アバトの行人と黒い魔女
王様との謁見を終え、俺は酒場で情報収集と団員募集を行っていた。しかし入団希望者は戦力となれる期間が短かったり、既に衰退期に入っている者が大半だった。これもやはり疫病の猛威が少なからず影響しているのだろうか...。
「この世界は終わりである!!」
突然店内に響く大声に俺は驚いた。声がした方を見ると、そこには黒いローブにフードで顔を隠した男性がいた。
「世界はもう時期終わりを迎えます!儚い希望は捨てて、共に諦めましょう!」
「テメェ!何ふざけた事ぬかしてんだ!」
客の一人がフードの男に噛み付いた。
「俺達には聖炎騎士団がいるんだ!魔物なんかに世界が滅ぼされる筈がねぇ!」
「聖炎騎士団はこの世界に仇成す存在!魔物こそ、我等を救う神の使いなのです!」
「この野郎ぅ!」
客とフードの男が取っ組み合いになり、それを他の客達が仲裁に入る。やがて2人共親衛隊の隊員に身柄を拘束された。
「あんたも随分な言われようだね。」
「別に...あんなの気にしちゃいないさ。」
マスターが俺を心配して、ミルクを1杯奢ってくれた。
「それより、さっきのフード男は一体?」
「"アバトの行人"さ。各地に赴いては、さっきみたいな事をやってんのさ。」
「アバトの行人だって!?」
「何だいあんた?知ってんのかい?」
「あぁ...。」
もう随分昔の話になる。初めて彼等を見かけたのは、まだバルトウェイ自警団の副団長であった頃だ。
「もし、そこの若者や。」
「えっ?俺ですか?」
茶色ローブを着た男性がリーフに話しかけて来た。
「我々はアバトの行人です。もし宜しければ、我々の教えを聞いて頂けないでしょうか?」
「は、はぁ...。」
その後男性は阿波踊りのような踊りをリーフに教え、リーフも断れずに躍らされた。するとゴードンが微笑みながら近づいて来た。
「何を可笑しな事をしておるのじゃ?」
「し、師匠!?笑ってないで止めて下さい!」
そして次に彼等に会ったのは水上街ウォルターに拠点を置いていた頃だ。
「もし、そこの若者や。」
「えっ?俺ですか?」
「我々はアバトの行人です。もし宜しければ、我々の教えを聞いて頂けないでしょうか?」
「あの...もう変な踊りは結構ですから。」
歳を重ねた上、一度経験したリーフは彼等が何をさせようとしているか直ぐに察した。しかし男性は反論した。
「何を言いますか!?それは古い教えを持った者達がする事です!我々はそのような輩とは違います!」
「は、はぁ...どうもすみません。」
「良いですか!先ずはこうしてですね。」
そう言いながらも、やはり阿波踊りのような踊りであり、リーフも断れずにいた。そして今度はライが呆れ顔で現れた。
「お前、恥ずかしくないのか?」
「う、うるさい!見てないで止めさせろよ!」
あの頃は変な踊りを教える変な人達だなと思っていたが、今の変わり様は異常だった。
「随分変わったなぁ...。」
「へぇ〜。アイツらって、そんな昔からいたんだ。」
俺とマスターの話を聞いていた客の一人が相槌をうってくれた。
「ところで兄ちゃん。"黒い魔女"の噂は知ってるかい?」
「"黒い魔女"?」
「あぁ。何でも聞いた話じゃあ、黒死病で死んだ人間の墓を掘り返しては、その死体を使って悍ましい実験を行っているって話よ。」
「ただの墓荒らしだろ?何で魔女って分かるんだ?」
「そいつがツバのデカイ帽子と、黒い服を纏っていたからよ。当に魔女そのものじゃねぇか!」
ツバの大きい帽子に黒い服...そんな人間が墓を掘り返す光景を想像すると、確かにゾッとした。そして同時に、俺はその"黒い魔女"に該当する人物が思い浮かんだ。けどまさか...そんな筈は...
街外れの森でレイラが俺を待ってくれていた。
「どうしたのですかスカイ?何かあったのですか?」
「まぁな。ちょっと酒場で...。」
俺はレイラに酒場で起きた事を説明した。するとレイラは悲しそうな表情を見せた。
「そうでしたか...。人間達の間ではそんな事が起きてるのですね。」
「俺達騎士団があんな風に言われちゃあ、身体より先に精神が参っちゃうよ。」
「ですが...それでも貴方がやらなくては、世界が滅びてしまいます。さぁ、次の予言を伝えます。」
レイラは予言者に触れ、新たな災厄を伝えてくれた。
「スカイ、次の災厄は1082年に湾岸都市アトレアで起きます。」
「何だって!?今からもう3.4年しか無いのか!」
「気持ちは分かりますが、この予言は絶対です。"黒死病"は私に任せて、魔物討伐をお願いします。」
「分かった。俺もやれるだけの事は全部やるさ!」
そして俺は騎士団本部に戻り、魔物討伐と戦力強化に取り掛かった。大災厄までのこの20年間は、正に息つくヒマも無いくらいの激戦となりそうだ。




