幕間
「おい、どうだった?」
地下から出てきたラパンに声をかけたのは、ケルトーだった。
突然の遭遇にラパンは一瞬固まったが、クレとの件を問われていることに気付くと無意識に頬を緩める。
その様子でケルトーも察したらしく「そうか、良かったな」と口端を上げてラパンの頭をわしわしと撫でた。と、ふと何かを思い出したような表情を浮かべると、その手を止める。
「ああ、そうだ。文字の勉強すんならあれやるよ」
「え?」
「ついてこい。確か部屋にあったから」
「は、はい」
待つことを知らないかのように、相変わらずさっさと廊下を歩いて行ってしまうケルトーの後を、ラパンは慌ててついて行く。
自室に着くと、早速ケルトーは棚の引き出しを開けてその中をがさがさと漁り始めた。
ケルトーの考えが分からないので、ラパンは手伝う事も出来ず、捜し物をしている様子を眺めて待つこと数分。
遂に目当ての物が見つかったらしく「おお、あった」とケルトーは屈めていた腰を伸ばし、大人しく待っていたラパンの元へ戻ってきた。
「ほらよ、俺は使わねえからお前にやる」
「え、これ……」
差し出されたのは、濃い飴色に光る万年筆だった。
蔦と花を描いた金色の繊細な飾りが刻まれているそれは、ただの少女であるラパンの目にも上等な品物だと分かる。
果たして、自分がこんな良い物を貰っていいものかとラパンは困惑するが、持ち主であるケルトーはそんな事を気にする様子は微塵も無かった。
「街に色々買いに行った時、いつの間にか一緒に買ってたんだよ。お前の手には少しデカいかもしんねえし、使い難かったら捨てちまっていいぞ」
「あっ……」
そう言うとケルトーは、半ば押しつけるように万年筆をラパンに持たせた。
咄嗟に受け取ってしまったラパンはこれ以上遠慮するわけにもいかず、それにこうして、ケルトーがわざわざ捜して自分に贈ってくれたという事実が嬉しいのも確かだったので、
「有り難うございます、……大切に使います」
手渡された万年筆をそっと両手で持ったラパンは、その白桃のような頬を甘く緩め、ふにゃりと幸せそうに微笑んだのだった。
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