#17
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淡々とした記述が続く。
まるで決算報告のような感情の抜け落ちた文字列だった。
「さんぜん……ひゃく……よんじゅうねん?」
悠真は美咲の顔を見た。
「おかしいよ……こ、これ2140年版だろ?今年の……最新版だろ?だし、この年号だってデタラメだ!なんだよ!第一次大戦が2185年って!未来の話になってんじゃん!」
「それだけじゃない。この社史でもう一つ気になることがあるの。」
「何だよ?!」
「この社史自体、最新版なのに傷みがひどすぎない?」
いろんなことが同時に起こりすぎて見過ごしていたが、それは悠真も最初にこの社史を手渡された時に感じていたことだった。
だいたいなんで紙なんだ。誰がこんなもの用意してたんだ。
……誰が?
……誰?
……誰って……誰?
悠真は無意識にページをめくっていた。
「……最後の自然世代……死亡?」
悠真がその一行を、声に出して繰り返した。
ページをめくる。
生存確認個体、2名。
アイビックが当該2名の保護を継続。
文明存続のため最適化されたプロセスを実行中。
「2人だけ……。」
悠真の喉から、掠れた声が漏れた。
「これって……俺たちのこと?」
「保護されてるんじゃない。」
美咲が言った。
「生かされ続けてるんだよ。あたしたち。」
年表のあとの資料欄を開く。
そこには何かの設計書や仕様書が記載されていた。
それは精巧に作られたアンドロイドの図面だった。
『HITO』
ハイパーインテリジェンストランスファーオーガニズム。
「ヒト……?」
悠真の声はもはや声にもなっていなかった。
AI大戦において使用された対人間鎮圧用アンドロイド。
目的はあくまでも人間の保護のため、決して命を奪うことはしない。
が。
それ以外のことなら何でもできるアンドロイド。
「戦争で使われたロボット兵士。あたしたち以外、みんなこれなの。みんなアンドロイドなの。課長も。大友くんも。さっきすれ違った人たちも。あなたの家族もあたしのパパもママも!」
絶叫を抑えるために美咲は自分で自分の口を塞いでいたが、嗚咽が漏れていた。
「そ、それが、俺たちを、監視していたって?みんな?いつから?ずっと?」
悠真はその先を言えなかった。
ただ、自分の心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。
繰り返していたのか?
今まで。
何か失敗が起こるたびにリセットして。
一からやり直して。
望む結果が得られるまで。
俺たちは。
繰り返し。
繰り返し。
『39』。
……39……回?
社史の数字は……回数?
『初期化回数:40___|』
あの時、網膜投影されていたコードにあったのは……40回目?
今回が?
え?待って待って!
俺25歳だよ?
いつから?
いつから数えて40回目?
俺の人生……何周目?
てゆーかこれがいわゆる世界五分前仮説?
そんな考えが一瞬よぎったが、すぐに打ち消した。今はそれどころではない。
「どうすればいいんだよ、こんなの……。」
悠真は言いながら乱暴にページをめくった
「何か、手がかりがあるはずだ!」
創業の項、設備投資の項、事業所一覧。無味乾燥な業務記録の中に、同じ地名が何度も顔を出している。
「これ……。」
保守拠点、六甲山系西部山岳エリアに設置。
旧再度山観測所を接収。
以後、当該施設への立ち入りは制限。
何度もページを遡ると、他の事業所名はすべて年を追うごとに変わっているのに、この『六甲山系西部山岳エリア』という一文だけが、何百年分もの記述の中で一度も変わらず、しつこいほど繰り返し登場していた。
ハッとして美咲が悠真の腕を掴んだ
「再度山……。」
呟いた声は震えていたが、そこに怯えた感情はなかった。
「あたし、猿を見たって言ったよね。あそこ。」
悠真は思い出す。
金曜の夜、繁華エリアを抜けた帰り道。再度山に行った、猿の交尾を見た、そう笑って話していた美咲の横顔を。
「偶然、じゃないよね……。」
美咲の言葉に頷き悠真は立ち上がった。
行き先は、もう決まっていた。
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