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黒竜の相棒 ―兄を救うため、僕は戦う!―  作者: 魔天使
【アザンの章】

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8/12

暗き森の白き影

森を抜ける風が、ひどく冷たかった。

それはまるで、あの日、

すべてを失った夜の風のようだ。


ライズの体を支えながら歩くたび、

胸の奥に焼けるような痛みが広がる。


「忌々しい…一体誰がこんな封印を」


目覚めた時、身に覚えのない封印がかけられていた。

それは動きを封じ。肉体を蝕んだ。

それでも、最後の力を振り絞ってそれを破った。


300年。体を癒すには十分だと思ったが、

どうやら邪魔をする者がいるようだ。


「さて、まずはこいつをどうするか…」

腕に抱えられた少年は黒竜の器。

ブラックに利用される前に処分するべきか。

アザンの右手が黒みを帯びて竜の鋭い爪へと変わる。


「クラ……ウ、ダ……」


ボソリとライズが呟いたその言葉に、

かつての妻の最期が重なり、

喉元まで来ていた手がピタリと止まる。


「……私は、また……」


木々の間を抜ける霧は、

まるであの日の白煙のようだった。


燃え落ちる村。炎に照らされたカレンの横顔。

彼女は、笑っていた。

「あ……ザ、ン……。あなた……を、信じて……る」

次の瞬間、紅い花が咲いた。


(あの時、私は“人間を信じていた")


カレンは最後まで私を庇い、

村人たちは彼女を“竜の(つがい)”として殺した。


人の手で命を奪われたその瞬間から、

私は世界を憎むことしかできなくなった。


(全ての人間が悪では無いと、分かっていたのに……)


微かに息をするライズの頬に、夜の光が差す。 


ザワリと背中を過ぎる気配。

立ち止まり、耳を澄ませた。


風が止んだ。鳥も虫も声を潜めている。


——この沈黙。何かが来る。


振り返った瞬間、空気がわずかに光を帯びた。

白い靄のような魔力が流れ、周囲の影が後退する。


「……この気配。まさか、白竜……?」

姿を現したのは、月明かりを背に立つ一人の青年。


髪は純白に月光を受け輝き、瞳は冷たい青色。

人のようで、人ではない。

「おや、僕に気づくとは。さすがは古き竜だね」


その声には不思議な響きがあった。

威圧でも敵意でもない。

ただ“観察”しているような、淡白なもの。


「僕はレウコン。白竜の末裔さ——そして君は、黒竜アザンだね?」

「白竜の末裔が、何の用だ」

「用なんてないさ。ただ、"(ことわり)が乱れた音"がしただけさ」


読めない言動、何を企んでいるのか。

「しかし、白竜が生きていたとは驚きだ。もう、滅んだものだと思っていた」


構える、白竜は黒竜に恨みを持っている。

いつ襲いかかって来ても、おかしくは無い。


「そんなに警戒しないで欲しいなぁ、それよりもお兄さん、面白いものを持ってるね?」


レウコンの指差す先は、

腕に抱えていたライズだった。


「こいつを、どうするつもりだ」

赤く光る目で睨みつける。


「お兄さんこそ、どうするつもりだったのさ?」

どこか楽しそうに笑みを浮かべるレウコン。


言葉に詰まっていると、

一瞬で光に包まれ、目の前が真っ白になった。


「ッ……!!」


「大事な事を教えておくよ。君の封印も、大事な人を殺したのも。ぜーんぶ白竜の仕業だよ」


あまりにも軽い告白。


「何だと!?」


「あと、この子は僕がもらっておくよ。色々と使えそうだからね」


森の上空に、白い光だけが細く残っていた。

その光の中に、あの少年の姿も、


――ライズも消えていた。


アザンは空を仰ぐ。

喉の奥から、言葉にならぬ音が漏れた。

それは怒りでも嘆きでもない。

ただ、胸の奥を焦がす懐かしさに似た痛みだった。


「また……奪われたのか」


爪を握りしめる。

指先から流れる血が、滴り地面を静かに濡らした。

だが彼の目は、ただ虚空を見つめていた。


思い出す。

かつて妻を抱きしめた腕。

その温もりを、

自らの怒りで踏みにじった日のことを。


「憎めると思っていた……人など、滅ぶべきだと……」低く呟く声が、夜の大地に染み込む。


それでも、ライズを殺せなかった。

少年の瞳の奥に、かつての妻と同じ“光”を見たからだ。


「……愚かだな、我ながら」


大地が鳴動する。

彼の周囲を取り巻く黒い霧が、次第に収束し、

彼の背に二対の巨大な翼を形作っていく。

声は低く、しかし確かな殺意を帯びていた。


「私を弄ぶとは……いい度胸だ。白竜め」


そしてアザンは、再び立ち上がる。

胸の奥のどこかで、“竜の鼓動”が確かに鳴った。

それは、長き眠りから目覚める“戦いの予兆”だった。

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