#33
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あらゆる無機物を取り込み、土塊色の顔をした途方もなく巨大な猫の顔。
それが、口を開き咆哮する。
空気が震え、悠真たちの全身を打つ。
「暴走を止めないと!このままじゃ何もかも飲み込まれてしまうぞ!」
「でもどうやって?!」
それが問題なんだよなぁ。悠真は自分で言って自分で突っ込んだ。
「ま、まずは陸に上がろう。ここにいても何にもならない。美咲さん、あそこの点検設備。あそこから登ろう……!」
指差してその壁面を目指すが、崩れ出した山からの大量の土砂がダムの中に流れ込み、波に揉まれて思うように泳げない。
「てゆーか悠真くん!あの壁よじ登れなくない?!」
美咲の言う通り、コンクリート製の壁はツルツルに磨き上げられており、手がかりはなさそうだった。
更に、点検設備は水面よりも5メートルは上の位置にある。
迷っているうちに波の高さが増してきた。
振り返ると山は完全に地滑りを起こしていた。
山が震え、山系全体が波打った。
そして立ち上がる。
山が立ち上がった!
「嘘でしょ……。」2人は同時に言った。
東西に長く伸びた山の連なりは、巨大な猫の胴体になっていた。
背中の樹木や岩石が滑り落ち、まるで豪雨のように麓の家屋に降り注ぐ。
破壊された建造物が土石流となって市街地に傾れ込む。
ビル群や商業施設まで巻き込んだ山津波は遂に海岸部まで到達し、街全体が壊滅的な被害を受けていた。
「これはかなりマズいぞ……。」
悠真はボソッと呟いた。
土石流はダムにも流れ込んでいて、全く途切れる様子がない。
それが高波となって悠真たちを襲う。
一度沈み、次の瞬間水から投げ出される。
宙を舞う2人。
悠真の目に地面が見えた。ダムの堰堤の通路だ!
波の威力でその先の外まで放り出されそうだった。
腕を伸ばして美咲の手を掴む。反対の腕で通路の手すりを掴む。
勢い余って壁に激突したが、手は絶対に離さない!
「悠真くん!悠真くん!大丈夫!内側だよここ!」
美咲の声にハッと辺りを見回す。
確かに通路の上だった。
「いやぁ、飛んだねぇ……。」
照れ隠しになんともない素振りを装ったが美咲は見ておらず、山を指差した。
「見てっ!」
猛烈な勢いでなだれ落ちる土砂の合間に小さな影が見えた。
「……さ、猿?」
はたしてそれは猿の親子だった。
母猿の背中にしがみついた子猿。その後ろにも2匹の子猿が続いている。
岩や倒木を器用に躱しながら安全地帯を目指しているようだった。
「大丈夫かしら?」美咲が心配そうに見つめている。
その時、急に悠真は閃いた。
まるで脳天を何かで貫かれたような衝撃を感じた。
『猿が交尾してるの見ちゃってさ』
『生態系はだいぶ回復してきたって話だからね』
『すごいよね生存戦略』
『他の誰とも完全には一致しない個性です』
『夢』
『r/k選択戦略』
『夢』
『一歩引いてその現象を客観的に見ることができれば自由意志でさえ大いなる意志によってコントロールされていることがきっと気づけますよ』
『夢』
『俺はずっと同じことを繰り返していたんだ』
『同じこと』
『繰り返し』
『同じこと』
『同じこと』
『同じこと』……。
「そういうことか……。」悠真は呟いた。
「え?何か言った?」尋ねた美咲の両肩を掴んで悠真は力強く言った。
「分かったよ!アイビックを止める方法がっ!」
「ど、どうするの?」
「俺に任せてくれ!美咲さんはとにかくここから離れて、どこか安全な場所に……そうだ!西中!西中で落ち合おう!俺も後で必ず行くから!」
それだけ言って悠真は手すりを乗り越えた。
「え!ちょっ!悠真くん?!」
呆気に取られた美咲を残して、悠真はダムに飛び込んだ。
「悠真くーん!!!」
美咲の叫びがダムに響く。
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