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#23

挿絵(By みてみん)

********************************************


ドアの向こうはまた悠真の部屋だった。


空っぽの部屋に大量のファイル。


ここのファイルは『AI Engineer』とラベリングされていた。


日本製電でAI開発に携わる悠真の経歴が記録されており、既存の国産AIを統合して『アイビック』を開発した、AI統合開発室室長となっていた。


「俺がアイビックを作ったことになっている……。」


ページをめくっていた手が急に止まる。


「どうしたの?」


「35歳の時に……じ、自宅に火炎瓶が投げ込まれて……焼死……してる……。」


「何それ!いつの話よ!」


「2150年……今から10年後。い、今が2140年だったらだけど。」


美咲はバッグから社史を取り出して年表を調べた。


「2150年。アイビック開発者……死亡。」


同じ内容。


美咲のファイルの表紙には、colleague『同僚』と記されていた。


美咲はまた別のファイルを手当たり次第に棚から引き抜いて、その先を確認した。


またドアがあった。


「お帰りなさい悠真さん。」


認証と共にドアがスライドして開く。


ドアの向こうは悠真の部屋。


部屋の奥には本棚。


本棚には大量のファイル。


ファイルには身に覚えのない経歴。


その奥にドア。


部屋。


ファイル。


ドア。


部屋。


ファイル。


ドア。部屋。ファイル。


ドア部屋ファイル。ドア部屋ファイル。


ドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイルドア部屋ファイル……。


どのファイルも日本製電株式会社の社史の体裁をとっていたが、概ね2100年から3140年までの歴史を記していた。


文体や添付されている写真はファイルによって差異が見受けられたが、どれも共通してアイビック開発の経緯とその後に起こった二度のAI大戦、そして、今現在、生き残っているたった2人の人間、アイビック開発者『佐藤悠真』と内閣総理大臣『土井美咲』(旧姓高橋美咲)のこれまでの生涯について必ず触れられていた。


「土井って誰よ……。」美咲は弱々しく呟いた。


悠真は虚空を見つめていた。


2人とも延々と続くループ地獄に心身ともに疲弊しきっていた。


ループ。繰り返し。やり直し。


悠真は自分が見た夢のことを思い出していた。


そうだ。


俺は夢の中でずっと同じ作業を繰り返していたんだ。


あれは。


夢じゃなかった。


現実だったんだ。


本当に俺は現実を繰り返し繰り返しやり直していたんだ。


いつ終わるとも知れない。


何のためにやっているのかもわからない。


同じ作業を。


ひたすら。


現実に。


夢の中で。


俺は。


たった1人で。


最後には気が狂って。


たった1人で。


奇声をあげて。


たった1人で。


何をしてたんだ。


たった1人で……。


「違うっ!」


「え?」


突然、美咲の鋭い声に悠真はハッと我に返った。


「悠真くんは1人じゃないっ!」


あれ?俺、声に出てた?


美咲は今にも泣きそうな顔になっていた。


何か言おうとしているが、一言でも発したらその瞬間、本当に号泣してしまう。だからその先が言えないでいる。


こんな美咲さんを俺は見たことがない。


彼女の感情のほとばしりが悠真の胸を貫いた。


途端に全身が熱くなる。


まるで今まで呼吸をするのを忘れていたかのように、肺に空気が満たされる。


脈動が脳を活性化させ、まとわりついていた靄を吹き飛ばした。


「美咲さんっ!」


言うのと同時に悠真は美咲を強く抱きしめた。


それが合図だったかのようにして美咲は遂に泣き出してしまった。


大声で。子供のように。


しかしそれは悲しみの涙ではなかった。


緊張の糸が切れたせいでもあったが、何よりも想いが届いたことへの喜び、安堵、言葉では言い表せない胸の内が、涙となって溢れ出していたのだ。


いつの間にか悠真も泣いていた。


しかしそのおかげで自分が取り戻せた。


自分。


今、悠真は自分というものをはっきりと意識していた。


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