レミリア修道院 再び
1099年15日目
レミリア修道院...そこは嘗て、俺達聖炎騎士団が王都リゼルへ行く為に立ち寄った場所だった。あの時は雪が積もっていたが、今もそうだった。何もかもあの時と同じかと思ったが、修道院の隣に小さな少女の像があった。石像は頭に雪を積もらせていたので、俺は優しく雪を払ってあげた。するとライトが解説してくれた。
「この修道院にあるその石像は、聖女として有名なんだ。名前は確か...」
「リリ...」
「そう!リリって言うんだ。あれ?何でスカイが知っているんだ?」
「昔、この子に助けられた事があるんだ。」
俺達の会話が聞こえたのか、修道院から神官が出てきた。恐らくここの院長かもしれない。
「あなた方は?」
「俺達は...聖炎騎士団です。長が倒れたと聞いて、駆けつけました。」
「聖炎騎士団ですって!?お引き取り下さい!」
神官は騎士団と聞くと、一方的に扉を閉めてしまった。彼女の反応にライトはびっくりしてしまった。
「な、何なんだ今のは!?いくら何でも酷いじゃないか!なぁスカイ?」
「...。」
「どうしたんだ?彼女と何かあったのか?」
「昔...俺はここで大罪を犯したんだ。」
俺はライトに事情を説明した。
俺達はあの時、一刻も早く王都へ向かわなければならなかった。吹雪と氷が覆う雪山を乗り越える事は、今思えば自殺行為に近かった。そんな時...最短距離の案内を買って出たのは、院長のレミリアと幼い神官リリだった。
雪山の行進は険しかった。その上魔物も現れて、俺達は疲弊して行った。途中で休憩を取れても、先を急ぐ俺達に引き返す選択肢は無かった。途中で仲間の怪我が悪化した為、案内はリリ一人がしてくれた。小さな体で必死に雪山を進み、俺達を導こうとしてくれたその時...彼女が魔物から俺を庇って重症を負った。病弱だったリリが俺達と共に雪山を進む事は、当に無謀とも言えた。それでもリリは最期に大切な物を見つけたと言って、笑顔で息を引き取った。
「あの頃の俺には...覚悟が足りなかったんだ。リリは命がけで俺達を導いてくれたのに...俺は...」
「そうだったのか...そんな事があったんじゃ、彼女があんな態度をとっても仕方ないか...」
過去の罪を告白した俺と、俺の話を聞いたライトは、共に下を向いて俯いていた。するとレイラが俺の元へ近づいて来た。
「スカイ。扉を叩きましょう。もう一度、彼女と話をするのです。」
「レイラ...」
「あなたの罪は、私のせいでもあります。過去の悲劇を乗り越える為にも、私達には強力する義務があります。」
「...そうだな。よーし...」
レイラの説得で意を決して扉を叩こうとした時、後ろからテトの声が聞こえた。
「イテテ!!何するんだ!!」
「虫さん捕まえた!」
可愛らしい無邪気な声でテトを"虫さん"と呼ぶ声に、俺はハッと振り返ると...夢か幻か、リリが目の前にいた。
「リリ?」
「?リリってだぁれ?あたしはユミだよ?」
「あぁ...ごめん。昔君にそっくりな子がいたから...」
「どうでもいいから、さっさと離せ!!」
ユミの両手に捕まったテトは、ユミに噛み付いて逃げ出す事が出来た。
「いったあーい!!」
「ふん!僕を手荒に扱うからだ。」
「今度は何なのですか!?さあユミ、こちらへいらっしゃい。」
神官が俺達の騒ぎを聞き、再び扉を開けてくれた。テトに噛まれたユミは泣きじゃくって神官に駆け寄った。するとレイラは怒った顔でテトを叱った。
「テト。彼女に謝りなさい。」
「だってレイラ様...あいつ僕を強く締め付けたんですよ。なんで僕が謝らなきゃならないんですか?」
「彼女に悪気はありません。それより、彼女を傷つけた事に対し、ちゃんと反省しなければなりませんよ。」
「...ご、ごめんなさい...ちぇっ。」
テトが不満そうに謝っても、ユミはこっちを向いてくれなかった。俺も彼女に謝ろうとすると、笑顔でこっちに振り向いてくれた。
「...えへ!なぁんてね!」
「!嘘泣きか!?」
「...またですか。ユミ、この人達に謝りなさい。」
「いーっだ!」
神官の叱りに対し、ユミは嫌な顔をして反発した。見た目はリリそっくりなのに、随分といたずら好きな子だなと思った時、修道院から僧侶が出てきた。
「エルナ、そろそろ時間ですぞ。」
「分かりましたわ、カムロン。...では、ユミ!参りますよ。」
「何処へ行くのですか?」
「あなた方に話す事はありません。」
神官エルナは相変わらずだった。するとユミが俺の側に寄り添った。
「王都まで、長のお薬を取りに行くの。大急ぎだから、雪山を超えるの。あたしが道案内役!」
「ユミ!余計な事を言うんじゃありません。」
エルナがユミを叱ると、ユミは首を傾げた。
「何で余計なの?この人達"うでがたつ"んでしょ?助けてもらおうよ。」
「それは...」
ユミの提案にエルナは戸惑った。俺は彼女に土下座して懇願した。
「お願いです!俺達にも協力させて下さい。これで過去の償いが出来るとは思ってません。ですが、このままあなた方をほうっておく事は、もっと出来ません!それに、雪山の恐ろしさは俺が一番分かっています。どうかお願いします!」
「...分かりました。ではあなた達騎士団に、護衛をお願いします。」
「ありがとうございます。」
俺の熱意がエレナに伝わり、同行を許してくれた。するとユミは嬉しそうにはしゃいだ。
「良かった!おじさんやおばさんだけと子供だけじゃ、どう考えても無理があったもん。」
「ユミ!!」
「えへっ!ごめんなさぁい!」
こうして俺達は雪山超えに挑むのであった。俺は過去の悲劇を繰り返すまいと、固く心に誓った。




