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<黒の災い>の正体

<夜の都ディース 大聖堂裏路地>

俺達は信者達一人一人に考え直すように説得した。だが誰一人として俺達の話を聞こうとしなかった。

「目を覚ませ!こんな事したって、何も変わらないんだぞ!」

「うぅ...うるせぇ!」

信者が俺の掴んだ手を振り払って逃げてしまった。他の団員達も説得を諦めかけ、正直俺も諦めかけていた。

「...くそっ。これだけ多いと、止めようがない。」

「胸が痛いよ...。ここの人達、形無いものを恐れている。」

マナが苦しそうになって俺に教えてくれた。"気"を読む事が出来るマナにとって、ここは意識を保つのがやっとな筈...

「皆の"気"が流れ込んでくるのか?」

「うん...人間って弱いね。どうしたら守れるんだろう?自分を...誰かを...」

マナの問いに、俺は答える事が出来なかった。すると後ろからレイラの声が聞こえた。

「スカイ!魔物が来たわ!!」

「くっ、またか...マナ、俺達はやるしかないんだ!俺達が前を進んで、皆の灯火となるんだ!」

「うん!」

俺の言葉にマナは笑顔で頷いてくれた。そう...俺達聖炎騎士団の炎で、絶望の闇を払うんだ!


<聖堂裏口>

立ち塞がる魔物を倒し続け、俺達は黒幕の元へと向かった。するとテトが何かを見つけたようだった。

「あ!あいつがいる!!」

「レダ...」

テトの言葉に俺は驚き、レイラが悲しそうな反応をした。視界の先にレダの姿が入ると、俺は一目散に走った。

「おい、レダ!待ってくれ!!」

俺の声に彼女が振り向くと、やはりレダであった。黒い服に黒の帽子...何十年経っても変わらない容姿がそこにあった。

「あらら...久しぶり。元気そうだね。」

「ふざけるな!レダ、何でお前がここにいるんだ!?」

「やぁね。ただの通りすがりだよ。」

「本当の事を...言ってくれ!」

「...あたしの口からどんな言葉が聞きたい訳?」

俺はレダの両肩を掴んで逃がさないようにした。いや、正確には俺の前からいなくならないで欲しかった。

「...信じたいんだ。」

「?」

「例え何千人の証言があっても、何万個の証拠があっても、何億の命が奪われようとも...俺は!お前を信じたいんだ!!お前が<黒の災い>じゃないって事を!!!!」

「秀哉...」

俺は泣きながらレダに本心を打ち明けた。レダも俺の言葉にハッとした表情を見せてくれた。だがレダはそんな俺の両手から離れてしまった。

「ほら!魔物が出たよ。しっかり戦いなさい!」

「待って...待ってくれ...レダーーーー!!!!」

「あたしをそこまで引き止めてくれるなんて、ありがとう秀哉。」

レダの姿は魔物と重なった瞬間消えてしまった。俺はレダを止められなかった喪失感で一杯だった...

「おい!何やってんだ!お前がやらなきゃ、誰がやるんだよ!!」

「スカイ。今は目の前の敵を倒しましょう。レダが黒幕かどうかは、まだ分からないわ!」

「スカイ!お願い、戦って!」

「戦わねぇんならブッ殺すぞ!クソガキ!!」

仲間達の叱咤激励で、俺は正気を取り戻した。そして魔物に向けて剣を構え、団員達と共に魔物に立ち向かった。


「皆、無事か?」

「大丈夫よ。」

「ったく。女にフラれた程度で殺されそうになるんじゃねぇよ!」

「本当にすまなかった。けど...漸く一番奥まで辿り着けるな。この先に...<黒の災い>が...」

俺達は意を決して、聖堂の奥へと進んだ。そして遂に...<黒の災い>の後ろ姿を捉えた。

沢山の信徒に囲まれ、異臭を放つ大鍋を女がかき混ぜていた。黒い帽子に黒の服...それは数分前に会った者と同じであった。

「...嘘だ...俺は...俺は...」

「やっと見つけたよ!ゲルダ!久しぶりだね!!」

俺が目を閉じて事実を否定しようとした時、レダの声が聞こえた。そしてよく見ると、レダは女の隣に立っていた。

「レダ!?じゃあ...あの女は...?」

女はゆっくり振り返り、レダを見遣った。

「レダ...私はもうゲルダじゃないさ。魔将ベルフェザード様に仕える<破滅の死者>の一人、<黒の災い>さ。そんな目で私を見るんじゃないよ!!」

黒幕の正体は...確かにレダと同じ格好をしていた。しかし容姿は衰え、醜悪な顔をしていた。

「どうしたの?嘗ての仲間が会いに来たんだよ?」

「仲間なもんか!あんたは私を...蹴落としたんだ!!私を踏み台にして<大魔女>になったんだろう!!」

「踏み台とは人聞き悪いね。あれは試練さ。実力勝負の世界だろう?」

「いいや!あんたは私を裏切った!!友達だって言ったのに...最後の試練で毒がまわって苦しんでる友より、あんたは自分の野望をとったんだよ!」

「...」

「レダ。人間は皆あんたと同じさ。群がってしか生きられないくせに、自分を守る為なら平気で他人を犠牲にする。」

「あたしは群れてなんかない!」

「おやおや...そうかい。ふん...人間なんて弱いもんだ。功名心、嫉妬、絶望...すぐに壊れちまう。たかだか70年程度の寿命じゃ人間は学べない。愚かさは救えないんだよ。だったらいっそ...こんな世の中ごと潰してやろうかと思ってね...。」

「...それで、魔物の仲間入り?人間を殺して気が晴れた訳?」

「私は殺しちゃいないさ!ちょっと水を向けてやれば、後は人間同士勝手に争い、絶望し、殺し合ってくれたんだ。噂、噂、噂...噂に適当な情報を流し込めば、疫病だって流行らせる事が出来た。分かるだろ?人間なんて噂一つで腐っちまう生き物なんだよ!」

ゲルダの言葉に俺は胸が痛かった。確かに噂は恐ろしいものだ。真偽を問わず人から人へと流れ出し、最終的には世界中にまで広まってしまう。噂もある意味疫病の一つと言っても良いのかもしれない...。ゲルダの本心を聞いたレダは、悲しい表情を浮かべていた。

「...。醜くなったね、ゲルダ...。」

「私の顔を見るな!あんたには分かるまい!!<大魔女>になり損ねた人間が、どれ程苦労して生き永らえて来たか...。」

「分からないね!ありとあらゆる錬金術で命を引き延ばして来て何になるの?不老不死なんて...ちっとも楽しくないじゃないか!」

「うるさい!うるさい!!世界がどうなろうとも、私だけは生き残ってやるのさ!!」

ゲルダが杖をかざし、何かを繰り出そうとした。俺は剣抜く構えをして、レダの元へ向かった。

「レダ!!」

「おっと...手出しは無用だよ、秀哉。ゲルダをこんな化け物にしたのは...あたしさ。責任はとらなきゃね。あたし一人で何とかするから、あんたは早く信徒達を連れて逃げて!」

「くくくく...何を寝惚けた事言ってんだい?私は<大魔女>になり損ねたが、年月をかけてそれなりの力を手に入れたんだ。躱せるかい?」

ゲルダは雷を落とし、レダは回避が間に合わず衝撃波を受けた。吹き飛ばされたレダを、間一髪受け止める事が出来た。

「うっ!」

「レダ!お前一人じゃ無理だ!俺達も戦う。」

「...秀哉...」

「忘れるな!お前は...一人なんかじゃない!お前には俺が...仲間がいるだろ!?」

俺の言葉にゲルダは高笑いした。

「仲間?友達?下らないね!自分を救えない人間が、他人をどうこう出来る訳ない!」

「<黒の災い>...いや、ゲルダ!確かに人間は弱い生き物さ。だがそれでも、お前の野望を打ち砕く事くらいは出来る!」

「黙れぇぇーーーー!!!!」

ゲルダの身体を漆黒のオーラが纏い、ゲルダは人の姿から魔物の姿へと変貌した。

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