14話
警察庁舎の正面玄関は昼間でも妙に静かだった。
村上は書類を抱え、重い足取りで建物内へ入った。
拘置所の現場で目にした光景が頭をよぎる。
押さえ込まれる警備員。
飛びかかろうとする口。
これが単なる暴動で片付けられるとは思えなかった。
受付カウンターに書類を置き、村上は声を落とさずに言った。
「都内拘置所で発生している収監者の暴力事案についてです。医療だけでは把握できない状況です。現場確認の調整をお願いしたい」
受付職員は資料に目を落とし、眉をひそめた。
「申し訳ありません。正式な依頼がない場合、立ち入りや現場確認は対応できません」
村上は一歩踏み出し、声を少し強めた。
「では、**上の方を呼んでください**」
受付職員は首を横に振った。
「それもできません。上司も正式な依頼がなければ応じません」
村上は資料を抱えたまま肩を落とす。
公式ルートは閉ざされている。
現場は待ってはくれない――。
その時、低い声が廊下の端から割り込んだ。
「その拘置所の話、まだ終わってないだろ」
振り返ると、くたびれたスーツ姿の男が立っていた。
名札も肩書も見えない。
だが、その眼差しは現場を知る者の鋭さを持っていた。
「あなたは?」
村上が訊ねると、男は軽く顎を引いた。
「捜査二課だ。今は内勤だが、そこの拘置所で起きた暴力事案、最初から見ている」
村上は息を飲んだ。
「現場をご存じなのですか」
男は頷いた。
「ああ。収監者が暴れた件から、職員まで巻き込まれている。薬や精神疾患では説明がつかない」
受付職員が険しい表情で口を挟む。
「しかし、正式な依頼なしには立ち入りは……」
刑事は肩をすくめ、低く断言した。
「公式には無理だ。だが、内密なら話は別だ」
村上はその言葉に、胸の奥で緊張が走る。
**公式にはできないが、現場を止める方法がある――。**
刑事はゆっくりと続けた。
「人数を絞り、警察庁が動いた形にはせずに、現場確認の手配はできる」
村上は静かに頷いた。
これなら、現場の状況を自分の目で確認できる。
そして、この異常事態を止めるための第一歩になる。




