度重なる不幸
"死神"ジードが投獄されている牢屋へと辿り着くと、扉は固く閉ざされていた。だが周りをよく見ると、争った痕跡として小さな血痕があった。
「一体何があったんだ?」
「おーい!誰かいるのかーい!」
牢屋から声が聞こえた。そしてこの声は自称"世界に真実を伝える者"...ライトであった。
「ライト?ライトなのか!?」
「そ、その声はスカイ団長かい!?」
やはり中にいたのはライトであった。すると俺の元にテトがやって来た。
「おい!お前があいつを逃がしたのか!?」
「チビスケもいるのか?違うよ!僕はあいつを逃がしていない!」
「じゃあ何で牢屋にいるんだ?」
「それは...。」
ライトは事情を説明してくれた。どうやら彼はあのあとも何度もここへ来てはジードに話を聞いていたらしい。最初は怒鳴られていたが、次第と大人しくなっていったらしい。
「それで今回は例の"黒い魔女"の話を、あいつにしてやったら...面と向かって話しがしたいって言ったんだ。そしたらあいつが看守を気絶させて、僕は牢屋に押し込まれたんだ!」
「"黒い魔女"の話!?それは一体どんな内容だ?」
「とある村にある墓を荒らしている所を目撃したって事さ。話を聞き終えると、牢屋に鍵をかけて行ってしまったんだ。」
ジードが"黒い魔女"の何に反応したかは分からかった。だが殺人を楽しみにしている奴なら、"黒い魔女"に殺意を持っていてもおかしくない。
「そうか...分かった。取り敢えず俺は王様の所へ行って来るから、ちょっと待っててくれ!」
俺はライトにそう言い残すと、王様の元へと駆け出した。
「えっ?ちょ、ちょっと!?僕をここから出してくれないのかい!?」
「まぁ、今回の事はお前も悪いしな。良い機会だから、そこで少しは反省してろよな。」
「チビスケまで...そんなぁ〜!!」
謁見室に入ると玉座で王様が頭を抱えていた。"死神"の脱走で頭が一杯の彼に、ウィリアムの愚行を言うのはマズイと思った。
「王様、予言の魔物の討伐が完了しました。」
「うむ...」
「それと、"死神"の脱走の件なのですが...」
「うむ...」
「どうかなされたのですか?」
「マイロが...私の宝が黒死病にかかったのだ。凡ゆる手を尽くしても、治す事が出来ないのだ。」
するとソムリアが俺の元へ来て、詳しく事情を説明してくれた。
「もう王子は限界です。発病してからというもの、王自らが看病したのですが...余り効果が無かったのです。」
すると医師の一人が王子の危篤を知らせ、王様はマイロ王子の元へ慌てて向かった。面会は出来なかったが、王子が死にそうだと言う事は声で分かった。
「お...とう...さま...」
「おお!マイロよ!私の宝が、今まさにこの手から溢れてしまう。」
「あ...りが...と...」
「マイロ?」
「...」
「マイロ?マイロ!?儂を置いて行かないでくれ!おおおおぉぉーーーー!!!!」
王様の慟哭が謁見室にまで響いた。そして俺の前に戻って来た時、王の眼は虚ろで何も見えていなかった。いつもは半ば無責任なくらい明るかった表情も、深い陰りを纏っていた。明日明後日にも自ら命を絶ってしまいそうな王にかけられる言葉があれば、たった一つしか無かった。
「王様...お悔やみ申し上げます。」
誰の声も届いていないような王を置いて、俺は謁見室を後にした。
城の廊下を歩いていると、テトが俺の元にやって来た。
「大丈夫か?スカイ。」
「バルトウェイが壊滅した時以来の喪失感だよ。」
「でも...肉親から被害者が出たって事で、王様も漸く黒死病について真剣に考えてくれるんじゃないのか?」
「だと良いんだが...立ち直るには、かなり時間がかかりそうだな。」
「ところでスカイ...ライトの事、忘れてないか?」
「あぁ...そうだったな。あいつに伝言を頼む。"明日出してやる"って...」
俺はテトに伝言を頼むと、そのまま自室のベッドに倒れてしまった。
「お、おい!?スカイ!」
{"黒死病"の収まらぬ猛威、王子の死による王政の混乱、親衛隊の迷走と森の大火、そして"死神"の脱獄...。少しずつ狂い始めた人間界の歯車が一気に吹き飛んでしまったかのように、この年、予言の魔物とは関係無い所での不幸な出来事が立て続けに起こった。それはまるで、後15年を切った破滅の予言へ向けて、世界が加速度を付けて転がり落ちて行くようだった。一方、予言書の不吉な記述は相変わらず無くならない。これまで数十年、青年と勇者達がどれだけ戦い未来を変え続けても、未だ無くならなかった。染みのように消えない不安を焦燥に変えつつ、しかし、騎士団達は諦め無かった。諦めた時点で、何もかもが終わってしまうという事を知っていたのだ。}
1087年 聖炎騎士団 ・スカイ 17歳(∞)他13名




