夜の都 ディース
{1099年 祈る者}
"犯されてはならぬ永劫の世界に踏み込んだ
不滅の女は愚者と弱者の大いなる旗印とな
るだろう。
祈りの都は死都となり、多くの魂たちは新たな
世界を求めて自らその身体を捨てるだろ
う。
忍び寄る死を恐れた魂達は決して浄化され
ず、魔を率いる将にとり込まれ大災厄への引
き金達となるだろう。
”黒の災い”はこの全てを為し、災厄の功労
者となるだろう。" アルバレスの正予言より...
夜の都ディース...いつからその名が付いたのかは誰にも分からない。だが俺は何度もこの街に来た事もあり、何度も魔物の脅威から人々を守って来た。あの頃の人々は平和に暮らしており、街にある大聖堂が自慢だと笑って教えてくれた。だが今は違った。この街は当に..."地獄"と呼ぶに相応しい光景が目に見えた。。
大聖堂をぎっしりと埋め尽くした人々が口々に諦めの言葉を吐き、地下の祭壇へと身を投じていた。その光景を見た団員の数名が嘔吐し、戦いが困難な状態となってしまった。俺も今にも吐き出してしまいそうになったが、共に戦った仲間達の事を思い出し、グッと堪えた。
「こんなのが救いだと...?こんなただの集団自殺じゃないか!」
「へっ。ご苦労なこった。ろくに生きられないヤツらが、死んでどうなるとは思えねぇがな。」
「とにかく、止めないと!」
これ以上人々の命が失われるのを止める事で焦る一方で、今まで多くの人々の命を奪って来たジードは冷静であった。すると背後から男の声が聞こえた。
「待て、どこへ行くつまりだ?」
聞き覚えのある声だった。いや、正確には...もう二度と聞きたくない声だった。俺は覚悟を決めて振り向くと、あの男がいた。
「やはりお前もいたのか...ウィリアム!」
「そうさ、ここが私の場所。あの方だけが私の才能を認めて下さった。あの方だけが...私の事を必要としてくれたのだ!」
嘗て親衛隊長であった奴は。もうあの頃の面影は無かった。奴はもう...<黒の災い>の側近となっていた。
「答えろウィリアム!あの方とは誰だ!そこをどけ!」
「どかぬ!私はあの方に命を捧げた。この命にかけて、お前達を通さない!サバトを遂行させるのだ!!!!」
ウィリアムは狂乱しながら剣を振り回した。最早この男に説得の余地は無かった。俺は覚悟を決めて剣を抜こうとした時、奴は笑いながら喋った。
「ふはははは。もうすぐあの方が来るぞ...黒の災い、黒の祝福、黒の終焉...ふはははは。」
するとジードがウィリアムに向かって走り、奴が余所見をしている隙に顔面を殴り飛ばした。
「ぐはぁ!」
「へっ。命をかけた割にゃ、呆気なかったな。」
「ジード!」
「何だ?俺に説教すんのか?そんな暇はねぇと思うがな?」
「...ありがとう。」
「あぁ?」
「俺はこいつを斬るつもりだった。けど...お前が殴ってくれて、俺は人の道を踏み外さずに済んだよ。」
「ちっ、余計な事しちまったぜ。テメェの"殺人"が見られると思ったのによぉ。」
「どの道こいつの馬鹿は死んでも治らないだろう。俺にタコ殴りされても、こんな所にいるんだから...」
「へぇ〜。テメェも人を殴る時があるんだな。」
「殴られた時だってあるさ...」
俺達はウィリアムを放置し、大聖堂へと向かった。
<聖堂前広場>
正門を抜け広場へと着くと、魔物が門番のように待ち構えていた。先程体調を崩したのは、魔術師・サムライ・術者の3名であった。戦闘に出せなくは無いが、普段の力が発揮出来なければ、こちらが苦戦を強いられてしまう。俺はジードにも戦闘に加わるよう頼み、魔物を撃退した。
「こんな世の中、もう滅びたも同然!もう何をやっても無駄なのさ。」
「そんなに死にたきゃ、殺してやろうか?」
「ひっ!"死神"!?」
ジードの顔見た途端、信者は一目散に逃げて行った。自ら死を選びにここへ来たのに、ジードに殺される事に恐怖するなんて...そう思っていると、ジードが笑いながら言った。
「へっ。何を今更恐れてやがる?馬鹿な奴等だ。」
「ジード...一つ聞いても良いか?」
「あぁん?」
「お前...何かに恐怖した事はあるか?」
「無ぇよ!俺は誰も、何も、自分の命にすらこだわっちゃいねぇからよ。」
「...どうして?」
「へっ。昔テメェに言った筈だぜ?人間は所詮一人だってな。後も先も無い。今があるだけ。テメェもそうだろ?不老不死のスカイさんよ?」
「違う...俺は一人じゃない!大事な仲間がいる!俺と一緒に命をかけて戦う皆が死ぬのが、いつも怖くてたまらないんだ!」
「へっ。笑わせやがる。それでよく団長なんてやってられるなぁ。テメェがどれ程生きてるか知らねぇが、やっぱガキだな。」
「ジード...殺人を楽しみにするお前が、何故マナを助けたんだ?」
「...」
「本当はお前も一人が怖かったんじゃないのか?だからマナに側に居て欲しかったんじゃないのか?」
「おっと!下らねぇ質問に、魔物が抗議して来たぜ!」
ジードはそう言うと魔物に向けて剣を向けた。俺も魔物との戦闘に意識を集中させ、団員達に指示を出した。
魔物は大したこと無く苦戦する事は無かったが、俺は魔物の動きに違和感があった。それは奴等が俺達ばかり攻撃し、信者達には見向きもしていない事だ。これも黒幕の仕業なのか...?俺達はここにいる信者達の何割を止める事が出来るのか...?色々な事を考えたが、とにかく今はやれるだけの努力をする事に専念した。




