#12
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表通りに出ると美咲の車が停めてあった。
夜明け前の街はまだ暗く、ハザードの光がやけに眩しかったが、悠真はこの光景を前にも見た気がしていた。
美咲を認証してドアが自動で開く。車内に転がり込んでシートベルトを締めるとエンジンがかかった。
「どちらまで?」
柔らかい音声でカーナビが尋ねる。美咲が答えるより早く、続けて音声が流れた。
「出発します。」
美咲の手が一瞬止まった。
「待って。まだ何も言ってない。」
呟いてから、美咲は行き先を手動で入力し直した。
車が滑るように発進する。
窓の外を流れる街並みは、悠真が見慣れたはずの景色だった。
しかし今日はやけに高架の継ぎ目や街路樹の根元のアスファルトの妙に古びた補修跡が目についた。
最新のインフラのはずなのにどこか風化の匂いがした。
「デジャヴ……?」
「え?何か言った?」美咲は神経質な声を飛ばしたが悠真は聞いていなかった。
車は高速道路に乗っていた。
急に現実感が降りかかってきて軽く身震いしたあと、悠真は美咲に尋ねた。
「そ、それで美咲さん……どうして俺のとこに来たの?」
自動運転なのにハンドルを固く握りしめていた美咲も、ふっと力を抜いて悠真を見た。
「私たち……ずっと監視されてた……。」
「何?」
「あの社史……。あれ……あのあともずっと読み込んでたの。」
言いながら後部座席のハンドバッグから例の社史を取り出した。
助手席の悠真に手渡す。
『日本製電株式会社沿革史』2140年版
今年の版。最新版だが何故か紙の劣化が激しい。
悠真はパラパラとめくってみた。
2100年ちょうどに起業。設立経緯と電力インフラ企業としての黎明期の記述から始まり、2度のAI戦争を経て、災害復興と事業再拡大についての復興期に関する内容が前半。
後半はほぼフリーエネルギー期となっており、ゼロポイントエナジー普及の経緯とそれに携わった人物の紹介、現在の会社概要、代表者挨拶と続き、最後はやけに膨大な年表で締め括られていた。
「何か気になることでも?」
「文章じゃなくて写真をよく見て。」
言われて悠真はもう一度最初から見直した。
設立当初の本社ビル。
創業当時の初代役員の集合写真。
戦時下の避難訓練の様子。
戦後初めての社員旅行で写した六甲山の山並み。
優秀社員の表彰式とその社員の顔写真。
そこで悠真は手を止めた。
「俺と……美咲さん?」
「年代を見て。」美咲が指差した箇所には『2126年』と銘打たれていた。
「え?そっくりさん?だって……2126年って俺たちまだ小学生だろ?」
「最初から見直して。」
美咲はまっすぐ前を向いて、またハンドルを強く握りしめた。
戸惑いながら悠真は改めて写真を見直した。
創業時。表彰式。集合写真。戦時下。社員旅行。
「……!」
どの写真にも自分と美咲らしき人物が写っていた。
そして最後のページ。
今日の日付が印字されていた。しかし紙の質感も、印刷の掠れ方も、他の古いページと変わらない経年劣化を帯びている。
写真が1枚、貼られていた。
俺と美咲さん。
明らかに俺と美咲さんだ。
見覚えのない服を着て、見覚えのない場所に立っている。
「これ……いつ撮ったの……?」
聞いても、美咲は答えなかった。ただ、写真の隅を指でなぞっていた。
小さく数字が印字されている。
『39』
「どういうこと?」
「分からない……だけど……あたしたち……。」
言いかけて美咲はバックミラーを見て悲鳴をあげた。
驚いて悠真も後ろを振り返る。
悲鳴の理由が分かった。
夥しい数の救急ドローンがこの車を追ってきていたのだ。
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