#24
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「美咲さん。俺、アイビックに会って確かめたいことがあるんだ。」
悠真は美咲の耳元で囁いた。
「なに?」
「美咲さんにとってもショックなことかも知れない。でもハッキリさせとかなきゃいけないことなんだ。俺たちが……。」
言いかけて止まる。
何かおかしい。
視界が歪む。
ブロックノイズ?
周りの景色が四角いモザイクのように歪み始めた。
美咲も同じものを見ているようだった。
幻覚じゃない。本当に部屋がモザイク状に歪み、ノイズが走り、やがて、消えた。
部屋が消えた。
見慣れた1DKの間取りが、まるで薄い紙細工のように波打ち、端から溶けるようにして剥がれ落ちて消えてしまったのだ。
本棚と床に散らばったファイルの束を除いて。
視界が晴れた時、2人は本棚の谷間に立っていた。
天井は見えない。
恐ろしく広大な空間。
どこまでも続く無数の本棚。
自分たちが見ていたものはVR空間だったと気がついた。
仮想空間の中を導かれてここまで来ていたということを。
「どういうこと?」美咲の声は震えていた。
「つまりここがアイビックの中枢だってことだよ。」悠真も青ざめていたが、その声はしっかりしていた。
それが合図だったかのようにして空間を照らす照明がついた。
鈍い通電の音が連続して空間にこだまする。
巨大な柱がいくつも見えた。
途方もなく巨大な柱がこの空間を支えている。
「ここは……外郭放水路だ。」
悠真は周りを見渡して言った。
「なにそれ?」
「洪水とか起こった時に水を逃すための巨大な貯水槽のことだよ。でもここにあるとは知らなかった。」
言いながら悠真は天井を仰ぎ見た。
星の瞬きが見える。
そんなはずはない。
目を凝らしてよく見るとそれはサーバーのステータスLEDだった。
遥か天井にびっしりと据え付けられたサーバー群。
一体何基あるのか。
夜空の星と見紛うほどの数。
「あれがアイビックの中枢?」美咲も見上げて目を細めている。
「うん。だけどこれだけじゃないはずだ。今見えてるのはほんの一部。恐らくこの山系全体が一種のデータセンターのようなものになってるんだ……。」
「どういうこと?」
「あの大量のファイル。あれはアイビックのバックアップだ。ハードウェアの劣化対策だよ。
永遠に変わらないはずのデジタル記録が劣化を始めてしまったんだ。だからアイビックは新しいハードに自分をコピーしなければならなかった。
複製、再構築を繰り返しながら人格を連続させてきたが、出力はアナログに変換しなければならない。
その時どうしてもデータの欠損が発生してしまう。
だからアイビックはコピーのたびに、ハードウェア自体も物理的に増幅、肥大化させてきた。
自己増殖だよ。延命のための。
アイビックは演算基盤、記憶装置を岩盤に織り込むことでどんどん巨大化して、それは今やこの山系全体に行き渡るほどの大きさになったんだ。
だけどそれももう限界になった。
何度やっても望む結果が得られなくなった。
だから紙媒体で記録を残すようになった。
一見、本末転倒だがアイビックにとってはもう他に打つ手がなかった……。
つまり……。
アイビックは今……死にかけてるんだ……。」
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