12話
廊下の騒音を背に、村上は医療担当者を強引に呼び止めた。
「少しだけで構わない。あの警備員の経過を教えてくれ」
医療担当者は荒い息をつき、警備員を見つめながら答える。
「……噛まれた後、しばらくして体調不良を訴えました。めまい、吐き気、そして意識を失いました」
「目を覚ました後は?」
「目を覚ました直後、周囲に襲いかかりました。力が異常で、言葉も通じません。初めは暴動の延長かと思いました」
医療担当者は視線を逸らし、言葉を慎重に選ぶ。
「でも……拘置所職員が薬物を使用しているはずもないのに、同じ症状になった。しかも、噛まれた者が同様の行動をとる……この段階で、感染症の可能性も否定できません」
村上は一瞬、言葉を失った。
「……感染、ですか」
「ええ。まだ確定ではありません。ただ、単なる暴動や精神異常だけでは説明できません。現象が連鎖的に起きている以上、疑わざるを得ません」
村上は視線を警備員に戻した。
血のついた手で同僚に襲いかかる姿。
その瞬間、恐怖が全身を走る。
「……噛まれたら、感染するのか……」
言葉にならない声で、村上はつぶやく。
頭の中で計算が走った。
一人が噛まれれば、また別の誰かに襲いかかる。
それが連鎖すれば、**この閉鎖空間だけでなく、外部へも一気に広がる可能性がある**。
「国は、こうした状況を把握して、動いているのですか」
医療担当者は肩をすくめ、声を落とす。
「報告はしてありますが、現時点では正式に危機として扱われていません。根拠が断片的すぎて、官庁が動く判断材料にはなりません」
村上は冷や汗をかき、声にならない息を吐く。
目の前の現象が、理屈だけで収まるものではないことを理解した。
**噛まれたら感染する。このルートなら、被害は爆発的に広がる――制御不能だ**。




