...本当に力があるのだろうか...?
{大災厄を前に、人々は混迷を極めた。昔とは趣きを変えた<アバトの行人>達。極端な終末思想を持つ彼らと結び付き、人間を惑わそうとした<黒の災い>。彼女がばら撒いた病<黒死病>は大陸全土で20万人の命を奪った。
絶望の邪教と化した彼らのサバト<黒の祈り>では、何千人もの人々が自分の命を進んで投げ出した。滅びの予言を待たずして、世界が終わりそうになっている中で、騎士団は必死に戦った。彼らが持ち堪えくれなければ、世界が残っても、人間は絶滅していただろう。
そして、青年に大きな転機が訪れる。大魔女との決別だ。それは個人の仲違いというより、もっと広くて深い意味を持った別れであった。不死の力と十分な力。同じ境遇にいる二人が、社会を生きて行く上でした異なる選択。彼らの結論が交わる事は、きっとこの先も無いであろう。永遠のお別れでだった。
こうして青年は、自分の目指す生き方を改めて確認した後、決戦への最後の一歩を踏み出した。
365年に一度見られるという皆既日食...<闇の雫>はもうすぐである。}
1099年 聖炎騎士団 ・スカイ17歳(∞)・マナ22歳(13)・ジード38歳(8)




