"死神"との面会
"死神"が捕らえられている牢屋は地下にあった。牢屋といえば不気味な雰囲気が漂っているものだが、奴が入れられている牢屋は一際違って思えた。囚人が外の人と面会する場合、扉にある小さな戸から相手の目だけが見えるようになっている。しかし今回はそれすら無い扉越しという条件で、"死神"との面会が許されたのである。
俺は息を整えて、常に冷静な態度で目的の情報を聞き出そうとした。ところが"死神"に対しての第一声は、ジャーナリストのライトに取られてしまった。
「初めまして。僕..."死神"と呼ばれている貴方にお会い出来て、大変光栄です!」
「何こんな時に告白してんだよ!」
ライトの軽率な行動に、テトがツッコミを入れた。すると扉から気味の悪い薄ら笑いが聴こえて来た。
「おいおい、今日は俺に漫才でも聞かせてくれるのか?」
"死神"の声は低く太かった。声だけで奴が俺より遥かに年上...約30代後半から40代と検討がついた。俺はテトにライトを下げさせ、会話に入った。
「"死神"のジード、俺は聖炎騎士団団長のスカイ=ウルメイア=フィールドだ。」
「あぁ...良く知ってるぜ。俺の次に血を好む男だろ?テメェの顔を拝めないのが残念だが、まだ子供だな?」
「子供である事は否定しない。俺はまだ未成年だからな。だがお前の次に血を好むという事は否定する!俺は死神でも吸血鬼でもないからな。」
「へっ、良く言うぜ。毎日魔物の血をその身にたっぷりと浴びてる癖によぉ。」
「与太話はここまでだ。」
俺はこれ以上奴のペースに乗せられないように、本題へと入った。
「黒死病の事は知ってるよな?」
「あぁ...今話題の流行病だろ?あれには俺もムカついているぜ。」
「お前の薬草の知識は、王都の医師でさえ知らない事が多いらしいな。黒死病の特効薬を作り出す事は出来無いか?必要な物は俺が揃えさせてやる。」
「薬草といっても...俺の専門は"毒薬"だ。人を治す薬は作れねぇよ。」
奴の言葉で微かな望みが消えてしまった。そして奴は失意の俺に更なる言葉を畳みかけて来た。
「さっき俺が黒死病にムカついているっつったけどよぉ。何でだか分かるか?」
「さぁな?」
「あれのせいで人間共が次々に死んでいきやがる。お陰で俺が殺す人間が少なくなってやがるんだからな。」
「殺人は自己満足の為にしていると?」
「その通りさ!俺の唯一の楽しみはそれしか無ぇからな!」
ジードの言葉に俺が抑え続けていた怒りが爆発し、奴のいる牢屋の扉を思いっきり叩いた。
「ふざけるな!!快楽を得る為に殺人を犯すなんて...それでもお前は人間か!?お前に流れる血の色は何色だ!!」
「何寝ぼけた事言ってやがる?俺は"死神"だぜ?命ある者の命を奪って何が悪い!」
「なら話を変えよう。お前...家族はいるか?」
「はぁ?いきなりなんだ?まさか情に訴えようってんじゃねぇだろうな?」
「別に...ただお前にも、愛する者や愛される者がいたのなら、こんなに歪む事は無かっただろうなと思っただけさ。」
「テメェ...俺を哀れむんじゃねぇ!所詮人間なんてモンは一人なんだよ。それはテメェが一番分かってんじゃねぇのか?不老不死のスカイさんよぉ?」
ジードの言葉に俺は反論出来無かった。無限の生を持つ俺には、常に孤独が付き纏っていた。
「もうテメェと話す事は無ぇ。さっさと失せな。」
「ちょ、ちょっと待って!?なら最後に聞かせてくれ!」
ジードが話を終えようとすると、ライトは慌てて俺の前に出て質問した。
「君はどうして親衛隊に捕まったんだい?今まで君は凡ゆる追手を撒いて来たじゃないか?とてもじゃないけど...王都の親衛隊が君を捕まえられるとは思えない。」
ライトの言う事に俺は同感だ。親衛隊の戦力は王都を防衛するのがやっとである。そして奴がその気であれば、親衛隊を皆殺しにすれば捕まる事は無かった筈だ。するといきなり、牢屋の扉を内側から蹴った音が響いた。
「うるせぇ!!テメェなんかに話す気は無ぇ!!」
「ひいっ!す、すみません!!」
「今度来やがったら...その時は殺すぞ?」
「そ、それでも構わないさ!僕は絶対...君の真実を明らかにしてみせる!」
ジードの恐喝にも屈しないライトの度胸に感服した事で、俺達は"死神"との面会を終えた。
騎士団本部に戻る前に、俺の足は王都の墓地へと向かっていた。例の"黒い魔女"が墓を荒らしているのなら、ここも奴の標的になりかねないからだ。すると墓地には思いがけない先客がいた。大きな帽子に黒い服を着た女性...レダであった。
「あら秀哉?久しぶりね。」
「レダ!?」
「ごめん、今ちょっと急いでいるんだ。また今度ね。」
いつもなら俺をからかう彼女が今回は違った。俺はレダの腕を掴み、逃がさないように引き止めた。
「待ってくれよ!今回はいつもと違うじゃないか?」
「あら嬉しい。そこまで私の事を思ってくれてたの?」
「あぁ...。」
「そう...。でもそんな怖い顔で言われると嬉しくないなぁ。」
「レダ、どこへ行く?」
「知りたい?」
「...」
俺はレダから手を離した。するとレダは身なりを整えて真顔で俺の顔を見た。
「なら、あんたの答えを聞かせてもらおうかな?まさか忘れた訳じゃないでしょ?」
「それは...」
「あらら、黙っちゃった。あたしの懐に飛び込む時は、身も心も預ける覚悟がなきゃダメだよ。それじゃあね!」
するとレダは颯爽と姿を眩ましてしまった。一人取り残された俺はレダが犯人ではないかと思ったが、レダが墓荒らしをする動機が全く見当付かなかった。
「レダ...お前は本当に、俺と同じ不老不死なだけなのか...それとも...」
墓地を後にして本部に戻るまで何度も考えたが、所詮ただの仮説で終わってしまった。




