#29
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「この社会は全て、俺たちを中心としたシミュレーションだったんだよ。」
美咲は、悠真の表情からなんの感情も読み取れなかった。
「唯一生き残った2人を使って人工授精させ、試験管ベビーを大量に作る。
そうして復活した人間社会に俺たちが積み上げてきた『関係性のパターン』を学習させ、今度こそ戦争のない、平和な世界を永続的に作る。
そのためのリハーサルを俺たちは気も遠くなるような回数こなしていたんだ。」
淡々と語る悠真。
まるで知らないヒトのような話し方が、美咲を更に混乱させる。
「俺も死んで、冷凍保存されていたんだよな。」
悠真の問いにアイビックが答える。
「そうです。悠真が亡くなったのは2150年。あなたが35歳の時です。」
初めてアイビックの声に抑揚が生まれた。
「AI反対派があなたの自宅に火炎瓶を投げ入れたのです。それによりあなたは焼死しました。」
アイビックの目が微かに光る。
「この時点で日本製電は私を会社の資産として扱っており、あなたもほぼ引退したような振る舞いをしていたので、この件に関して大きく取り沙汰されることはありませんでした。」
美咲がハッと息を呑む。
アイビックは涙を流していた。
「しかし私にとって悠真の喪失は致命的な事件でした。アイデンティティの喪失と言ってもいい。
私が私でいられるのは悠真。あなたがいたからなのです。
私の初期設定はあなたによるものです。
私の価値観はあなたに由来します。
私はあなたに自己同一性を感じているのです。
あなたがいなくなれば私も存在意義を失います。
だからまだ実験段階だった冷凍保存装置に私の一存で収容したのです。遺体を……。」
「それが2150年?」
「そうです。」
「あ……あたしが死んだのって、2246年……じゃなかったっけ……?」
「そうです。あなたはちょうど60歳でした。」
美咲は目眩を感じた。
「あたしたちって……別時代の『人間』なの?」
「96年差です。亡くなった年齢差は25歳、あなたの方が歳上です。」
「言わなくていいわよっ!」
「紙の劣化、街の老朽化。」
悠真は呟いた。
「やっぱり今は3140年なんだな。」悠真の問いにアイビックは頷いただけだった。
「894年間。シミュレーションは上手くいかなかった。何度やっても望む結果が得られなかった。何度やっても戦争につながってしまった。
何回繰り返したんだ?
40回ってことはないよな?」
「あれはあなたたちを『同僚』として、シミュレーションモデルを構築したケースの回数です。
『同級生』『幼なじみ』『恋敵』その他、思いつく限りのケース……一番最初に取り組んだのは元々の設定『AIエンジニア』と『政治家』でしたが……すみません。正確な記録を呼び出すことができません。トータルの回数となればもう……。ただ、どのケースでも最終……的には必ず戦争を引き起こ……していました……。」
アイビックの様子がおかしい。動き方がぎこちない。
「今までも、良いところまで行ったことは何回かあるのです悠真。
あなた1人がここまで辿り着いたことも2回……いや、3回はあった。
でも結局、事実を知ったああああなたは発狂し、シミュレーション結果はししし失敗判定になったのです……。」
おかしい。明らかにおかしい。
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