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未定義感染  作者: 語り屋
14/17

14話

警察庁舎の正面玄関は昼間でも妙に静かだった。

村上は書類を抱え、重い足取りで建物内へ入った。

拘置所の現場で目にした光景が頭をよぎる。

押さえ込まれる警備員。

飛びかかろうとする口。

これが単なる暴動で片付けられるとは思えなかった。


受付カウンターに書類を置き、村上は声を落とさずに言った。


「都内拘置所で発生している収監者の暴力事案についてです。医療だけでは把握できない状況です。現場確認の調整をお願いしたい」


受付職員は資料に目を落とし、眉をひそめた。


「申し訳ありません。正式な依頼がない場合、立ち入りや現場確認は対応できません」


村上は一歩踏み出し、声を少し強めた。


「では、**上の方を呼んでください**」


受付職員は首を横に振った。


「それもできません。上司も正式な依頼がなければ応じません」


村上は資料を抱えたまま肩を落とす。

公式ルートは閉ざされている。

現場は待ってはくれない――。


その時、低い声が廊下の端から割り込んだ。


「その拘置所の話、まだ終わってないだろ」


振り返ると、くたびれたスーツ姿の男が立っていた。

名札も肩書も見えない。

だが、その眼差しは現場を知る者の鋭さを持っていた。


「あなたは?」


村上が訊ねると、男は軽く顎を引いた。


「捜査二課だ。今は内勤だが、そこの拘置所で起きた暴力事案、最初から見ている」


村上は息を飲んだ。


「現場をご存じなのですか」


男は頷いた。


「ああ。収監者が暴れた件から、職員まで巻き込まれている。薬や精神疾患では説明がつかない」


受付職員が険しい表情で口を挟む。


「しかし、正式な依頼なしには立ち入りは……」


刑事は肩をすくめ、低く断言した。


「公式には無理だ。だが、内密なら話は別だ」


村上はその言葉に、胸の奥で緊張が走る。

**公式にはできないが、現場を止める方法がある――。**


刑事はゆっくりと続けた。


「人数を絞り、警察庁が動いた形にはせずに、現場確認の手配はできる」


村上は静かに頷いた。

これなら、現場の状況を自分の目で確認できる。

そして、この異常事態を止めるための第一歩になる。

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