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工藤先生  作者: 加藤無理
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8/13

給食


 私は牛乳が嫌いでいつも飲まずに近くの子に渡していた。牛乳が好きな子は本当によく飲む。特に暑い夏は牛乳の量が多くなっているのに、他人より二倍も飲む子がいた。逆に私は汁物やスープが好きなのでいつもおかわりしていた。水分が足りなければ家から持ってきていた水筒から茶を飲んでいた。母が用意してくれることもあったが、去年から時々自分で用意することもあった。烏龍茶や日本茶や麦茶。特に私はよく烏龍茶のティーバッグを買って作って水筒に入れた。清涼飲料水も好きだが、母と祖母が嫌な顔をする。糖分の摂りすぎになるし虫歯になりやすくなる。朝起きて飲み物を用意して登校。下校して水筒を洗う。私の日課だった。


 牛乳を飲む必要がなかった。


 けれども一年生から五年生の時まで何度も担任から注意された。牛乳にはカルシウムをはじめとする貴重な栄養分が入っている。成長途上の子どもは飲んだ方が良い。私はしぶしぶ飲んだが、なんだか気持ち悪かった。献立がパンや洋食ならまだ我慢できた。けれども御飯や和食は我慢できなかった。二口飲むのが限界だった。


「飲める時に飲みましょう」

 工藤先生はそう言ってくれた。最初から飲めそうになかったら口をつけずに飲める生徒に渡す。飲めそうならなるべく最後まで飲む。その方が食べ物も無駄にならない。工藤先生は他の生徒にも無理強いはしなかった。嫌いなものが多い子は気が楽だった。


 私達の学級には果物・ソバ・卵・小麦アレルギーの生徒が何人かいた。工藤先生は、

「アレルギーは命にかかわることがありますからね。無理に食べないで下さい」

 アレルギーのある生徒達は羨ましそうに他の生徒を眺めていた。学校給食ではなるべくアレルギー物質を避けてはいるが、限度がある。時々、弁当を持参してくる。食べたくても食べられない。不自由ではある。


 時々、不謹慎な生徒が、

「俺、野菜アレルギーなんだ」

 と、言って肉や炭水化物ばかりを食べる。たいがい担任は呆れて、

「本当か?本当にアレルギー持っている子に失礼だぞ」

 と、注意する。工藤先生は何も強要しないので、わざわざそんな事を言う生徒はいなかった。けれども先生は時々、

「嫌いな食べ物がアレルギーでないならば、少しずつ試してみましょう。災害に備えて下さい。野菜が嫌いなのに野菜しかなかった場合、皆さんはどうしますか?」


 牛乳嫌いな私や好き嫌いある生徒は食べる日食べない日を選んで少しずつ苦手な食べ物に挑戦してみた。食べると決めたら食べ、食べないと決めたら手をつけないで他の子に食べさせる。


 私の学級は他の学級より給食の時間が少し長かった。早めに給食を取りに行って遅めに食器を返す。食べる時間が長い。掃除を始めるのが遅い時もしばしばあった。苦手なものをあえてじっくり食べるか好きなものを多めに食べるか。私達は考えながら食べた。


 先生は私に、

「牛乳の代わりに煮干しを食べるのはどうでしょう」

 と、提案してくれた。私はそれに賛成して母や祖母にそれを伝えた。母は時々煮干しを食卓に出すようになった。


 野菜が嫌いな生徒が多かった。桐乃もその一人だった。先生は野菜を食べようとしない生徒達を眺めて、

「まあ。もったいないですね。主食や肉類では得られない栄養分があるのに」

 と、呆れた。先生自身は美味しそうに野菜ばかりを食べる。肉類は少なめに煮物や野菜炒めやサラダを多めに取っている。


 私は母の作った煮物や野菜炒めが好きだったが、給食の料理は苦手だった。野菜炒めはゴボウが多くて食べづらい。煮物は何となく酸っぱい。けれども牛乳よりマシだし、食べるものが無くなるから我慢して食べていた。時々出てくるトマトや焼きナスやでたオクラやサツマイモなら私は好きだった。それでも桐乃は嫌な顔をしていた。


「どうしても嫌なら仕方ありませんが、もったいないですね」

 工藤先生はそう言うと心底美味しそうに煮物を食べる。私は不思議に思った。工藤先生は演技しているのか、本当に野菜が好きなのか。

「私も貴方達ぐらいの時には野菜より肉が好きでしたが、今は野菜が本当に好きなのですよ。大人になると好きなものも変わるのですね」

 工藤先生がしみじみ言うと私は驚いた。そんな事があるのだろうか。工藤先生は更に、

「酒を飲んだりタバコを吸ったり出来るようになると大人だと言われます。けれども私は野菜や和食が好きになった事の方が大人の仲間入りした感じがします」

 何となく酒とタバコへの憧れが私にはあった。私以上に男子の何人かは、

「あーあ、中学高校になったらタバコをこっそり吸おうかな」

「大人が飲んでもヤバイなら子どもの頃から飲んでも変わんないよな」

 と、酒とタバコに興味を持っていた。だが、先生の話を聞くとそれが幼稚に思えてくる。酒とタバコは一見すると格好良いし、いかにも大人らしい。一方、野菜を食べるのは地味でダサい。けれども先生の言動を見てみると、野菜を美味しそうに食べる方が健全で良識のある大人に見えてくる。実際そうだろう。


 私は未成年の頃からタバコを吸い酒を飲むのは見栄っ張りに思えてきた。他の生徒もそう思ったのか、野菜を少しずつ食べるようになった。


 世の中には貧困で食べたくても食べられない子どもがいる。残すなんて不謹慎だ。嫌いなものでも食べろ。他人に食べさせないで自分の分は責任持って自分で食べろ。アレルギーは甘え。世の中にはそんな事を言う教師がいるそうだ。一方、工藤先生は美味しそうに野菜を食べていた。それが食育なのだと私は思う。


 先生の言う通り気付けば今私は野菜が好きになっていた。嫌いだったゴボウの料理も作って食べるようになっている。

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