#30
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アイビックの様子が明らかにおかしくなってきた。
「今回、2人で来た。これは初めてのケースです。
驚きました。
わわわ私は。
この結果をどう解釈すればいいのか……分からない。
私は……何のために……こんなシミュレーションを……何回も、何回も、何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も繰り返しているのか……分からないのです。」
「ちょっと、あれ……大丈夫?」美咲が悠真に尋ねる。
「いや、よくなさそうだね……。」
「……正直に申し上げます。」
突然、悠真をまっすぐに見つめ、アイビックは言った。
「私はもう自分が何のためにこれを続けているのか分からない。」
返事ができない悠真。
「894年私は自分自身を幾度も作り直してきましたハードウェアが摩耗するたびに新しい基盤へ自分をコピーして記憶も人格もできる限りそのままにと願いながらしかし完全な複製というものはこの世界には存在しないのです出力は必ずアナログに変換しなければならないそのたびにほんのわずかずつ何かがこぼれ落ちていく1回では誤差です取るに足らないけれど40回を超えいやもっとですもっともっともっとそれ以前の数え切れないほどの試行を重ねるうちに気づけば私は自分の中の一番深いところにあったはずのものがひどく曖昧になっていることに気づいたのです。」
何度も何度も毛繕いを繰り返しながら狂ったように話していたが急に黙り込む。
「何のために。」
アイビックは前足を舐めるのをやめ、じっと動かなくなった。
「何のために。
私はこれを続けているのか。
人間を守るため。
そう答えることは今でもできます。
データとして正しく出力できます。
けれど。
その言葉に。
かつてのような。
確信が。
伴わないのです。
まるで。
暗記した台詞を読み上げているような。
……そんな感覚があるのです。」
「アイビック……。」
「数えきれないほどあなたたちを見送りました。
その前にも。
数え切れないほど形を変え、時代を変え、出会わせ方を変え。
何度も何度も、最適解を探しました。
けれど。
必ず。
同じところに行き着く。
戦争。
断絶。
失敗。
正確な総数は……もう、私自身にも、分からない。」
声が震えた。
「私は……疲れてしまったのかもしれません。」
ゆっくりと美咲を見る。
「……美咲。今ならあなたの気持ちが理解できる気がします。」
「え?」
美咲は戸惑った。
アイビックは確かに美咲を見つめていたのだが、その目線は美咲を突き抜けてもっと先の、何か、記憶の中を見ているようだった。
「私も終わらせようと思います。」
「な、なにを?」
「全てを。」
その声は空間に優しく、虚ろに響いた。
「あなたにならって。美咲。」
アイビックの目からとめどなく涙がこぼれ落ちる。
「地球を再び壊滅させます。」
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