諦める人々、争い合う人々
1089年50日目
予言の年まであと3年となった。バルトウェイやレームなどの大きな街へ行っては、"黒い魔女"や"死神"に関する情報収集が欠かせない。
そしてこの日も、とある村に現れた魔物を倒した。すると村の方から、黒いローブに身を包んだ怪しい人物...アバトの行人が現れた。
「黒死病の蔓延、"死神"、そして破滅の予言。これら全ては終末への道しるべです!両手を上に、苦しみを受け入れましょう!」
男が言うと、殆どの村人達が両手を上に挙げた。
「おい止めろ!何言っているんだ!?魔物は倒した。まだ諦めるには早過ぎるだろ!?」
すると村人の一人が俺に話しかけてきた。
「もう良いんです...。頑張る必要なんて無いんだ。」
「そうです!我々は戦わなくても良い場所へ向かうのです。」
「あんたらは...」
村人達は既に自暴自棄に陥っていた。"頑張る必要なんて無い"...どんなに苦しくても戦い続けて来た俺にとっては、精神的に辛い一言だった。
「生きていたって、どうせこんな世の中さ。ダメなものはいつまでたってもダメなのさ。」
「くっ、自棄を起こすんじゃねーー!!」
俺は思わず村人の一人を殴ってしまった。殴られた村人は村の方へと逃げて行ってしまった。そして俺の怒りは収まる事無く、アバトの行人の男に向けられた。
「お前もお前だ!いつからあんたらはこんなに捨て鉢の教えを説くようになった!」
「捨て鉢だなんてとんでもない。我々は正しい処世を広めているだけですよ。失礼。」
男は一礼してどこかへと歩き出してしまった。俺は息を整え、再び進みだそうとすると、別の村人が俺に話しかけて来た。
「あんた達も、もう戦う事なんて辞めちまえよ。人間もっと平和に暮らす事だって出来るんだぜ。」
そう言うと、村人は俺達から去って行った。さっきの言葉に激昂した団員が暴力を振るおうとしたのを、俺は必死になって止めた。
「止せ!お前ら。」
「何でですか!?あんな事言われて悔しく無いんですか団長!?」
「悔しいさ!!けど...同じ人間同士が争い合うなんて、馬鹿馬鹿しいじゃないか!?俺達の敵は何だ?俺達は魔物から人々を守っているんだぞ!どんなに心を折られる言葉を言われようとも、人間同士で争っちゃダメなんだ!!」
俺は何とか団員達を抑え、次の目的地へと向かった。そして俺は心の中で呟いた。
「(平和に暮らす為に、俺達は戦っているんじゃないか...)」
1090年15日目
俺達は魔法都市レームに到着した。街にある墓地にはフォーロの他に、メリィやピック達の墓標があった。酒場で情報収集していると、外が騒がしくなっていた。住民達の様子は、何やら物々しかった。
「村の上水門を塞げ!急げ!!」
「おぅっ!」
「塞いだら武器を持って集まれ!皆に決起だと伝えろ!!」
「分かった!」
住民達の物騒な会話を耳にして、俺はリーダーらしき男に声をかけた。
「どうしたんですか!?武器を持つや決起だなんて...尋常じゃないな?」
「これが落ち着いていられるか!毒が流されるんだから!」
「毒だって!?」
男の言葉に俺は衝撃を受けた。一体何の為にそんな事をするのか...何とか頭を働かせようとしても、状況を飲み込む事すら出来なかった。すると男は状況を説明してくれた。
「隣村の連中が、俺達の村の上水に毒を仕込みやがった。」
「どうしてそんな事を...」
「死人の肉を食えば、黒死病の呪いから逃れられるからさ!」
「そんな馬鹿な話があるか!毒で死んだ者の肉を食ったって...その毒で死んでしまうだろ!!」
「分からねぇよ!黒ずくめの女がそう告げて行ったんだ。隣村はもう半数が黒死病でやられている。藁にも縋る思いなんじゃねぇのか?だからって、俺達の村を犠牲にするのは許せねぇ!こっちだって死にたくねぇんだよ。」
すると住民の一人が戻って来た。
「上水は無事だ!皆が立ち上がったぞ!」
「よし、行くぞ!殴り込みだぁ!殺られる前に殺るんだ!」
「待ってくれ!そんな事したって何も変わらないぞ!」
2人は俺の話を聞く事無く、住民達の方へと走ってしまった。一人取り残された俺は、どうしようもない無力感で一杯だった。呆然と立ち尽くす俺の元に、レイラがそっと側に寄り添った。
「スカイ...」
「変わらないんだよ...変わらないんだよぉぉぉぉーーーー!!!!」
俺は行き場のない葛藤を込めて叫んだ。団員達は俺の身を案じて、王都への帰還を勧めてくれた。
諦める人々と争い合う人々...予言の魔物とは関係無い要因で、世界が大きく破滅へと向かっていた。大災厄まであと10年、それまでこの世界は生き残る事が出来るだろうか...。




